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メタボ再考:揺らぐ診断基準/1 「シンボル」腹囲基準 「不正確」内外から異論

 「腹囲の精度に限界があるのは事実。どこで基準を切っても異論は出る。僕らも、特に日本人女性は基準作りが難しいと論文にしたことがある」

 日本内科学会など8学会で作るメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)診断基準検討委員会の委員長で、日本のメタボ研究をリードしてきた松澤佑次・住友病院長(大阪大名誉教授)は、毎日新聞の取材に意外な言葉を漏らした。

 松澤院長は「基準を健診に使うことは考えていなかった」と話し、「糖尿病や高血圧を指摘された人は腹囲を測り、基準を超えた人に内臓脂肪を減らす生活指導をするのがいいと言い続けている」と説明する。

 腹囲は血圧などに異常がある人だけ測るべきだともとれる説明だが、基準は腹囲を第一条件とする。松澤院長は「内臓脂肪が原因との学問的考え方からは腹囲を第一の条件にするのが自然だ。精度は別にして腹囲はシンボル。みんなが腹囲を健康の目標にしたという点からもよかった」と話す。

 大阪大で松澤院長とともに研究を続けた船橋徹・阪大准教授は「薬を使わず、食事、運動などを集団指導できる」とメタボの意義を強調する一方で、こう話した。

 「全員が腹囲を測る必要はない。脂質、血圧、血糖がまず基本。そういう意味では(基準を)改定しないといけないかもしれない」

   ■    ■

 基準には、国内外から異論が相次いでいる。

 腹囲基準は、内臓脂肪の断面積が心筋梗塞(こうそく)などの危険性が高まる量に達している人を見つけるのが目的。日本の基準は、面積を男女とも100平方センチとして策定。ところが、京都大などのチームが職域健診に参加した近畿の3574人を分析したところ、注意すべき面積は男性100平方センチ、女性65平方センチだった。

 九州大が、福岡県久山町の住民健診結果(2452人)から、心筋梗塞などを起こした人と腹囲との関係を調べると、日本より国際糖尿病連合の基準の方が対象者を的確に把握できた。

 日本の腹囲基準は、これらの研究より少ない男女計755人の腹囲と内臓脂肪面積の関係が基になっている。特に女性は196人で、旧厚生省研究班の報告書は「例数も少なく、さらに検討を要する」としたが、そのまま基準になった。

 ワシントン大のフジモト名誉教授らが07年1月、米糖尿病学会誌に発表した日系米国人639人の調査結果によると、性別や年齢によって、基準とすべき腹囲や内臓脂肪面積は大きく違う。フジモト名誉教授らは、内臓脂肪面積を男女一緒に取り扱った日本の策定手法は問題があり「再評価すべきだ」と指摘している。

   ■    ■

 そもそも、腹囲を正確に測ることも難しい。

 北里研究所病院(東京都港区)の山田悟・糖尿病センター長らが先月、英医学誌「ランセット」に発表した論文。男女20人の腹囲を医師と看護師計10人が測定した結果、同じ人の腹囲が測定者によって平均4・1センチ、最大7・8センチもずれた。測定に参加した医師や看護師は、腹囲を測り慣れているうえ、事前に測り方の講習も受けていた。

 山田センター長は「健診での測定は通常、1人1回限り。これだけぶれが大きいものを診断基準にすることは難しい」と指摘する。=つづく

   ×    ×

 来年度からは、多くの国民が腹囲を基に健康か不健康かを判断されることになる。問題点を追った。

毎日新聞 2007年12月2日 東京朝刊

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