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2007年11月29日
改正消安法で「売り切り御免」はもうおしまい(前編)
品質保証制度の危うさ
次に、購入者の手元にある品質保証書について考えてみよう。耐久消費財には製品メーカーが発行した保証書が必ず添付・同梱される。この保証書は、家電製品メーカーと製品販売店、そして購入者それぞれに記録が残る形態になっている。
ただそれは、製品の販売店がきちんと取り扱っていることが前提の話である。建前上、販売店が品質保証制度の主旨に沿ってメーカー発行の品質保証書を取り扱うことになっている。だがすっかり形骸化してしまっており、メーカーには購入者情報が正確に伝わっていないのが実態だ。
製品メーカーが用意した品質保証書は、基本的に3枚複写式になっている。そこに示されている記載欄に内容をすべて埋め、複写分をそれぞれ必要な組織に伝達。各組織がきちんと保管することではじめて、購入者が特定できるようになる。
ところが、もう20数年前から販売店と製品メーカーにおける品質保証書の取り扱いはおかしくなっている。販売店では購入者に対して保証書の記入を徹底してもらうよう依頼していない。販売店はメーカーに保証書を送らない。販売店でもメーカーでも保証書の自己保管分をきちんと管理していない。こんな具合である。そして購入者はこれらの必須事項を徹底するよう販売店やメーカーに要求していない。購入者が要求しないのはある種の「品質神話」が背景にあると筆者は考えている。
海外ではどうか。米国を挙げてみよう。まず、品質保証の発行の仕方が違う。製品に同梱されている品質保証登録書(日本語で表現するとこんな雰囲気だ)に必要事項を記入して、製品メーカーに郵送する。その郵送物を投函することではじめて品質保証が発効する形になっている。この方法なら、製品メーカーに情報が伝わりやすい。また消費者に「投函する」という能動的な行動を促すことで、品質保証制度への参加意識を持たせているとも解釈できる。
品質保証にまつわる制度や仕組み、運用方法については過去製品メーカー各社が継続的に研究してきた。製造物責任法(通称PL法)が施行されると決まった1990年代前半のことだ。国内の多くのメーカーはすでに、製品メーカーだけでは品質保証制度うまく機能しないことに気付いていた。前にも触れたように、メーカー、販売店、保守や施工などを扱うフィールド・サービス提供業者、そして購入者(顧客)といった関係者それぞれが主体的に参加しないと、品質保証制度は機能しないのだ。
ガス会社に見る品質維持
ガス会社では品質保証をうまく回すための仕組みが機能している。まずガス会社は、ガス器具を購入して設置する際、供給業者やその委託を受けた事業者の係員を必ず立ち会わせるという方法を採用している。加えて、ガス会社は利用者の動向をリモートでしっかり監視している。ガスという危険を伴うものを扱っているからだ。
随分と昔の話だ。筆者が西武新宿線・都立家政駅近くの古い学生向けアパートで一人暮らしを始めた頃のことである。ある日、大家さんから「東京ガスが点検に来るから、不在の時に部屋に入れてもよいですか」と聞かれた。
筆者は「いいですよ」と応えたが、「何で東京ガスが点検に来るのだろう」と思ってそのことを質問した。「私の部屋のガス使用量が急激に増えていて、東京ガスがその理由を知りたいらしい」ということだった。当時季節は冬で急激に冷え込んでいて、すぐに暖かくなるガスストーブを使い始めていた。ガスストーブを接続することには何の不思議もないのだが、ガス会社が利用者の動向を見ていることを示すエピソードである。
他にもある。東京ガスはフランチャイズ制で工事と製品販売を行うエネスタを展開している。大阪ガスでは大阪ガスサービスショップを展開している。大阪ガスのWebサイト内にある修理サービスのページを見ると、
『「大阪ガスの機器じゃないから大阪ガスサービスショップに電話しても・・・」とお考えの方。大阪ガス製品以外のメンテナンスも承りますので、お気軽にご相談ください。※メーカーによって対応できない製品も一部あります。ご了承ください。』
とある。「事故防止が第一ですから、不安があったらとにもかくにもショップか大阪ガスお客さまセンターまで電話連絡してください」というスタンスなのだ。ガス会社は一歩間違えば大事故につながるものを扱っているという前提があるにしても、多くの企業は消費者の利用状況に敏感で、メンテナンスに真摯なガス会社のスタンスを見習うべきだろう。
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