教育

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

クローズアップ2007:昨年度いじめ認知6倍、自殺6件 調査精度に限界

 ◇1000人当たり…熊本50.3件、鳥取2.1件

 文部科学省が15日公表した06年度のいじめ実態調査では、いじめ認知件数の約1割が熊本県に集中し、都道府県別の1000人当たりの認知件数は、最大24倍もの開きが出た。厳密過ぎた「いじめの定義」を緩やかにし、正確な実態把握を目指した今回の調査。予想通り件数は6倍を超える大幅増だったが、手法がバラバラだったり、徹底して調査していない自治体もあり、精度に疑問符がつく結果となった。【高山純二、山本紀子】

 ●苦渋の文科省

 「調査の取り組みに差があるのは、否めない。限界がある」。いじめの割合が都道府県で著しく違ったことについて、文部科学省児童生徒課の幹部は苦渋の表情を見せた。

 いじめは熊本県や福井県で突出して多い。今回の調査ではそんな奇妙な結果が出た。1000人当たり認知件数は、最多の熊本県が50・3件だったのに対し、最少の鳥取県は2・1件にすぎなかった。

 ●現状把握に差

 熊本県は、県内から文科相に自殺を予告する手紙が届いた昨秋、小中高生全員にアンケートを実施。無記名で自由に記述させたところ、約3万人からいじめの訴えがあった。この数値を基にさらにアンケートや面談を行い、1万1205件のいじめを報告した。

 全国2位の福井県は昨秋以来2度、子供全員にアンケートを行い、現状の把握に努めた。同県教委は「数値が現実に近いものだと胸を張れる」と話す。

 これに対し、鳥取県は「他県より少ないというが、昨年より3倍に増えた」という。しかし、全校で行ったアンケートでは名前を記入させているため、被害を訴えにくい状況もあったとみられる。

 ●聞き取りせず

 また、文科省は各都道府県に、調査する際、児童や生徒から直接聞き取りするよう指示しているが、3番目に少なかった広島県は「全校でアンケートをしているわけではない」、2番目の和歌山県も「教員が生徒とのかかわりで認知したいじめを報告した。個別にアンケートしたか把握していない」と説明。調査が徹底しておらず、実態を反映しているとは言えない。

 ●統計にズレ

 さらに、文科省が公表した自殺者は171人だが、警察庁の06年統計では315人(小中高生)。統計の期間は文科省調査が4月~07年3月、警察庁は06年1~12月とずれがあるものの、その開きはあまりに大きい。

 文科省の担当課は「『自殺ではなく、事故扱いにしてほしい』という遺族もおり、この調査には主観が入り込む余地もある。警察庁の統計に挙げられていても、こちらでは確認できなかった案件もあった」と打ち明ける。

 カウントされなかった案件に「いじめ自殺」が潜んでいる可能性も否定できない。

 ◇「一方的」「継続的」「深刻」の3要件を撤廃--子ども重視の定義に

 いじめの認知件数が前年度に比べて6倍以上になったのは、いじめの定義を変えたほか、調査方法の変更が背景にある。

 文科省は従来「子供が『いじめられた』と訴えれば件数に数える」と指導していた。しかし、学校現場では、管理職や教員の評価に悪影響を及ぼしかねないことから、いじめの件数を報告しにくい雰囲気があるとされ、子供らの訴えが直接反映されていなかったと指摘される。このため、新しい定義では児童・生徒の側に立つという考えを強調し、「いじめ」と判断されにくい要因だった「一方的」「継続的」「深刻」の3要件を撤廃した。

 また、児童や生徒への調査方法については、いじめの有無を直接子供たちに聞くことを事実上義務化した。ほとんどの学校が個別面談(複数回答、77・8%)やアンケート(71・5%)、生活ノートなどの日記(55・5%)を取り入れた。

 さらに同省が重視するのは、いじめを認知した後の対応だ。調査では新たにいじめの加害者、被害者別の対応を聞いたほか、個々のいじめへの対応も調査した。「いじめが学校にあることは決して恥ずかしいことではない」と再三呼びかけ「認知-対応-解決」につなげるよう求めていた。

 ◇小さないじめ「見逃さずに」 深刻なケースを防止--河村茂雄・都留文科大教授(心理学)の話

 05年に小中学生1万人弱を独自に調査した結果、いじめの発生率は小学校3・6%、中学校2・0%だった。「1000人当たりの認知件数」に換算すると20~36件になり、文科省調査の全国平均8・7件はかなり少ない数字だと思う。しかし、都道府県によっては、小さないじめも把握して積極的に対応しようという姿勢が見られる。いじめは(1)人間関係のあつれきタイプ(2)遊びタイプ(3)非行タイプ--の3段階に分けられる。非行タイプだけを把握するのではなく、人間関係のあつれきタイプから幅広く把握に努めるべきだ。それが深刻な問題を生む非行タイプのいじめの未然防止にもつながる。この意味で「1000人当たりの認知件数」が高い県を単純に批判するのは短絡的である。今後も、小さないじめを見逃さない「予防開発的」な視点を持ち続けていくべきだ。

==============

 ■06年度のいじめ認知(発生)件数と1000人当たりの件数

    いじめ認知件数       1000人当たりの認知件数

北海道   7915(  760) 13.0(1.3)

青森    1218(  431)  7.0(2.6)

岩手    1559(   69)  9.5(0.4)

宮城    2468(  369)  9.0(1.4)

秋田    1303(   98) 10.4(0.8)

山形     979(   98)  6.8(0.7)

福島     741(   37)  2.8(0.1)

茨城    3471(  594)  9.8(1.8)

栃木    1958(  322)  8.2(1.5)

群馬    2295(   92)  9.7(0.4)

埼玉    3724( 1219)  4.8(1.7)

千葉    8766( 1871) 13.4(3.2)

東京    7858(  957)  6.5(1.1)

神奈川   5879( 2019)  6.5(2.5)

新潟    1585(  488)  5.6(1.8)

富山    1477(  163) 12.1(1.4)

石川    3647(  143) 26.7(1.1)

福井    3640(  114) 36.2(1.2)

山梨     687(   79)  6.3(0.8)

長野    1981(  134)  7.6(0.5)

岐阜    7538(  357) 30.1(1.5)

静岡    2298(  844)  5.3(2.1)

愛知   10571( 2597) 12.6(3.4)

三重     952(  314)  4.3(1.5)

滋賀     490(  117)  2.9(0.7)

京都     931(  154)  3.2(0.6)

大阪    4170( 1110)  4.3(1.3)

兵庫    2206(  942)  3.4(1.6)

奈良    1095(  220)  6.6(1.5)

和歌山    308(   86)  2.5(0.7)

鳥取     152(   40)  2.1(0.6)

島根     544(  141)  6.3(1.7)

岡山    1909(  456)  8.3(2.2)

広島     932(  347)  2.8(1.2)

山口    1585(  376)  9.7(2.5)

徳島     557(  160)  6.2(1.8)

香川    1013(  196)  8.9(1.8)

愛媛    1824(  186) 10.8(1.2)

高知     527(  129)  6.0(1.7)

福岡    2019(  160)  3.5(0.3)

佐賀     397(   27)  3.5(0.3)

長崎    2784(  278) 15.0(1.6)

熊本   11205(   90) 50.3(0.4)

大分    2853(  190) 20.4(1.4)

宮崎     688(   49)  4.8(0.4)

鹿児島   1431(  157)  6.6(0.8)

沖縄     768(  363)  3.7(1.8)

計   124898(20143)  8.7(1.5)

 ※カッコ内は05年度の件数

毎日新聞 2007年11月16日 東京朝刊

教育 アーカイブ一覧

ライフスタイルトップ

ニュースセレクトトップ

エンターテインメントトップ

 

おすすめ情報