最終更新時刻:2007年12月4日(火) 0時53分

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パブコメのすすめ

公開日時:
2007/11/13 02:27
著者:
クロサカタツヤ

パブリック・コメント周辺がこのところ騒がしい。

きっかけは「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集や、「同分科会私的録音録画小委員会中間整理」に関する意見募集などだろう。Blog界隈では特に後者の「違法ダウンロードの(著作権法における)私的利用からの除外」がクローズアップされているが、前者にも検索エンジンにおけるキャッシュやクロールの問題、またフェアユースの議論など、重要な論点があちこちに散見される。

これまでも「知的財産推進計画2006」の見直しに対するアップルジャパンの意見表明(現在は意見撤回により削除されている)が巷を騒がすなど、パブコメが注目される例はいくつかあった。しかし今回は「自分でも書いてみようかな?」という人が少なからず存在しているように思う。

しかし、いざ書いてみようとすると、書き方がよく分からかったり、あるいは「自分一人の意見なんて意味ないんじゃない?」とか「所詮パブコメって儀式でしょ?」と誤解してつい及び腰になってしまう人も少なくないようだ。しかしせっかく書く気になったなら、それはとてももったいないことである。そこで今回は、パブコメの位置づけと書き方について、いくつか気づいたことをまとめてみたい。

パブコメとは何か?
パブコメの定義はこのあたりを見るのが正確だろう。端的には、行政機関が何らか命令(政令、省令等)を出す際には、事前に「こんなの考えてるけどどうかな?」と国民に意見を求める義務がある、ということだ。またこの他、重要課題なので任意に意見を徴集したいというものもある(今回の文化審議会のパブコメはそれに該当する)。従って分野は多岐にわたるし、11月13日現在で132件もの意見募集が行われている(※文末に追記)。

定義のページを呼んでみると分かるように、意見募集する行政機関は、パブコメで寄せられた意見を十分考慮する義務(行政手続法第42条)や、考慮結果の公示義務(同第43条)を負う。任意の場合も基本的な手続きはこれに準じると考えていいだろう。すなわち、寄せられた意見には何らか対応しなければならない、ということだ。こう書くと「まあそりゃそうでしょ」と流されてしまいそうだが、募集を受け付ける行政機関にとってはかなり重い義務である。

実際、パブコメで寄せられた意見は、担当の行政官たちによって分類・集計され、また意見内容に関する答申案がまとめられる。従って、声の強い・大きい意見については、相応の論理性や説得力のある答申が必要となる。また場合によっては、必要に応じて審議会や委員会の委員にフィードバックが返されることもある。すなわちパブコメは、行政機関が提示する案の内省や再検討の契機となっているのだ。

従って「パブコメなんて儀式でしょ?」という認識は正しくない。もちろん省庁によって取扱いの流儀は異なるし、いちゃもんのごとき意見はまともには相手にされない(それですら対応は一応される)が、それは行政機関に限らずとも当然のこと。少なくとも私の知っている官僚たちは全員、きちんとお作法に則って出された意見は相当重く受け止め、深夜まで苦吟しながら対応策を練っている。

多数決ではない、けれど…
パブコメは多数決によってその後の検討の対応が変わるものではない、ということになっている。前述の文化審議会の中間まとめに関するパブコメの募集要領にも、

なお、個別の論点に係る賛否の数を問うものではありませんので、その旨御承知おきください。

と明記されて「は」いる。

しかし私が知る限り、多数意見の持つ重みは大きい。特に今回の中間まとめのように、100ページ近いボリュームで内容も広範にわたる場合、どのページのどの項目に意見が集まっているかを、それこそ行政官がホワイトボードに「正の字」を書いて集計するはずだ。そして正の字の数が多いところから検討を重点的に行い、対応を決めていくことになる。

一方、発言者の位置づけは、必ずしも重いものではない。もちろん行政手続とて人間が行うことであり、相手の名前が気にならないわけはないのだが、しかし肝心なのは内容である。特にパブコメに関しては、発言者の表記こそ団体と個人では(個人情報保護の絡みもあって)異なるものの、基本的に発言者の名前で差別されるようなことはなく、お作法と内容(そして意見の集計結果)によって、その対応が変わってくる。

パブコメを書くための心構え
もしここまで読んで「じゃあ試しに書いてみようかな」と思われたら、私はとてもうれしい。別に霞ヶ関の回し者ではないが、日本の行政手続法はそこそこフェアであり、またパブコメ制度も市民にとってとても使い勝手のよい仕組みになっているからだ。せっかく与えられた機会なのだから、BlogやSNSでグチっているよりはどんどん使った方がいい。

ただ、どうせ書くなら、よりインパクトのある形で書いた方がいい。そこで、すでに前段で言及している「お作法」や「心構え」が必要となる。もちろん表現の自由がある以上はどんなスタイルで書くことも許されるが、前述の通り行政官とて人間である以上、読みやすいものに心が動くのも否めない事実である。

ここで私は、パブコメを書くにあたってのヒントをいくつかご披露したい。まず(1)から(3)は、心構えのようなものである。

(1)官僚は敵ではない
財政赤字や不祥事が続く中、「官僚は無条件に批判してもイイ」という空気があるのは事実だ。しかし多くの行政官は目の前のタスクをコツコツとマジメにこなし、少しでも世の中がよくなるように仕事を続けている。そしてあなたが意見を書こうとしている分野のそれなりのエキスパートであり、実際にいろいろな作業をしている人である。こういう存在を敵視し攻撃する必要はまったくない。むしろいかに懐柔するか、ということを考えるべきである。

(2)とはいえ中央省庁の目線は事業者に向かいがちである
中央省庁は、国民生活を考える立場であるのと同時に、産業振興や保護を考える役割も担う。そして彼らは一般に市民よりも企業や業界団体と付き合うことの方が多い。そのためどうしても「ギョーカイの感覚」やその思考回路を身につけがちである。だとしたら、それを闇雲に「業界寄りだ」と批判するのではなく、彼らが理解できる思考パターンや言語で、自分の意見を主張する努力をすべきだろう。

(3)味方につけるための「アメとムチ」
官僚は業界だけでなく市民生活にも義務を負う。しかし業界との付き合いの方が多くて深。そんな彼らを味方につけるためにはアメとムチが必要だ。とはいえこれは「パブコメで褒め殺しをしろ」というのではない。たとえば自分が指摘したい点について、「○○がイイ、××は悪い」と紋切り口調で書くのではなく、

趣旨は理解できるし大切だ。しかしこの方策では○○という理由から公平・公正な競争の阻害が懸念される。従って△△という点に考慮した運用や解釈を行うべきである。

などといった「全体の中で反論すべきポイントを抽出した理由」を明確にした書き方をすべきだろう。その内容に論理性や説得力があれば、官僚はそれを無視できないはずだ。

パブコメのお作法
お作法とは、読む側の立場や状況に立ったコメントを書く、ということである。ヘンなたとえだが、それこそジャケットとシャツさえ着ていれば最低限の格好がつくように、大抵はポイントさえおさえればどうにかなることでもある。些細なことのように思われるが、これが結構重要なのである。

たとえばあなたが何かの会議に参加していて、すでに数時間が経過しているとする。出席者の頭も働かなくなり、膠着状態に陥っている。そんな時、新参者が突然ノックもせずに会議室に入ってきて「あんたたち全然間違ってるよ」とわめきちらしたら、「出てけ!」とまでは言われないにせよ、誰もその人の話なんぞに耳は傾けないだろう。その指摘がどんなに正しくても、である。

パブコメもこれに同じで、意見募集されているという状況やこれまでの経緯をおさえ、指示されたフォーマットで手短に言いたいことを述べる、ということが必要だ。そんなお作法を(4)から(6)で紹介する。

(4)要領に記された必要事項を必ず満たす
基本的に自分の解釈は挟まず、指示されたフォーマットやスタイルにストイックなまでに従うべきだ。たとえば締切や提出先はもちろん大事だが、記載方法についても詳細が指示されていることが少なくない。また電子メールやWebで提出できることが多いので、指示された件名に必ず従うなども大事である。そういう「フォーマットを遵守する」ということが「私はきちんとお話ししたい」という先方へのメッセージともなる。

(5)短く簡潔に書く
誰だって読む文章は短い方がいい(とお前が言うなと指摘されそうだが…)。まして大量に寄せられるかもしれない意見書であれば、重くない方がいいのは当然である。パブコメを書くくらいだから、書き手の側に言いたいことがたくさんあるのはよく分かる。しかしそういう意見は自分のBlogにでも書けばいい。ここでは大体、1項目200字程度、A4一枚につき3-4項目程度の範囲に収めるべきだろう。そして全体でもせいぜい片手で数えられる程度の枚数に絞り込むべきである。

なおこの時のスタイルは、

○○ページ、(1)最近のお笑い芸人について
<意見>
松本人志が君臨する限り40代近くても若手と呼ばれるのには同情するが、現実に40代といえばすでに不惑を迎えており、ゲイシャガールズやガララニョロロのモノマネは公序良俗に配慮しつつ慎重に行うべきである。

といった、ポインタを明確に指示し、コンパクトなものが望ましい。

(6)背景不要、個別事項に対する対案のみ
これも「簡潔に」ということと同じなのだが、意見に関する背景説明は不要である。そもそも背景を説明しなければならないというのは「発言者が議論の土俵に乗っていない」ということであり、それでは話し合いにならない。不満はいろいろあろうけれど、意見募集されているということは、すでに専門家による議論がある程度尽くされた段階であることを理解し、その議論の文脈に沿った指摘をすべきである。

そのためには、面倒でも過去の議事録をざっと眺めてみるということも必要だろうし、せめてその議論を引用する形で問題意識を説明するような工夫が必要だ…こう書くと「面倒くさい」と思われそうだが、委員会に参加するような専門家は、専門家というだけあって言葉の定義の揺れは少ない。従って検索エンジンやブラウザの文字列検索機能などを使えば、関連キーワードには比較的早く辿り着けるはずだ。

パブコメの効果を発揮するための戦術
これまでの経験上、こうした「書き方」に沿っていただければ、それなりにパブコメらしい(行政官の目に止まりやすい)パブコメになるのではないかと思う。ただ、パブコメのそもそもの目的は、「言いたいことを言う」というだけではない。むしろ本来は異議申し立てに近いものであり、その異議について(できれば自分の主張に沿った形での)再検討を求めることにあるはずだ。

こうしたアクションを喚起するには、単にお作法に従った慇懃なパブコメを書いているだけではままならない。そこで最後に、少しでも目的達成に近づけるための戦術について、(7)から(10)で触れておく。

(7)徒党を組む
前述の通り、数は力とまでは言わないにせよ、ある程度有効だという事実がある。ならば仲間を募ったりどこかの団体と合流するなど、数を揃えるための努力も同時にすべきだろう。特に冒頭の文化審議会のパブコメのような重要案件の場合は、業界団体や他省庁が何らかの対応をしたり、事前に意見案を公表することもある。こうした動きを察知し、相乗りできる部分を探る、ということも戦術としてあっていい。

(8)相手が受け入れやすいアプローチを探る
お作法の話とも多少重複するが、相手が受け入れやすい(というより受け入れざるを得ない)アプローチを探るべきである。すなわち問題点にストレートに言及するのではなく、結果的にその問題を考慮せざるを得ない状況に追い込む、というような手ということだ。

たとえば冒頭の「私的録音」の話でも、そのものにずばり言及するだけでなく、もう一つの「中間まとめ」の方でも同じ趣旨を別のケース(検索エンジン等)で言及するなどの工夫があっていい。こうした多様な手を取ることで、あとで法的な整合性を取るときに、結果として行政官に何らか判断を迫ることになるかもしれない。その時に最終的に実利が得られればいいのだ。

(9)目立つ
せっかく個人が自由に情報発信できる時代なのだから、自身のBlogでパブコメの内容を発信するのもいいだろう。締切前に出せば賛同者を集める一助にもなろうし、締切後に公開しても「どんな意見がどのくらい出ているのか、読者からどんな反応があるのか」を知ることは、次の一手を考えるのに有効である。また行政府はマスコミなどの世論を気にする性質があるが、Blogでの喚起が何らか世論形成につながるかもしれない。もちろん「リスクを取れる範囲で」が前提なのでいたずらにはけしかけないが、検討していい戦術の一つだろう。

(10)利害構造を明確にする
最後に、先方の気持ちを忖度して書くことは前述したが、それと「自分の意見を丸める」ことは異なる。もちろんすでに議論が進んでいるという制約がある中でできることは限られるが、利害構造の明確化とその構造における自分のポジションははっきりさせなければ、パブコメを提出する意味はない。

ただここで注意すべきは、そうした発言者が提示する利害構造が本当に妥当なのか、今一度冷静に考えるということだ。たとえば著作権関連の話ではとかく「権利者vs消費者」という構図に議論が落とし込まれがちだが、実は両者の対立を生み出す中間プレイヤー(権利処理事業者やコンテンツ事業者等)あるいはや規制当局にこそ問題があるのかもしれない。

そうした混沌があることを踏まえ、自分の主張を最大限強調するのに適した利害構造を自分自身で設定し、その妥当性(これまでの委員会で議論されている等でもいい)を書き添えながら、議論を進めるべきだろう。

…以上、相当長文になってしまったが、この10個のすべてをおさえずとも、できるところからぜひはじめていただきたい。今後もNTTのNGNの認可(先日総務省に申請が出された)をめぐるパブコメなど、情報通信の世界でも様々な意見募集が登場する予定である。それこそ日頃BlogやSNSで何らか意見を持っている方は、それだけでも何らか書く資格とネタをお持ちのはずだ。ぜひパブコメにトライして、政策形成や制度形成に積極的に関与していただければと思う。

※追記

都道府県もあわせると239件という指摘をいただいた(ありがとうございます)。地方自治の方がより生活に密着した課題が多い。あわせてぜひチェックしていただきたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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