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2007年12月2日

◎ヴィトンと輪島塗 発想次第では世界ブランド

 固定概念にとらわれない大胆な発想や、それをビジネスにつなげる企画力があれば、輪 島塗の海外への販路は無限に広がるのではないだろうか。ルイ・ヴィトンと輪島塗が融合した小物ケースの制作、さらには米国人向けアクセサリー開発と続く最近の試みは、輪島塗の潜在価値や可能性の大きさをあらためて感じさせる。

 ルイ・ヴィトンと輪島塗の共同作品は、ファッション雑誌の企画で実現した。ルイ・ヴ ィトンおなじみのモノグラムを金蒔絵で彩色した六角形の小物ケースで、限定販売される商品の収益金は能登半島地震からの復興に役立てられる。

 先月、ルイ・ヴィトン家の六代目ピエール・ルイ・ヴィトン氏が発注先である輪島市の 工房を訪れ、「さらに新しい目を開いていけば、輪島塗は世界的なブランドになる」と語ったが、これは決してお世辞ではないだろう。

 ルイ・ヴィトンは木箱製造職人が旅行かばん店を開いたのが始まりであり、伝統技術に 現代性を吹き込み、長く使うほど風格が出るという輪島塗に共通の価値観を感じ取ったようだ。世界ブランドからの高い評価は産地にとっては何よりの励みであり、作り手はもっと自信を持ってよいのではないか。

 輪島塗については二〇〇五年に中小企業庁の「JAPANブランド育成支援事業」に採 択され、海外の販路開拓が本格化している。昨年、デザイナーを起用し、ニューヨークでアクセサリーを出品したところ予想以上の反響があった。このため、「まちづくり輪島」が開設したニューヨーク常設店で若手作家の作品を並べ、需要を探りながら今回新たにブローチ、ペンダントなどを開発した。漆芸品に宝石のような装飾性を追求していくことは、今後のビジネス展開の新機軸になり得るだろう。

 ルイ・ヴィトンが日本で定着したのも、歴史や伝統をストーリー化して発信し、若い女 性をターゲットにした日本向け広報戦略があったからである。輪島塗が海外へ販路を広げるには、伝統技術を日本的な様式のまま売り出すだけでなく、海外の人に好まれるデザインや色彩、造形を徹底的に研究し、現地の生活スタイルに合わせた「海外仕様」を積極的に提案する必要がある。

◎子どもの携帯電話 業界も閲覧規制の周知を

 携帯電話の有害サイトの閲覧を制限するフィルタリングサービスの小中高校生の利用者 が、全体の三分の一の約二百十万人に上り、ここ一年で三倍に急増した。業界では一年前から、購入する際の保護者の同意書に同サービスの利用の有無を明記しなければ契約できない制度を導入した結果、サービスが広く認知されてきたようだ。子どもにとっても家族との連絡などで携帯の利便性は高い。安心して利用してもらうには、今後も購入段階で閲覧制限の周知をさらに図るなど、業界側の細やかな対応が求められる。

 警察庁のまとめでは、昨年一年間で出会い系サイトがきっかけとなった事件の摘発件数 は、前年比21%増の千九百十五件となり、児童買春などの被害者も9%増の千三百八十七人。被害者の83%が十八歳未満で、ほとんどが携帯電話からのアクセスが発端だったという。

 売春目的などで出会い系サイトに書き込みをする「不正誘引」も二・六倍増えたが、十 八歳未満の犯行がその四割近くを占めていることから、サイトがきっかけとなって、犯罪の被害者だけではなく、犯罪を犯す側の低年齢化も進んできたことを裏付けている。

 ただ、憲法の保障する「表現の自由」との関係で、たとえば共犯者募集、自殺誘引、薬 物売買などの有害サイトであっても法的規制は難しいのが現状で、被害を食い止める特効薬はないとの指摘もある。

 政府はIT戦略本部で、有害サイト集中対策として、情報モラル教育の推進や、有害情 報を監視するサイトパトロールを民間委託して情報収集体制を強化することを盛り込んだが、実効性のある対策としては、サイト管理者に対して違法・有害情報の削除を促すことや、フィルタリングの導入促進が柱となろう。

 このために政府は、これまで携帯電話業界の自主的な対応を求めており、業界側は二〇 〇三年から順次フィルタリングサービスを無料化してきた。先の利用者調査は、携帯電話会社などで組織する電気通信事業者協会によるものだが、業界として普及状況の把握のほか、若い世代を対象に、有害サイトの怖さや利用法を指導する場も設けてはどうか。


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