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【社会】

東京特派員の眼 ニッポンの『この1年』

2007年12月2日 07時08分

 小沢・民主大勝、年金記録不備、前防衛次官汚職事件、新潟県中越沖地震、食品偽装…。いろいろあった今年も、残り1カ月。各国の特派員に、印象に残ったこの1年の「ニッポン」を聞きました。

<官業主導の環境対策> 朴 弘基氏 ソウル新聞 (韓国)

 三月に東京に赴任して九カ月ほど。日本が環境問題に力を入れている姿に驚いた。

 政府は六月のドイツでの主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)で、温室効果ガスの削減に向けた「美しい星50」を提唱。その後も来年の北海道洞爺湖サミットに向けて、世界で指導的な役割を果たそうと努力している。

 ハイブリッド車や代替エネルギー開発、産業として成り立つほどの公害対策技術など、企業も早くから環境問題に取り組んでいることを知った。オピニオンリーダーも環境関連で熱心に発信している。

 一方で、政府、企業と、市民との意識の差が大きいことも印象的だ。韓国では有料のスーパーのレジ袋が、日本ではほとんど無料だし、百貨店は過剰包装を続けている。

 コンビニではプラスチック製容器入りの弁当が大量に売られている。多くはごみになり、資源の無駄遣いにつながるのに、市民は気にしてはいない。

 政治では、安倍晋三前首相の突然の辞任が心に残っている。

 日本の首相は韓国大統領と違って力が弱いと思っていたが、福田康夫首相が前政権が進めた改革路線や改憲を脇に置き、独自性を発揮しようとしている姿を見て、そうではないことを知った。

<不安高めた食品偽装>王 開虎氏 北京日報 (中国) 

 日本国民にとっては生活の不安が高まった一年だっただろう。実際、政府の世論調査で、日常生活で不安や悩みを感じている人が約七割に達したという結果に私はびっくりした。

 不安を高めた要因の第一は、食品をめぐる偽装だ。ミートホープ、白い恋人、船場吉兆、赤福餅(もち)…。次から次に偽装が出てきた。日本人はこれまで日本製のものは信頼し、安心感を持っていたと思う。

 中国でも、食品に限らず日本製は評判が良い。今年、日本から米が輸入され、中国の消費者に高く評価された。ところが、中国のネットのチャットでも日本の食品偽装が話題になっていて「もう、信用できない」という書き込みもある。イメージダウンになっている。大変、残念なことだ。

 中国も食の安全の問題を抱えている。両国に共通するこの問題を解決しないと、日中間の貿易にも悪影響を与える。

 年金記録の不備問題も不安感を強める要因だ。私はほかの国に比べて、日本の福祉や年金制度は行き届いた制度だ、という印象を持っていたのだが。

 年金不備問題は特に高齢者にとって切実な問題だ。一方、正社員になれない人がたくさんいるというような雇用の問題は、とりわけ若者にとって深刻だ。

<社会の崩壊を感じる>S・ヒギンス氏  フリージャーナリスト(米国) 

 日本社会が崩壊しかけている、と最近すごく感じている。多くの問題は、以前から解決の必要性が指摘されながら、先送りやその場しのぎによって放置されてきた。

 いじめの問題が代表例だ。私自身、日本の中学校でいじめに遭った。それから二十五年以上たっているのに、なにひとつ事態は変わっていない。学校は「いじめはない」と、隠ぺい体質は相変わらずだ。「いじめられる側にも理由がある」と被害者に責任を転嫁する動きも変わらない。

 学校だけではない。政治やビジネスの社会でもいじめはある。

 「オリコン」(音楽市場調査会社)が、雑誌の記事の中のコメントが名誉を傷つける内容だとして、雑誌の求めに応じてコメントしたフリージャーナリストを相手取り、五千万円の損害賠償を求めて裁判を起こした。提訴の対象が雑誌の発行元でも記事の執筆者でもなく、コメントした人だけ。これでは、誰も怖くてメディアにコメントしなくなるだろう。

 薬害肝炎の問題を見ても、結局、弱い人たちがしわ寄せを受ける。

 日本人は「日本人だから」という意識が行動の規範になっていた。ところが、「日本人とは何か」という根っこの部分を失ってしまった。これで、歯止めが利かなくなったのではないだろうか。

 注 オリコンは報道向け資料の中で、コメントしたジャーナリストを訴えたことについて「事実誤認に基づくコメントが本訴訟の争点であり、雑誌の発行元を訴えることで争点があいまいになる」と説明している。

(東京新聞)

 

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