戦争犯罪や大量虐殺などを裁く国際刑事裁判所(ICC)の判事補欠選挙がニューヨークの国連本部であり、日本から立候補していた外務省の斎賀富美子人権担当大使がトップ当選した。
日本人が選出されたのは初めてだ。今年十月にICCの設立条約締約国になったばかりの日本にとって、本格的な人的貢献の始まりといえよう。今後の積極的な活動を大いに期待したい。
斎賀氏は丸亀市の出身だ。駐ノルウェー大使を務めていた二〇〇五年、北朝鮮による拉致問題など人権問題の交渉に当たるため新設された人権担当大使を兼務した。外務省では人道や人権問題の専門家として知られる。
補選は定員十八人の判事のうち、三人が辞任したのに伴い行われた。日本、フランス、ウガンダ、トリニダード・トバゴ、パナマから五人が立候補、斎賀氏が最多の八十二票を獲得した。斎賀氏は「裁判官として勉強し、心して取り組んでいきたい。(今回の当選が)日本国内でICCの使命を理解するきっかけになってもらえれば」と抱負を述べている。
ICCは、人道に対する罪、大量虐殺、戦争犯罪を犯した個人を国際法に基づいて裁く常設の国際法廷である。設立条約が一九九八年にローマで採択され、二〇〇二年七月に発効した。現在、欧州、アフリカを中心に百五カ国が加盟、裁判所はオランダ・ハーグに設置されている。
第二次大戦後の東京裁判、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷など戦争を裁いた国際法廷は過去にも例があるが、いずれも臨時の裁判だった。常設の裁判所としてはICCが史上初で、国際的に「法の支配」を推進する意味でその存在意義は大きいといえよう。国家元首でも訴追を免れることはできず、権力者や軍による残虐行為などへの抑止効果も期待される。
これまでに、ウガンダやコンゴ(旧ザイール)の武力紛争、スーダンのダルフール紛争などを扱ってきたが、課題は米国や中国、ロシア、東南アジア諸国の多くがICCへまだ加盟していないことだ。特に米国は、世界各地に展開する自国兵士が不当に訴追される恐れがあるとして消極姿勢を崩していない。
国際司法への人的貢献を強めることは、国際社会での日本の地位を高めることにもつながろう。日本人裁判官の誕生は、人道や人権を守ろうとする強い意思を世界に示すチャンスだ。ICCの機能強化に向けて実績を積み上げることで、加盟国を増やしていく役割も求められよう。
自民党は、食品偽装問題など国民生活を脅かす問題が多発している状況を受け、消費者保護策を検討する「消費者問題調査会」を設置した。来年三月末にも対応策を取りまとめ提言する方針だ。
福田康夫首相は、自民党が先の参院選で生活重視を掲げる民主党に大敗した反省から、国民の安全・安心に軸足を移す政治を打ち出している。所信表明演説では「政治や行政の在り方すべてを見直し、真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換する」と強調した。
調査会の設置は、この方針を党サイドからも進めようというものだ。食品偽装のほか、マンションの耐震強度偽装や悪徳商法など幅広く取り上げ、関係省庁や消費者団体、不祥事を起こした企業などから事情を聴き対策を協議する。
この問題では福田首相が十一月二日、全閣僚に国民生活に直結する法令や施策の総点検などを指示し、取りまとめが進んでいる。首相の諮問機関である国民生活審議会は、来年春をめどに、「食べる」「作る」「暮らす」など生活に関係が深い五分野について、消費者・生活者の視点から行政の在り方を検討中だ。
食や住まい、健康など身近にさまざまな危険が潜んでいる。消費者軽視の風潮をはびこらせた原因は、業者らの利益最優先の意識のほか、不作為やあいまいな規定といった生活者の視点を欠いた行政はもちろん、根底には政官業の癒着構造がある。
福田首相の方向性は正しい。実現させるには国民の声を踏まえた積極的な取り組みと、国民生活センターなど直結する機能の充実が欠かせない。選挙対策のポーズに終わらせない首相の本気度と指導力が問われる。
(2007年12月4日掲載)