病める米国医療、無保険者の悲鳴病院が医療費債務を売却、金融機関が厳しく取り立て「病院は無利息のカネ貸しではない」と言うのは、非営利病院トライヘルスの会計部門責任者トッド・コール氏。オハイオ州シンシナティで運営する2施設は合わせて20億ドル規模だ。「病院に5ドルを送金しさえすれば、取り立て業者が来ることもなく、裁判で訴えられることもないなんて時代は終わったのだ」。 トライヘルスは患者に対する債権を大幅に割り引いた上で、一般消費者の延滞債務の回収を専門とする会社に売却している。「病院には現金が必要だ。それは医師や看護師を支える“血液”なのだ」(コール氏)。 その現金を病院や外部の会社が手にするには、誰かがカネを出さなければならない。一番痛手が大きいのは、民間の保険には未加入だが、慈善医療(無償または低料金での診療や政府の給付プランを受けられるほど貧しいわけでもない患者たちだ。
保険未加入者4700万はおいしい市場?自費診療患者の数は膨大だ。まず全米には4700万人もの保険未加入者がいる。保障が薄かったり、「1万ドルまでは自己負担」としたりする保険を選択している人は1600万人。最近実施された複数の調査で、医療負債が自己破産申告の理由の上位に上がっている。 前述のコンプリートケアのような抜け目ない企業各社がこの分野を開拓し始めたのは、数年前のことだ。最近は大手の参入も相次いでいる。ただし市場はまだ断片的で、シェアに関して信頼できる情報はまだない。 USバンコープ傘下のUSバンクは、医療給付会社を通じて1カ月約200万ドルの患者債務を扱っている。大部分の患者に対し年利13.5%、延滞の場合は24%もの高利息を請求する。 GE傘下の有力金融会社GEマネーは、歯科医や形成外科医、病院などに「CareCredit(ケアクレジット)」カードを売り込んでいる。今年の貸出高は前年比40%増の50億ドルに達する見込みだ。シティグループやキャピタル・ワンも同様のカードを発行している。 「融資であれクレジットカードであれ、(医療金融サービスが)次の開拓分野だと皆口を揃えて言っている」と語るのは、米ワコビア銀行(WB)の上級副社長ジューン・セント・ジョン氏。同行もこの分野への参入を検討中だ。 各社の意欲をそそるのは、一般消費者の医療費の自己負担額2500億ドル(保険料は含まない)という市場の大きさだ。この金額は米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーによる2005年の推定額であり、2015年までに4200億ドルに達する可能性もある。
患者は何も知らないうちに債務が売却しかしBusinessWeek誌が行った調査の結果、急速な拡大を示している医療金融サービス分野には大変な問題があることが明らかになった。多くの患者が何も知らないうちに、ケアクレジットカードの発行元であるGEマネーなどの利息を要求する中間業者に自分の債務が売却されているのである。 アリス・ディルツさんはそのいい例だ。ニューヨーク市クイーンズ区にあるヒルサイド・デンタル・ケアを訪れたのは2005年10月のことだった。仕事はパートで病院の看護助手をしている。68歳になるディルツ氏には、虫歯2つと抜けた3つの歯にインプラントが必要だった。 ヒルサイドのスタッフは7450ドルの費用がかかると告げた。しかし、既に引退している夫の保険で提供される歯科保険でまかなえるのは抜歯の200ドルだけだった。やむなく自分の財布から250ドルを支払ったうえで、1つの契約書にサインした。ディルツさんは、「ヒルサイドと直接交わす分割払いプランだと思った」と言う。 だが、彼女が署名したのはGEマネーのケアクレジットカードの申込書だった。その旨は小さな文字で書面に記載されていた。ヒルサイドの歯科医ベン・モフタル氏もスタッフたちも「それがクレジットカードの契約だなんて教えてくれなかったわ」と、ディルツさんは主張する。 ディルツさんは抜歯中にひどく出血した。怖くなり、抜歯後にすぐ家に帰った。4日後にインプラントをキャンセルし、もうヒルサイドとは縁が切れたと思った。ところが数週間後に、ケアクレジットから7000ドルの請求書が届いたのである。ヒルサイドが債権をGEマネーに売却していたのだ。
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