病める米国医療、無保険者の悲鳴

病院が医療費債務を売却、金融機関が厳しく取り立て

  • 2007年12月3日 月曜日

 同じサティラ医療センターの患者であるメルヴィン・ジョンソンさん(55歳)は保険加入者である。ただし加入しているのは退職者の権利擁護団体AARPの低額保険で、9月に医者から勧められた大腸内視鏡検査は保障対象外だった。癌ではないと分かったものの、検査費として3304ドルの請求を受けた。メルヴィンさんは建設業界で働き、妻のドロレスさん(35歳)は地域保健センターで福祉担当をしている。世帯年収は合計3万5000ドルである。

 サティラ医療センターの慈善医療の所得限度額は、法定貧困ラインの2倍、2人世帯の場合で世帯年収2万7380ドルまでである。現金での支払いが困難だったジョンソン夫妻はHELPの利用を選択した。年利14.5%で月々の支払い額は125ドル。「家計を見直すはめになったわ。ほかの支出を削ったり、貯金に回す分を減らしたりするしかなかったわ」と、ドロレスさんはこぼす。

 サティラ医療センターのアルバート氏はジョンソン夫妻について、「もっと保障の手厚い民間保険に加入することはできたはず。お金をケチったんですよ」と指摘する。ウィリアムソン氏は、HELPの利用はサティラ医療センターにとっても負担となっているとつけ加えた。患者に対する債権を1ドルにつき8セント割り引いて売却しているからだ。

患者にとっては割高な支払いを迫られる

 医療金融サービスの手法の中には、利息を患者に請求せずに利益を出しているものもある。米プライベートエクイティ投資会社アエキタース・キャピタル・マネジメント(オレゴン州ポートランド)は、20余りの病院で治療を受ける患者5万人に「CarePayment(ケアペイメント)」カードによる貸し付けを行っている。無利息で、返済期間は25カ月だ。アエキタースのロバート・イェセニックCEO(最高経営責任者)は、患者に対する債権を1ドル当たり約80セントで買い上げ、全額の回収を目指すことで収益を上げていると言う。

 患者にとっては、必ずしもケアペイメントを利用することが得策とは限らない。現金払いでないと割引が受けられないことがあるからだ。ミシガン州グランドラピッズで7つの病院を運営する米非営利団体スペクトラム・ヘルスでは、自費診療患者で30日以内に支払い可能なら20%の割引が受けられる。6カ月以内なら10%割引。ケアペイメントを利用する場合は割引は適用されない。

 米クリーブランド州立大学法科大学院の准教授キャスリーン・エンゲル氏(専門は消費者保護法)は、「これは値下げではなく、値上げだ」と言い切る。「病院は事実上、ケアペイメント利用者に対して割高な金額を請求している。連邦貸付真実法に則って利息相当分の価格差を開示すべきだ」と言う。

 スペクトラム・ヘルスの財務担当副社長ジョセフ・ファイファー氏は、「法的に十分な情報公開を行っている」と反論する。アエキタースの医療市場担当のシニア・マネージング・ディレクターのスティーブン・M・ライト氏も同意見だ。アエキタースは法律に従い、新規顧客にケアペイメントカードを送付する際に支払い条件を明示しているとしている。

体を治して家計が壊れたら元も子もない

 米メソジスト・ルボヌール・ヘルスケア(メンフィス)は、全体で12億ドル規模の7つの非営利病院を運営している。CFOを務めるクリス・マクリーン氏は、このような医療金融サービスの動きに対して疑念を深めている。運営する病院のうち5つでは、患者の多くがメンフィスの貧困層である。

 メソジストでは医療債権を売却せず、自費診療患者の診察代を50%割り引いている。多くの患者は無利息で5年間の支払い期間が認められる。回収不能として、即座に帳簿から抹消される債権も少なくない。メソジストの施設の1つは富裕層向けであり、また市内で唯一の小児病院も抱えている。この2つが残る5つの施設の運営を支えている。

 「税制面でかなりの優遇を受けている以上、地域に貢献すべきだ。医療を施したことで経済的に破綻させてしまったら、患者に最善を尽くしたとは言えない」と、マクリーン氏は言う。

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