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アレゲなニュースと雑談サイト

2007 年 01 月 20 日
AM 07:49 - 新銀行東京の経営問題
東京都の出資によって設立された、新銀行東京(SGT)の経営が岐路に立たされている。先に発表された中間決算でも、融資の伸び悩みから利息収入が伸びず、融資先の経営悪化による引当費用の増大から約150億の赤字決算となり、当初の経営計画の破綻ぶりが際立つようになった。

SGTという、行政による金融機関の創設という経緯に至った背景として、次の二つの要因を論ずる必要があると思う

第一に、東京には伝統的に地域金融の担い手としての地方銀行が存在しない点である。これは、戦前・・戦中の統制経済体制において、政府主導による銀行合同政策が行われた点がまず指摘できるが、それ以前に昭和恐慌期に、地域金融の担い手となっていた中小銀行が倒産または大銀行に吸収された点も指摘されよう。戦後には、東京都と興銀の支援によって、現在唯一の地銀となっている東京都民銀行が設立されるも、東京において地域金融の担い手となっていたのは、主に信用金庫と相互銀行(後の第二地方銀行)であり、近年では都市銀行も重要な担い手となっている

しかし、90年代に入ると第二地方銀行は、東京相和銀行の経営破綻に見られるようにその数を減少させ、バブル期に資金供給圧力を形成していた、東京都以外を地盤とする地方銀行の融資も減少したため、必然的に地域金融の担い手として都市銀行の地位が高まる。しかし、都市銀行は90年代末の金融危機を経て、中小企業への与信を大幅に縮小させた。結果的に、地域金融の担い手として、行政による公的金融の重要性が高まり、リスクを負って地域金融を担う金融機関が不足していると論じられるようになった

第二に、東京都の財政状況の悪化が挙げられる。先に述べたように、地域金融の担い手の不足は、必然的に公的金融に対する依存度を高めることに繋がる。都市銀行の中小企業への与信額縮小は、公的金融を肥大化・非効率化させることにつながり、そもそもバブル期における土地投機によって多額の不良債権を抱えることになった金融機関の負債を、結果的に観れば地方公共団体に移転させることになる。こういった、伝統的な金融事情と、金融機関に対する不信感、都官僚の中でもエスタブリッシュメント層を形成する財政部門を中心とする、反市場経済的な官僚層の政治信念が、石原都知事という政治家の登場によって実現してしまったというのが、SGTの不幸の始まりである

SGT構想が本格化した2003年の段階で、すでにSGTの設立に対しては金融界のみならず、極めて広範に採算性を疑問視する声があった。最も基本的な反対論としては、公的金融を(行政が出資する)民間金融機関が代替することの矛盾である。そもそも、公的金融とは民間金融機関が手がけるには採算性が乏しく、行政の一定の目的を達成するために行政が手がける金融である。それを、都が出資しているとは言え、利益追求を最大の目的とする民間金融機関が行うことは困難であると思われた。

もちろん、こう言った批判に対しては、SGTは、従来の金融機関が手がけていない融資を行い、中小企業の資金難を解決すると同時に公的金融を補完するものだと主張された。確かに、当時民間の金融機関は、ミドルリスク・ミドルリターンの領域に対して有効な商品を持っておらず、与信査定も担保主義を取っていたために、担保を持たない創業期の企業や、零細業者に対して有効な金融機能を提供することができなかった。SGTは、こういった領域に対して、担保主義ではなく、企業の財務分析、特にキャッシュフロー分析を通じて、融資対象の収益力を正確に分析し、比較的低いリスクで高い金利を得る経営モデルを描いていた

ただ、こういった営業形態は、銀行側が融資対象となる企業の財務状態を正確に把握していることが前提となる。しかし、中小企業の財務状況というのは、古今東西を問わず、財務諸表を通じた分析が非常に難しい。そもそも、個人事業主の中には、青色申告を行っていない事業主もあるわけで、そう言った問題を解決するために、邦銀は伝統的に担保主義的な融資に加え、融資対象の経営者に対して融資の個人保証を要求してきたわけだ。一方で、商工ローンに代表されるノンバンクの融資は、融資対象の事業規模から一定の倒産確率を弾き出し、融資を特定の地域ではなく全国に分散させ、高金利帯での融資需要を掘り起こすことでリスクを回避してきた

SGTは、都が出資することもあり、出資金が毀損することを最大限に回避することが、SGTの経営指針となったマスタープラン策定の段階で重要視された。そして、スコアリングモデル融資の採用にあたっては、青色申告を行っていることや、過去の一定年にわたる正確な財務諸表の作成を融資の前提とした。しかし、こういった融資を受けることができる融資先は非常に限定されてしまうわけで、スコアリングモデル融資を採用している限りは、「超過債務でも赤字でも融資します」と言われて集まってきた融資希望者も、条件の高さに尻込みしてしまうという状況になってしまった

また、融資が増えなかったもう一つの要因として、人材難が挙げられる。単純に、決済機能に限定されたネット銀行を設立する場合でも、決済システムの整備や、ITシステムの整備のために、かなりの本部要員が必要となる。これに加えて、SGTは有店舗型の融資営業を行う必要があるために、当初からかなりの営業人員が必要だった。SGTは、システムやコールセンター業務などは原則的にアウトソースを利用することで人件費の高騰と、人材の確保問題については目処をつけたが、管理部門や営業部門の人員の確保には、大規模な中途採用を行わなければならなかった

SGTの社長には、トヨタグループから前豊田通商監査役の、仁司泰正氏が招聘されるなど、ちょっと悪い言い方をすれば「SGTは都と民間企業の出資による銀行」という体面を取り繕うために、民間出身の経営者や、(SGTとは本来競合するはずの)信金の大物経営者などを迎えた。一方で、経営の基本計画となるマスタープランの策定に際して、都財務局の行政官僚が強い影響を与えた関係から、執行役以下の中堅層には都関係者も多く、一方で管理部門や営業部門など実務を担当する人員には、金融機関で実務経験のある者を中途採用した

実のところ、SGT以外の新規参入銀行というのは、どこもある程度は大手の金融機関から人員を派遣してもらうことで開業している。例えば、ジャパンネット銀行やソニー銀行は三井住友銀行から、セブン銀行はUFJ銀行から、イーバンク銀行は元々長銀関係者が設立した経緯から、破綻した長信銀や外資、都銀出身者が多い。しかし、SGTは金融界の大反対の下に設立されたわけで、人材の確保は当初から非常に難航した。当時、金融不況の最悪期であったので、希望者の数では問題はなかったものの、銀行が求める質が確保できなかったことと、SGTの給与体系が都の人事体系を元に策定されたために、条件面で折り合わず人員が確保できないという事態が当初から発生していた

これに加えて、「銀行経営に関してはド素人に近い民間企業出身の経営陣」と、「銀行経営どころか民間の状況にも明るくない行政官僚」、そして「金融機関で使い物にならずリストラされた元銀行員」が、「従来の銀行とは異なる形態の融資」に乗り出したわけだから、コーポレート・ガバナンスが確立されようはずがない。元々人材不足だったSGTは、実際に営業を開始してみると、組織内の意見の不一致が表面化して、速いスピードで人材が流出してしまった。こうして、SGTは恒常的な人員不足を解決するために、常に中途採用を募集しなければならない事態となり、思ったように業益を拡大することができなかった

そして、マスタープラン策定段階では、それなりに画期的だった「ミドルリスク・ミドルリターン」セグメントへの営業も、都銀や信金が商工ローン型のリスク管理手法による新しい融資商品を次々に投入したことで、開業時には新規性が薄らいでいた。融資の苦戦によって、SGTは本来の目的であった中小企業融資から、融資ボリュームの稼げる大企業融資にも手を出すようになり(元々この分野は競争が激しく利鞘が低い)、また人材難から新規商品の開発や、融資先の開拓が思うようにいかないという悪循環に陥ってしまった

「収益モデルの崩壊」「人材難」に加えて問題だったのが、SGTは当初から「フルバンキングサービス」を指向した銀行であったことも大きな問題だった。SGT社長の仁司泰正氏はかつて、SGTを「小さく生んで大きく育てるトヨタ流経営」を標榜していた。しかし、現実にはSGTは開業前のマスタープラン策定段階で、単なる中小企業融資を行う銀行としてだけでなく、個人預金者を集めて決済機能の提供や、クレジットカードの発行、ATMやネット決済支援サービスを行うなど、フルバンキングを標榜しており、当初から非常に大掛かりで総花的な経営計画が立てられていた

こういった、あれもこれも手を広げすぎた経営計画は、管理体制とITシステムの巨大化をもたらした。特に、新規開業銀行においては、初期のシステム投資が負担となりやすく、新規開業銀行の多くは業務を限定して開業し、営業が軌道に乗ったところで少しずつサービスを拡充する方法を取っている。しかし、SGTの場合には当初から融資資金の確保を、社債発行と共に個人顧客からの定期預金にも重点を置いていた。しかも、中小企業融資の目的とは本来は関係ない、個人顧客への決済機能の提供まで手を広げていたために、多額の初期投資が必要となった

このため、SGTは勘定系システムの採用に際して、NTTコミュニケーションズ(NTTcom)との間でアウトソーシング契約を締結している。SGTの個人顧客向けサービスは、ICカード認証システムであるセーフティパスを金融機関としては初めて採用し、セキュリティの高さを売りにしていたが、これらはNTTcomが普及に際して苦戦していたソリューションだった。NTTcomは、さらにコールセンターなどの運用や、勘定系システムを含めた情報システム全般の運用も受注しているが、実際のシステムは日立製作所の第二地銀向けアウトソーシングパッケージであるNEXBASEを、インターネットバンキングシステムには同じく日立のFinemaxを採用するなど、非常に複雑なアウトソーシング契約になっていた

NEXTBASEは、元々はNTTデータが地銀向けの勘定系アウトソーシングサービスである地銀共同センター向けに開発したBeSTAというパッケージを、日立がライセンスを受けて体系化し、規模の小さい第二地銀向けに展開しているものである。パッケージとしてはそれなりに優秀で、採用行も現在のところ7行前後とまぁまぁの評価を受けている。しかし、NEXTBASEは、すでに銀行業を展開している第二地銀の既存システムを置き換える目的で開発されたもので、SGTのような新規参入行にとってはオーバースペックとまでは言わなくても、いきなりフルコースなシステムであると言える

ネット銀行などでは、勘定系パッケージを導入する際でも、拡張性に優れたパッケージを採用し、限定的な機能の利用から拡張する形態を取るケースが多い。JNBやソニー銀行、オリックス信託銀行が採用している富士通のネット銀行向け勘定系パッケージのW-BANKは、UNIXとOracleを使ったシステムだが、規模や機能での拡張性がそれなりに用意されているし、新生銀行や日本振興銀行が採用しているFlexcubeは、機能コンポートメントを組み合わせることで、フルバンキングからナローバンキングまで広く対応するパッケージだ。しかし、SGT外採用したNEXTBASEは、フルバンキングを提供する一般的な銀行が要求する機能を全て盛り込んだシステムで、プラットフォームも日立製メインフレームで稼動するなど極めてハイスペックなシステムだ

インターネットバンキングに採用されているFinemaxも、やはり地銀・第二地銀向けに開発された日立製の共同センター型パッケージである。こちらの方は、地銀・第二地銀向けということもあって、最小限の機能しか提供されておらず、お世辞にもネット銀行や都銀のインターネットバンキングシステムと比べて使い勝手は悪い。実際に、同じような機能を提供しているNTTデータのANSER-Webに押されてシェアは減少気味であり、デフォルトの機能ではフィッシング詐欺の元凶となる問題点が多数指摘されている

システムをアウトソーシングするということは、銀行側にとっては高い管理能力によって、アウトソーシング先の管理を行うか、もしくは業務をアウトソーシング先に全て丸投げしてしまって、本来業務に集中するかどちらかの方法を取ることになる。SGTの場合には間違いなく後者であるが、地銀向けに開発されたNEXTBASEが提供する業務体系は、店頭での体面営業を前提とするもので、基本的に個人客は手紙やインターネット、コールセンター経由で預金手続を行うSGTの業務とは馴染まない。例えば、SGTの口座開設申込書は4枚程度の複写用紙で、住所氏名から全て手書きで記入する必要があり、相違点があれば新しい用紙に書き直す必要があるが、他のネット銀行では、ネット上で用紙を請求した段階で入力した必要事項が1枚か2枚程度に印字されて送られてくるわけで、顧客は最小限の記入事項だけで済む。銀行によっては、送付段階で口座番号が仮採番されて送られてくるものもあり、開設時の事務コストや顧客の利便性に最大限の配慮を行っている

しかし、SGTはパッケージ化された「既存の銀行」の業務体系をそのまま採用しているわけで、業務のひとつひとつが顧客の利便性の向上や、コストを削減する知恵を絞った形跡が見当たらない。個人顧客と定期預金の獲得にも苦戦しているSGTは、融資営業と同じように法人からの大口預金の獲得を行うことで何とか預金の獲得を行っているが、口座開設数が計画を大幅に下回るために、顧客にアンケートを送りつけて振り込み手数料の(月5回までの)無料化を図ったり、提携ATM利用手数料徴収を延期したりとなりふり構わない方策を打ち出している。しかし、(顧客にアンケートを送りつけて決定した方針とはいえ)、新生銀行などがATM手数料や振込み手数料を無料化しているのは、預金以外の投資性商品のクロスセリングのためには、生活口座としてのメリットを出す必要があるためであり、当初から生活口座としての条件が不十分なSGTの口座数は、そう簡単には増えないだろうし、増えたとしても収益には全く繋がらない

以上に観てきたように、SGTの失敗の要因は銀行経営における基本的な要素である、人的集約的な側面と装置集約的な側面の二つの面で大きな失敗を行っていることがわかる。また、収益モデルの確立という最も重要な要素の確立すらできていない。この銀行が、開業資金を食いつぶしてしまうのは、そう遠くはないだろうが、政治的な要因によって設立された銀行であるゆえに、その処理に関してはそう簡単にはいかないのではないかと思ったりする次第である
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