◇登録保留続発 1施設40人へ財政措置不十分
学童保育所の大規模化が進んでいる。背景にあるのは、全国的な共働き家庭の増加だ。厚生労働省は今年7月に策定したガイドラインで「1施設約40人が望ましく、最大でも70人」と初めて運営指針を示したが、現場ではそれを支える財政措置が不十分との声が強い。市内の関係団体の動きを追った。【珍田礼一郎】
◇施策拙速「具体案ない」
■大きい存在意義
平日午後3時。山科区の大宅児童館に子どもたちの元気な声や廊下を走る音が響き渡る。園庭では、指導員がけんかの仲裁をしていた。どの子も生き生きした表情だ。
同児童館は1年生60人、2年生49人、3年生6人の計115人が利用登録する市内最大規模の学童保育所。
市児童館学童連盟の会長も務める山手重信館長(61)は「最近、子どもが狙われる事件が相次ぎ、安全面からも学童保育所の需要が増している。また、子どもたちに礼儀を教えることもできる」と意義を力説する。
■保留取り下げも
それだけに、登録希望者は多い。今年3月には130人の登録希望者があり、当初は3年生20人が「保留」とされ、待機児童となった。山手館長によると、多くの場合、親は「なぜうちの子は入れないの」と怒る。しかし、やがてパートをやめたり塾に通わせたりして、保留を取り下げるケースも少なくなかったという。
そこで同児童館は増築の支援を要請。市が費用のほぼ半額を負担し、8月までに二つの育成室が完成した。すぐに保留家庭に「受け入れを始める」と連絡したが、既に大多数の家庭が保留を取り下げており、通い始めたのは数人にとどまった。
■「大規模」の悩み
大規模化は子供たちの生活にも影響を及ぼす。山手館長は「密集すると子どもたちがいらいらして、意地悪やけんかが起きやすくなっていた」と明かす。増築はしたものの、隣接する市立大宅小の来春の新入生は数十人増える見通し。待機児童を出さない保証はどこにもない。
保育の質も問題だ。「大規模化した学童保育所では、指導員は子どもの名前すら覚えられないでしょう」と関係者は明かす。大宅児童館のような71人以上の学童保育所は、市内122カ所のうち、なんと37カ所。全体の約3割に上っている。
■適正規模へ取り組み
上京区の京都福祉保育総合センター2階の京都学童保育連絡協議会(京都連協)。学童保育を活性化させようと、さまざまな調査や交流会の開催、行政との懇談を行っている。
国は昨年、適正規模への移行を図るため「09年度に71人以上の大規模施設に与える補助金を廃止する」との方針を示した。そして今年7月のガイドライン策定。だが、拙速とも受け取れる施策に、事務局長の松井信也さん(56)は「具体的な案がなく、現場に反映されにくい」と漏らす。一方で「行政は学童保育の重要性を十分に認識しているはず。更に一歩踏み込んだ議論が必要」とも。
京都連協は今月中旬、会員の保護者に配ったアンケートを基に、市と交渉し、改めて市内の学童保育事業の充実を求めていく方針。松井さんは「今後は適正規模の学童保育所を設置すると共に、障害のある子どもでも利用できるようにしたり、登録できる学年を引き上げたりすることも視野に入れ、行政に改善を求めていきたい」と力を込める。
×
今回の取材を通じ、数十年間、学童保育が抜本的には改善されてこなかったことに驚かされた。登録を保留された家庭の保護者がパートをやめたり、子どもを塾に通わせたり。それでは共働き家庭の支援事業にはならない。03年に比べ、学童保育所に通う子どもは21万人増えたという。今年初めてガイドラインを作った行政の対応では、後れを取らざるを得ないのではないか。正直なところ、そう感じた。
………………………………………………………………………………………………………
■ことば
◇学童保育
家に帰っても保護者が仕事などでいない子どもに、放課後の遊び場や生活の場を提供する厚労省所管の事業。全国学童保育連絡協議会によると、07年5月現在、全国に1万6652カ所あり、主に小学3年生以下の子ども約74万人が利用している。府内には370カ所あり、多くは児童館内に設置。小学校数比の設置率は82・2%と、全国平均72・8%より高い。
12月2日朝刊