2007-12-01
■[生きる]他人と自分を傷つけない為のlifehacks
先日、大学で「DV出前防止講座」という、大学教員・臨床心理士の先生の講演を聞いてきました。
しかしその内容、つまり如何にDVの加害者にならないように気を付けるべきかという話を聞いている内に、これって実はDVだけじゃなく、あらゆる人間関係・コミュニケーションにおいて、「支配と服従」という傷つけあう関係ではない、対等な関係を持つために使えるテクニックじゃないかなぁと思いましたので、ここに書き留めておきます。
ちなみに、ここの文章では、講演の内容と、それに対する僕の考えがごった煮になって混ざっています。分けて書くのが面倒だったんで、サーセンw
1.自分が持っている「〜らしさ」などの偏見にあらかじめ気づいておく
これは講演では「自分を知らず知らずの内に縛っているジェンダー意識に気づいておく」という風に書かれていました。つまり、私たちは「男らしさ」「女らしさ」という様なステレオタイプを無意識の内に擦り込まれていている訳ですが、そのようなステレオタイプに対して自覚的になろうということです。何故なら、私たちは他人と接するとき、かならずこの様なステレオタイプを考慮して相手の行動を予測しておきます(例:あいつは女だからそんなに男の意見に歯向かったりしないだろう、あいつは男だから厳しい言葉にも耐えられるだろう)。もしそのようなステレオタイプに対して無自覚だった場合、もし相手がそのステレオタイプに反する行動(例:女なのに堂々とものを言う、男なのにすぐ泣き言を言う)を取ったら、それは自分の予測を他人が裏切ったということになり、そのままその他人に対する憎しみの温床となるからです(女/男のくせに!)。
重要なのは、ここではそのようなステレオタイプを「無くせ」と言っている訳ではないということです。何故なら、私たちは生きている以上、必ず社会の影響*1を受け、そしてその社会には、「男らしさ」「女らしさ」というメッセージが溢れている訳ですから、一切そのようなステレオタイプを持たずに生きることは不可能なのです。そんな中で「ステレオタイプを一切持たないようにしよう」とか言ったって、それはステレオタイプを見ないようにすることでしかない。
だから私たちに出来ることは、せいぜいその様なステレオタイプに対し自覚的であることぐらいでしかない。ですが、それだけで十分なんですね。例えば相手が自分のステレオタイプに反する行動をしたとき、あなたは「裏切られた」と思う。だが、そこでもしそのステレオタイプに自覚的になれたなら、「でも、その『裏切られた』って、要するに自分の勝手な思い込みが裏切られたに過ぎないんだよな」と自分を納得させることが出来る訳です。
そして、実はこれは男女関係、つまりジェンダーに限った問題ではないんですね。出身、民族、国籍にももちろんそのようなステレオタイプはあるし、他にも例えば「アニメ好きだからネクラだろう」、「スポーツ好きだからネアカだろう」、「土方だから乱暴だろう」、「教師だから人格者だろう」という風に、趣味・職業など、人を分類もしくは属性付けする、あらゆるカテゴリにそのようなステレオタイプ(〜らしさ)はあるわけですから。
2.誰かが「〜するべき」だと思ったときは、まずそれが「〜して欲しい」でないかどうか疑う(「感情」を「思考」と勘違いしない)
これは、特に「理知的」であるとラベリング*2されている男性に多いそうなんですが、自分が相手に「彼(女)に○○して欲しいなぁ」などと感じているとき、時に人はそれを「彼(女)は○○すべきである」という風に思考していると、錯覚することがあります。例えば、「夕飯は手料理を作ってほしい」という感情を抱いたとき、特に男は、それを「妻は手料理を作るべきだ」という、論理・理屈に無意識のうちに変換してしまうのです。それは無意識のうちに行われますから、本人としては「理知的」に考えて言っているつもり*3なんだけど、相手にしてみればやっぱり理不尽な命令でしかない。
何故こういうことが起きるかといえば、それは要するに「理知的」なものこそ尊く重視されねばならなくて、「感情的」なものがどうでもよいとされる既存の社会秩序*4により、社会的に強い立場の人間は、生活全てにおいて「理知的」に動かなければならないとされるからなわけですが、しかし本当は「理知的」であるべき場面なんか、社会生活の中でごく一部でしかないわけです。殆どの場面では、むしろ人々は「感情」で行動しているんであって、そしてそれは別に卑しいことでも避けるべきことでもなんでもないんです。
ですから、自分がある相手に「〜すべき」と思ったときは、まずそういう「理知>感情」みたいな思考のベールを捨てて、それが「〜して欲しい」ではないか、という風に疑うべき・・・じゃなかった疑って欲しいと、僕は思います。
3.Iメッセージを使う・感情を素直に伝える
先ほどのテクニックは内心の範囲でのテクニックです。では、そのようにして実は自分の頭にある思いは「○○すべき」ではなく、「○○して欲しい」として自覚したとき、それをどうやって他人に伝えたらいいのか?この時使うといいのが、「Iメッセージを使うようにする」というテクニックです。
Iメッセージとは、要するに「自分の気持ち」をメッセージの焦点にして、自分の思いをオープンかつ正直に伝えるメッセージのことで、その対義語としては、「相手の気持ち」を焦点にするYOUメッセージで、これは例えその気が無くても相手に対する批判・非難・攻撃に聞こえがちなんだそうです。
- YOUメッセージの例
- 「君はなんで友達と遊びに行くの。やめてよ。」
- Iメッセージの例
- 「僕(私)はさびしいな。デートして欲しい。」
何でこれが駄目なのかと言ったら、それはまさにYOUメッセージでは相手に対する要求だけを述べていて、自分が何故その要求をするのかは不問に付されているからなんですね。つまり相手と自分の間で、対等ではない権力関係を無意識の内に強要しているからです。「権力関係」などというものは、明確に示されるのはごく僅かで、大抵が無意識のうちに自明・前提とされるわけですから、敏感になって、積極的に見つけにいかないと、いつの間にか対等な関係から支配と服従の関係になって、他人だけでなく自分も傷つくことになってしまうのです。
ただ、「Iメッセージを使うようにする」と口で言うのは簡単ですが、それを実行するとなるとなかなか難しいわけです。例えば、下記の様な感情を、他人に伝えられますか?また、他人から伝えられたとき、受け入れられますか?*5
- 「すごく腹が立っているんだ」
- 「すごくさびしいんだ」
- 「すごくイライラしている」
- 「すごく落ち込んでいるんだ」
- 「すごく幸せな気分なんだ」
- 「すごく悲しいんだ」
- 「すごくこわいんだ」*6
- 「すごくうれしいんだ」
- 「すごく嫉妬しているんだ」
- 「すごく傷ついているんだ」
プラスの感情はともかく、マイナスの感情については、やっぱり伝えにくいし、また、伝えられたときもなかなか受け止めにくい人が多いと思います。特に男性の場合、それこそ「男は涙を見せるな」という言葉に代表されるように、マイナスの感情は表に出してはならないという抑圧があるわけで、なかなかこういう感情を言葉に出すどころか、心の中で認めることすら難しい訳です。
ですがじゃあそういう感情が男性にはないのかといえば、そんなことは全く無く、男性だって孤独感に打ちひしがれるときもあれば、恐怖に怯えるときもある。そういう感情を抱いたとき、やっぱり一番の解決策は、そういう感情を抱かせた主や、その他誰でもいいから他の人にその感情を相談してみることです。しかしそれが無意識の抑圧などにより出来ないと、「力」に頼って、その感情をあたえる主に対して、対等な話し合いではなく「力」*7でねじ伏せる様になってしまう。その結果その相手を傷つけ、その相手との人間関係を歪ませ、その結果自分もまた傷ついてしまうのです。
だからこそ、1で述べたような「〜らしさ」というステレオタイプが自分の中にあることを自覚する必要があるのです。自覚すれば、少なくとも自分への抑圧は軽減できる。そして、抑圧をくぐり抜けて、自分の感情を素直に相手に相談する。これこそ、他人も自分も傷つけず、対等に人と接するための、最も重要なテクニックであると言えるでしょう。
(ところで、このようなコミュニケーションをする態度のことを、専門用語では「アサーティブ」と言うそうです。ので、もっと詳しく調べてみたい人は、この言葉をキーワードに本とか探してみると良いんじゃないでしょうか。このようなコミュニケーションを推進するようになったきっかけは1960年代の公民権運動だったそうで、そういう社会的視点を持ったライフハックもあるんだなぁと、僕はちょっと感心しています。)
4.「タイムアウト法」を使う
これは今までの3つのテクニックと比べると割りと個別・具体的な方法なのですが、「突然キレてしまう人」というのは、僕を含めて結構居て、そういう人にとても有効だと思うので書いておきます。
この方法はまず回りに「時々急に居なくなることがあるかもしれないよ」と言っておいて、理解してもらうことが必要。*8そして他人と居るとき、怒りが爆発しそうになったら、相手に「居なくなる」と伝えて、1時間だけその場を離れ、散歩などで無為に時間を過ごした後、約束を守って戻ってくる。そしてその後必ず戻ってきて、出来れば何故腹が立ったのか相手と話をするんだそうです。
ただ、僕なんかはこういう嫌になったら逃げる時間というのは、個人の努力だけでなくきちんと制度的に整えるべき*9だと思う。が、それはともかく、何か余りに感情が昂ぶって爆発しそうになったら、とりあえずその嫌なことから逃げるのも一つの手な訳です。
まとめ&感想
- 自分が持っている「〜らしさ」などの偏見にあらかじめ気づいておく
- 誰かが「〜するべき」だと思ったときは、まずそれが「〜して欲しい」でないかどうか疑う(「感情」を「思考」と勘違いしない)
- Iメッセージを使う・感情を素直に伝える
- 「タイムアウト法」を使う
以上の4点が、今回紹介したlifehacks*10だったわけですが、まあ・・・昔から僕のブログを見ていた方にとっては、それこそお前がいうな的内容かもしれません。
しかし意外だったのは、臨床心理学というスタンスからでも、こうやってきちんと「権力」とか「ジェンダー」とか、そういう社会的なモノの見方が出来るんだなぁという事実です。どうも臨床心理士とかいうと、問題を個人化して、例えば女性が職場で差別されてると訴えても、「それはあなたが職場の同僚に対し対抗心を持っているから同僚もあなたと敵対するのですよ。まずあなたが職場を愛しなさい」的なとにかく我慢して周りと折り合い付けろというクソみてぇなメッセージしかない某鏡の法則的な話ばっかしているイメージがあったもので、このように「社会」というものの秩序・システムなどに気を配り、それでいてきちんと役に立つテクニックを紹介できる臨床心理もあるというのは、なかなか興味深かったです。
特に
- 「〜らしさ」など、様々なカテゴリが人々の認識枠組に存在し、そしてそれらのカテゴリ間には上下関係=権力関係がある
- 感情を相手に伝えることに臆さない
なんていうのは、大学に入ってからの僕の問題意識ともどんぴしゃだったので。何か最近リルリル君もこういう話題に興味持ってるみたいだから、参考にしてくれれば良いんじゃないかなぁと。
*1:社会と無関係に生きることなどできない
*3:その為に様々な理屈がでっち上げられる。「妻が手料理を作るのは夫婦契約を結ぶときの暗黙の了解だ」とか「結婚制度は、そのシステムの基本精神として男が仕事に出て、女は家事をするということが決められている」とかね
*5:これ、講演の際には「親しい異性」ということだったけど、どうだろう。余り親しくなくても重要だと僕は思うのだが
*6:「ざわざわするんだ、落ち着かないんだ。声を聞かせてよ!僕の相手をしてよ!僕に構って(ry」。まぁ、ここまで来ると流石にちょっとアレですが。シンジ君は溜め込みすぎちゃったからああなっちゃった訳で、やっぱ普段から発散させて溜め込まないようにするのが大事で、こういう感情の発露自体を嫌悪するのはお門違いなんじゃないでしょうか
*7:権威、権力、暴力
*8:でも、これが一番の難関な気が・・・
*9:例えば学校とかは、中学以上になったら出席点は成績の内、テストや課題とかで挽回できる程度の割合にするとか
*10:そろそろ(笑)付けても良いかな・・・いや真面目にこれは良いと思ったんだけどね
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