◎七尾の震災工事談合 発注側の責任も問われる
七尾市が発注した能登半島地震に伴う下水道復旧工事の指名競争入札をめぐる談合事件
は、県内で摘発が相次いだにもかかわらず、自治体発注工事に巣くう談合の根深さをあらためて浮かび上がらせた。99・8%という極めて高い落札率は、業者が予定価格を事前に知り得た可能性も考えられ、発注者側の関与を疑われても仕方ないほどの不自然さである。
地震復興事業で被災自治体の財政が圧迫される中、その災害復旧工事で受注調整して不
当な利益を得ようとするのは「火事場泥棒」にも似た悪質さと言え、結果として、それを防止できなかった発注者側の責任も問われかねないだろう。事件は今後、どんな展開をたどるか分からないが、七尾市は県警に全容解明を委ねるだけでなく、業者選定や入札の過程で問題がなかったか徹底的に検証してもらいたい。
問題となった入札では、参加した十業者の応札価格は最高額の千四百三十五万円から五
―十万円ずつ下がっており、それぞれ独自に積算した価格でないことは明らかである。逮捕された業者が他の業者に価格を指示した疑いも出ている。
能登半島地震によって道路や下水道など多くの災害復旧事業が発生したが、このように
同様の工事が集中する状況になれば、落札者を順番に決める「ローテーション」が起きやすいと言われる。発注する側も災害復旧は緊急性を要するとして、競争を促すより、遅滞なく確実に工事を実施したいという意識が働きがちである。今回のような入札参加業者の不自然な応札状況は、逮捕された業者が落札した別の災害復旧工事でもみられ、談合が繰り返されていた可能性は否定できないだろう。
昨年から今年初めにかけて志賀町で談合が摘発されたほか、行政に寄せられる談合情報
も後を絶たない。発注者側は談合がはびこっているという認識を前提に、一般競争入札の拡大や罰則強化など談合をやりにくくする手立てを講じる必要がある。
指名競争入札に関しては、地元業者の育成という理由も挙げられるが、地元業者の保護
策を過度に強めると「談合の温床」になりやすいことは過去の事件を見ても明らかであり、発注者側はその兼ね合いを慎重に見極めてほしい。
◎万能細胞研究 オール日本で進めねば
人の皮膚細胞から万能細胞をつくった京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らのグル
ープの成功が世界の研究者に衝撃を与えた。
受精卵を用いるクローン技術で羊のドリーを誕生させた英国のイアン・ウィルムット博
士が、山中教授らの研究の進展を知って驚嘆し、万能細胞づくりの本命とされたクローン技術の研究の放棄を発表したと報道されたほどである。日本の方法の方がはるかに上回ると判断したからだろうといわれている。
政府は山中教授の進言に基づき、万能細胞の研究を今後「オール日本態勢」で進めてい
くことを検討するという。研究者が競い合っている医学の最先端分野での、世界に先駆けた画期的な成功だから人類に役立つものに発展させていくためにも、ぜひそうしてほしい。
山中教授らと同時に、米国のウィスコンシン大の研究グループが同じ手法の成功を発表
した。が、山中教授らは動物実験で一足先に成功しており、日本VS米国のレースの構図になってきたようである。オール日本態勢が必要なゆえんだ。
京大グループは作製した万能細胞を「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」と名付けた。
万能細胞というのは別の細胞に成長する能力を備えた細胞のことである。それを移植することによって傷んだ臓器や組織などを修復する夢の再生医療の決め手として脚光を浴びているものだ。
万能細胞の代表的なものに受精卵(胚(はい))からつくる胚性幹細胞(ES細胞)が
あるが、これは生命に育つ受精卵を壊してつくることから倫理に反するといわれている。
山中教授らのiPS細胞は人の皮膚の細胞に遺伝子やウイルスを導入してつくることに
よって倫理問題をクリアした。この点で画期的なのだが、「つくり方」が分かったというのが現段階だ。
つくり方が分かっただけでもたいしたものなのだが、今後は発がん性を排除するなど安
全性の確保の研究を進めて本当に有用なものに仕上げていくとともに、iPS細胞から精子や卵子をつくるなど新たな倫理問題が起こる可能性もあり、それをクリアするためのルールづくりも必要になってくる。