文部科学省が毎年まとめている「児童生徒の問題行動」調査結果が出た。中でも注目されたのは件数が激増した「いじめ」だ。だが、この数字から何を読み取り、どう教訓として生かすのか。
昨年秋以来相次いだいじめ自殺やその隠ぺい問題から、文科省はいじめの「定義」を改め、学校現場に実態把握のやり直しを促した。この結果、今回の06年度の件数は小、中、高校、特殊教育諸学校合わせ約12万5000件。今回から調査対象に加えた国立、私立を除いて比べても前年度の2万件余から一気に6倍近く増えた。
従来文科省はいじめを「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」とし、その視点で実態調査も行われてきた。今回は「児童生徒が、一定の人間関係のある者から心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と改め、被害者の側に立って判断する考え方に転換した。内心傷つき、苦悩している子の早期発見を重視したのだ。
昨年10月、北海道で少女がいじめを苦に遺書を残し自殺していながら学校も地元教育委員会も事実上無視していた問題が表面化。全国で新たな事件や自殺もあり、学校の対応のずさんさも露呈した。
その反省から新定義で調べた結果、認知件数が急増したとも解釈できる。だが、このような大きな件数変動は単なる「定義変更」だけからとは思えない。従来の調査は何だったのか、おざなりな面はなかったかという疑念もわく。
さらに、今回も地域のばらつきが出た。児童生徒1000人当たりのいじめ認知件数が50・3から2・1と都道府県によってけた違いの差があるのだ。実態をそのまま反映した数字とは考えにくい。調査の精度や手法、意識の差異が相当あるのではないか。
何らかのいじめに遭っていたと認知された自殺者は6人、うち1人はこれまで公になっていなかった。文科省は児童生徒の全自殺者数も掌握しきれていないとし、これも確定値とはいえないという。
しかし、数値統計もさることながら、最も重要なのは調査を今後の教育現場の指導にどう生かすかにある。国会でも論議が高まっていた昨年末、文科省の有識者会議は、旧来の調査が「事態を正確に反映していないとの批判がある」と認め、調査法を見直して「実態を正確に把握し、分析していかなければならない」と指摘した。
今回の調査がまさにそれだったはずだが、当局にその姿勢が見えない。例えば、自殺について文科省は個別状況の報告を受けているが、それがいじめを原因としているかどうかは「学校や教育委員会が判断すること」という具合だ。
以前に事例集などは発行されているが、空前の件数を集約した今回のデータは「教訓の海」のはずだ。ネットいじめなど新たないじめ形態も現れている。数字を集め、型どおりの分類をし、まとめる。そんなことにとどまっていては新状況にも対応しきれない。
毎日新聞 2007年11月16日 東京朝刊