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2007年11月29日
改正消安法で「売り切り御免」はもうおしまい(前編)
「売り切り御免」の姿勢を斬る
耐久消費財を扱うメーカーならば、「売った後はもう知りません」などという態度は許されない。購入者や顧客に「とりあえず売ってしまえば何とかなる」という態度を少しでも見せたが最後、中長期的には業績に大きな影響を与えるほどのブランド・イメージ低下を引き起こす。筆者はこう考えている。
筆者は「売った後は知らん」というメーカーの態度を「売り切り御免」と表現している。過去筆者は各種の研究会や研修の講師として「売り切り御免を今すぐ止めよ」と、名だたる家電メーカーの担当者に訴えかけたことがある。しかし、ほとんどの場合、売り切り御免の態度を変容させることはできなかった。「誰もが使っているメーカーの人々がこうでは、何も変わらない」。筆者は心の中でこう嘆いた。その後各種メディアには、売り切り御免の態度でトラブルを起こしたメーカーが相次ぎ登場した。メーカーがこうでは、家電量販店も保守サービス会社も変わらない。
(筆者が関わった企業では、東芝テクノネットワークで少し変化が見られた程度だった。この会社は、東芝製家電製品の修理やメンテナンス・サービスを手掛けている)
消安法の改正と施行に対しては、本質的な部分からアプローチする必要がある。組織と業務プロセスの体裁を整えただけでは、解決はできない。
まず、どんな立場であろうとその製品を扱うのであれば、製品を購入した顧客とは継続的な関係醸成を目指すべきである。製品メーカー、販売店、工事店、保守サービス会社、どの会社も等しく深く、顧客と関係を構築する必要がある。
松下電器産業の例を見てみよう。「顧客に誠実に対応している」と評価されている同社はいま、石油暖房機のトラブル問題で大きなコスト負担を強いられている(同社のWebサイトを開くと、最初にこのお知らせが表示される)。過去に試みてきた顧客データベースの構築プロジェクトを放棄していなければ、ここまでの事態にはならなかったはずだ。筆者はこう考えている。
家電製品メーカーで松下電器産業だけが製品販売店ネットワーク(いわゆる「系列店」だ)を維持している。松下電器産業は系列店を強みに転換すべく、過去何度もさまざまな施策を試みてきた。系列店を足がかりにして製品購入者のデータベースを作り、顧客ごとに保有する耐久家電製品のリストを整理。顧客との関係醸成プログラムを施行し、製品の買い換え需要を促そう――。こんな形のものである。
松下電器産業は「マネシタデンキ」と揶揄(やゆ)された時代、自社製品の販売方法を真剣に調査研究するという組織風土だった。過去同社は「ラックジョバー(rack jobber)」を学術的に調査研究し、販売店店頭での乾電池や電球類の販売と展示に関する独特の形態を編み出した。ラックジョバーとは、スーパーなど小売店に販売スペースを間借りし、管理契約を結んだ問屋のことを指す。小売店側ではなく問屋側が商品管理の一切を引き受けることが特徴である。これは今で言う「セルフサービス販売」の原型となった。
そんな松下電器産業は90年代の初め頃、データベース・マーケティングをしきりに調査研究していた。顧客データを分析し最適な販売活動を展開することで、疲弊しつつある系列店を蘇(よみがえ)らせる鍵になる、という読みと期待からだった。データベースを作るために、同社は系列店に対して、顧客が保有する耐久消費財のデータを集めるよう依頼していた。当時1千数百万世帯の情報を集めていると筆者は聞かされた。当時は、このアプローチを試みる国内唯一の家電製品メーカーだった。
しかし、販路の構造変化、経営危機、PL法施行、個人情報保護といった流れの中で、松下電器産業は販売方法の調査研究という良い伝統と過去の蓄積を手放してしまったのだろう。他の家電製品メーカーと同様に、過去に蓄えた顧客情報をどこかで破棄してしまったのではないかと筆者は見ている。どのような顧客情報であっても、蓄えた顧客情報を破棄することは「顧客を破棄する」ことを意味する。
「売り切り御免」という「反顧客志向」が残る日本の家電メーカーや量販店は、今一度その姿勢を変えるべき時期に来ている。
次回は、メーカーや販売店、サービス会社それぞれが消安法に対応しつつ「売り切り御免」志向を切り替えるためのアイデアを示したい。CRMアプリとコンタクト・センターを駆使するというものだ。
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