【J1:第34節 広島 vs G大阪】レポート:若者たちを中心にサッカーの楽しさを思い出した広島が、ロスタイムの同点劇で入れ替え戦に弾みをつける。 [ J's GOAL ]
12月1日(土) 2007 J1リーグ戦 第34節
広島 2 - 2 G大阪 (14:34/
広島ビ/14,173人)
得点者:7' 佐藤寿人(広島)、27' バレー(G大阪)、80' 二川孝広(G大阪)、89' 槙野智章(広島)
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サッカーって、楽しいものなんだ。
今日、ビッグアーチに集った広島サポーターは、きっとそう感じて家路についたことだろう。このところ、クラブを包んでいた重苦しい雰囲気と沈滞ムードを吹き飛ばすような「楽しいサッカー」が、広島に戻ってきた。
その「楽しさ」を演出したのが、高萩洋次郎という21歳の若者である。この広島ユース育ちのタレントは、昨年は愛媛FCで大きく成長して戻ってきたはずだった。しかし、守備の軽さと切り替えの遅さが災いし、サテライトでも苦境が続く。途中出場のチャンスも自分のプレーはできずに評価を落とした。
だが、サテライトでリベロを経験したことで守備の意識が高まった高萩は、最終節にして巡ってきた先発のチャンスに自らの気持ちを燃え立たせる。7分、左サイドでボールを持った高萩は、小さな振り幅で右足を振り切った。ボールは糸を引いて約60m離れていた駒野友一の足下へピタリ。李漢宰とのワンツーから抜け出した駒野は、美しいクロスから佐藤寿人の先制点を導いた。その起点は、間違いなく高萩の美しいサイドチェンジだったのだ。
後半、雰囲気に慣れてきた高萩の攻撃力が、爆発する。後半立ち上がり、同期生・高柳一誠の縦パスから一気に裏へと抜け出し、相手GKを引きつけて佐藤寿人へ。必死に戻ってきたシジクレイによって弾かれたものの、高萩がただのパッサーではなく、持ち前の運動量を活かして裏へも飛び出せる選手であることを示した。
その後も、G大阪の圧力の前に押し込まれはしても、高萩はしっかりと我慢してチャンスを待った。守備の弱点が改善されたとは言えないが、リベロの経験が生きたのか軽いプレーが格段に少なくなり、ゲームの流れを読んで速く前に行くべき時と落ち着かせる時の判断が明確となった。彼の持ち味である思い切りに、バランス感覚が加わったのである。
75分、盛田の縦パスに抜け出したのは、またも高萩。G大阪守備陣は、彼の飛び出しに対応できない。完全にフリーとなった高萩のシュートは藤ヶ谷陽介のファインセーブによって防がれたが、勢いに乗った高萩は77分にはワンタッチ・サイドチェンジによって一気に局面を変え、左サイド・遊佐克美のドリブル突破を導いた。
遠藤保仁や二川孝広らの見せるG大阪のパスワークは、落ち着いたボールキープを前提にして、緩急を上手く使っていくスタイル。一方、高萩を中心に広島が見せた攻撃は、ワンタッチパスを鋭く早くつなぎ、大きなサイドチェンジを駆使するダイナミックなもの。だが、それを活かすためには、選手全員が仲間のために惜しみなく、思い切って走り続けなければならない。この日の広島は、そのペトロヴィッチ監督のコンセプトを忠実に守ってよく走った。また守備でも、前半こそ実力者を揃えたG大阪を相手に腰が引けていたが、G大阪のスタイルに慣れた後半は気持ちを前に押し出して戦い続けた。だからこそ、広島のカウンターがG大阪の脅威となりえたし、高萩を中心としたパスワークとランニングサッカーがサポーターの興奮を誘ったのである。
試合は、バレーのヘッドと二川の息をのむような美しい無回転シュートによって、G大阪が一度は逆転した。しかし、ボールを支配しても相手の組織を崩せず、クロスも跳ね返されるG大阪の攻撃は、広島を打ちのめすことができない。89分、カウンターからバレーが決定的なチャンスを得るも、広島DF吉弘充志が身体を寄せたためにゴールできず。その逸機がG大阪にとって大きく響いた。ロスタイム、柏木陽介の左CKを槙野がヘッドでJ初得点となる同点ゴールを叩き込むという劇的な展開で、主力を6人欠く広島がG大阪を相手に勝ち点1を獲得した。
この日の広島は入れ替え戦がほぼ決定していたために、J1残留への重圧から一時的に解放されていた。だが、そういう事情を差し引いても、これまで出場のチャンスが少なかった高萩や李漢宰、高柳一誠らが表現した連動して走るサッカーは、ダイナミックで開放感に満ちていたもの。この楽しさこそ、実はペトロヴィッチ監督が目指していたものだったのが、それを忘れてしまったことが苦境につながったのである。
だが、それはもう言うまい。広島にとって大切なのは、来週の入れ替え戦を乗り切ること。そのためにも今日のサッカーを見失わず、楽しさを持って闘いたい。難しい課題ではあるが、それこそ広島に幸福をもたらす絶対条件となるだろう。
以上
2007.12.01 Reported by 中野和也