晩秋の岩手県盛岡市は、ひんやりとした空気に包まれていた。市中心部の程近くにある市立「先人記念館」。展示内容や市と連携した「先人教育」などを取材し、十一月二十七日付の本紙で紹介した。
記念館には石川啄木、宮沢賢治ら近代以降、文化、政治、経済など各分野で活躍した盛岡にゆかりがある百三十人の資料が展示されている。開館二十年。市内小中学校の先人について学ぶ教育を支援し、社会人には講演会や公民館講座を催している。
市を挙げて先人を活力源にしているのには感心した。「ブランド」と位置づけ、「賢治や啄木をはぐくんだ文化都市盛岡へ」と、観光客や企業誘致に活用している。担当者は「県外では盛岡の正確な位置は分からなくても、賢治らの名を出すと反応がいい」。セールスポイントとなった先人たちは古里に貢献でき、喜んでいることだろう。
さて、「岡山でも同様の取り組みはできませんか」と関係者に問い掛けた。就実大名誉教授の柴田一氏は「岡山をアピールする手段になりますね」。県内にはすでに、犬養木堂や竹久夢二をはじめ個別の顕彰施設があり、これらと連携し、インターネットも活用しては、という意見もあった。
先人の「顕彰」とは、もろ手を挙げて礼賛することではないだろう。成功例だけではなく、先人がどんな失敗に遭遇し、困難をどう乗り越えたかに思いを致すことにも意義があるのではないか。先人に学び、先人を生かす。人口約三十万人と岡山市の半数に満たない盛岡市の試みは参考になる。
(特別編集委員・江草明彦)