治療費、調剤代など医療行為ごとに健康保険から医療機関に支払われる診療報酬が見直される。患者からすればどの治療でいくら払わなければならないかの基準となる。とすれば、私たちの暮らしと切り離せない政策だと分かる。
診療報酬改定で、開業医より病院の報酬を手厚くすることもできるし、医師不足の産科や小児科の取り分を他の診療科より多くすることも可能だ。これを上手に使えば、医療現場で起きている問題を解決する手立てにもなりうる。
2年に1度改定される診療報酬は小泉政権時代、ゼロ改定をはさんで2回のマイナス改定が続いた。膨張する医療費は財政再建路線の鬼っ子のように言われ、厳しい手かせ足かせをかけられてきた。医師不足も手伝い、最近は病院の疲弊が目立ち、経営が立ち行かない医療機関もある。
今後、高齢化進展で一層の医療費増大が見込まれる中で、むだな医療を排除しなければならないのは言うまでもない。しかし、本当に必要な医療費まで財政の論理で切り込もうとするのは筋違いだ。わが国独自の医療制度を維持するため、必要で十分な金の手当ては国の基本姿勢であるはずだ。
診療報酬改定を議論してきた中央社会保険医療協議会(中医協)は、医師の技術料などいわゆる「本体」部分をマイナス改定しないという意見書を取りまとめた。政府はこの集約を基に年末の予算編成で医療費の総額を決める。そのあとまた中医協にフィードバックされ、その総枠の中で個別の医療行為ごとに点数(1点10円)を決定する段取りだ。
中医協がマイナス改定しないと意見集約したことは、ゼロもしくはプラス改定の可能性がある。ただ財政状況から全体のパイが大きく広がることは考えにくい。ならば、総枠があまり変わらないことを前提に、どの分野へ重点的に配分するかが肝要となる。
人の生き死ににかかわる問題がなおざりにされていいはずがない。原則は、患者も医師も満足できるような診療報酬体系に改定するのが望ましい。いま医療現場でもっとも深刻な課題は、地方の中核病院で産科や小児科、外科が閉鎖されていることだ。忙しすぎる勤務に耐えかねて病院を辞め、開業医に転出する医師が増えている。困るのは妊婦や患者である。
厚生労働省の調査によると、開業医の平均年収が約2500万円、勤務医は約1400万円という。しかも勤務医は交代要員がいないため当直明けでそのまま夕方まで患者を診るような勤務が続いている。過酷な勤務が病院への診療報酬を手厚くするだけで一気に解決するとは思えないが、改定が引き金になることを期待したい。
日本医師会は診療報酬の大幅引き上げを主張している。休日や夜間診療に励む開業医もおり、開業医が楽しているとは決して思わない。でも、仮に医療費総枠が増えないなら、メリハリをつけるためだれかが我慢を強いられることになる。
毎日新聞 2007年12月3日 0時10分