◇有効性のデータ分析必要
厚生労働省の研究班(主任研究者、大関武彦・浜松医科大教授)が子ども(6~15歳)のメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準をまとめ、関係学会とすり合わせて合同基準とする方針を決めた。子どもの基準策定は世界でも先駆的な取り組みだが、「成長過程にある子どもに、固定した数値をあてはめるのは無理がある」などの批判も出ている。
まとまった基準によれば、大人と同様、腹囲が基準に該当したうえで、血圧や血液検査の値が基準値を二つ上回ると同症候群と診断される。子どもが成長していることを考慮し、腹囲の基準は中学生は80センチ以上、小学生は75センチ以上、もしくは「腹囲(センチ)÷身長(センチ)」が0・5以上とした。
腹囲が基準を超えると、動脈硬化につながるとされる検査値の異常が急増するため、同症候群該当者を高い確率で見つけ出せるとした。
成人の場合、同症候群にあてはまると、動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などで突然死するリスクが高まるとされる。
子どもの基準を策定したことについて、研究班の大関教授は「子どものころには具体的症状は出ないが、基準に合致する子どもの血管では、動脈硬化が始まっている。子どもの時に身に着けた正しい生活習慣は、大人になってからの突然死を防ぐ」と説明する。
文部科学省の学校保健統計の06年度速報では、10~17歳の各年齢で10人に1人が肥満傾向だった。生活習慣の乱れが原因とされ、糖尿病患者の約9割を占める2型糖尿病は「中高年の病気」と考えられてきたが、子どもが発症するケースが増えている。
ただ、基準導入の効果については未知数の部分が多い。大関教授は「子どもに対する効果的な食事療法、運動療法はこれから検討する」と語る。
日本肥満学会が先月開いた子ども向け基準を検討するワークショップでは、腹囲の基準策定を巡る議論の過程や、そこで出されたさまざまな意見が紹介された。
原案では小学生向け基準は設定されていなかったが、腹囲が基準以下でも血圧などの値が悪い小学生が多く、小学生向け腹囲基準が加えられた。子どもの肥満症では、従来、身長と体重を基に計算する肥満度が広く使われており、「それで十分」との意見もあったというが、研究班のメンバーは「まずこの基準を使い、有効性を評価してみてはどうか」と呼びかけた。
これに対し、大櫛陽一・東海大教授(医療統計学)は「基準値を超えた子どもが将来どうなるかが明らかになっておらず、科学的根拠に乏しい」と指摘する。
大人の診断基準を巡っては、腹囲のサイズに一喜一憂する事態を招いた。男性より女性の腹囲の基準の方が大きいなど、海外の基準との違いもあり、是非に関する議論が続く。基準策定の中心となった日本肥満学会は先月、「腹囲ばかり注目されるが、他の検査値の改善も重要だ。正しい理解を」との異例の声明を発表した。
偏食や運動不足など、子どものころから改善すべき生活習慣が多いことは確かだ。しかし、大人のように腹囲の数字が独り歩きすれば、基準を超えた子どもへのいじめなどを招きかねない。同症候群についての大人の診断基準も2年半前に策定された「生まれたての概念」だ。基準の普及より前に、基準の有効性を評価するためのデータ蓄積と分析が求められている。
==============
■子どものメタボリックシンドローム診断基準■
(1)腹囲
中学生80センチ以上、小学生75センチ以上、もしくは腹囲(センチ)÷身長(センチ)が0.5以上
(2)検査数値
・血中脂質(血液1デシリットル当たり)
中性脂肪120ミリグラム以上もしくはHDLコレステロール40ミリグラム未満
・血圧(単位ミリHg)
収縮期125以上もしくは拡張期70以上
・空腹時血糖(血液1デシリットル当たり)
100ミリグラム以上
※(1)に該当したうえ、(2)のうち2項目に該当するとメタボリックシンドロームと診断
毎日新聞 2007年11月10日 東京朝刊