これまでの銃犯罪の傾向はある程度は予測できた。例えば、多くの手段は暴力団関係者の事務所や自宅を狙った深夜の「壁撃ち」で、1度発砲事件が起きれば警察の警戒強化で2度目以降は当面起きない、と推測していた。だが、11月24日の白昼に大牟田市の病院玄関で暴力団九州誠道会系組幹部が射殺され、わずか3日後には久留米市のマンションで指定暴力団道仁会系組長ら2人が銃や刃物で殺害された。標的が物から人に、しかも待ち伏せして確実に殺害する計画性がありながら、時間や場所を選ばぬ大胆さは先が読めず、再発防止を願う市民をあざ笑うかのように見える。
誠道会は、道仁会の昨年5月の会長人事に反発した勢力が離脱して結成した。以後、福岡、佐賀、長崎、熊本4県で銃や爆発物を使った双方の抗争とみられる殺傷事件が続発。今年8月には福岡市で道仁会会長が誠道会系組幹部に射殺され、今年6月以降の死者は双方で各3人になる。だが、11月8日に佐賀県武雄市の病院で起きた患者殺害は、誠道会関係者と誤った道仁会系組幹部の犯行とみられ、一般市民に犠牲者が出たことは決して看過できない。さらに、今のように時や場所を選ばず、テロのように相手に車で突っ込んだり、爆弾を使えば、被害はもっと広がるだろう。
久留米市では、道仁会本部事務所の周辺住民が、事務所の使用差し止めを求める訴訟の準備を進めている。一方、うちの記者が別の組事務所が入居するマンション住民を取材すると「場所が知れればマンションの資産価値が下がる」と追い返された。節度ある取材はむろん必要だが、記者は「迷惑なのはむしろ暴力団の存在のはず」と嘆く。組事務所を24時間態勢で警戒する県警にも「税金でやくざを警護するのか」との抗議があるそうだが、市民への被害を防ぐにはやむを得ず、指摘は筋が違う。諸悪の根源はそもそも、反社会集団である暴力団にすべてある。<久留米支局長・荒木俊雄>
〔筑後版〕
毎日新聞 2007年12月3日