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「剥離完遂の判断に誤りはない」検察側証言を完全否定

福島県立大野病院事件第10回公判

OhmyNews編集部(2007-12-02 02:30)
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 福島県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀した産婦人科の加藤克彦医師が業務上過失致死と医師法21条(異状死の届け出)違反に問われている事件の第10回公判が11月30日、福島地裁で開かれた。

 弁護側の証人尋問は4回目で、この日は、周産期医学を専門とする宮崎大学医学部産婦人科の池ノ上克教授(同大医学部長)が出廷。ハイリスク分娩を主として扱う同大病院周産母子センターで、現在も年約300件の分娩に直接・間接に関与する臨床医の立場から、

 「一般的な産科医療のレベルから見て、(加藤医師がこの件で行った処置に)間違いがあったとはいえない。私も同じような処置をしたと思う」と、加藤医師を全面的に擁護する主張を展開した。

「胎盤剥離を中止することはない」

公判前整理手続きが行われているにも関わらず、初公判からまもなく1年がたつこの事件。判決が出るのにさらに半年ほどかかりそうだ=11月30日正午、福島地裁前(撮影:軸丸靖子)
 裁判で検察側は、加藤医師が手術中、癒着胎盤であると判断した時点で胎盤剥離を中止し、ただちに子宮を摘出すべきだったと、加藤医師の判断ミスを指摘している。

 これに対し池ノ上教授は、宮崎大学病院産婦人科で91年(当時は宮崎医科大学)から扱った癒着胎盤症例の実績を説明。症例12例のうち、胎盤剥離をせず に子宮を摘出したケースは5例で、残りの7例はいずれも胎盤を剥離したのちに子宮を摘出(4例)あるいは温存(3例)したとして、

 「胎盤を除去すれば、子宮筋層が収縮して血管を押しつぶすので血が止まりやすくなるという機序(仕組み)だから、胎盤はく離を優先する」

 「子宮を摘出するにしても、大きな胎盤が残ったままだと手術操作がしにくいので、(胎盤剥離を始めたら)中止することはない」

と述べ、検察側の主張を否定した。

 また、争点のひとつとなっているクーパー(手術用はさみ)の使用について、池ノ上教授は、

 「(遺残した胎盤をかき出すのに)私たちの教室ではキュレットを使っている」

と、器具を用いることに問題はないと証言。キュレットとは、先端部に穴が開いていて、にぶい刃のようなものが付いた長さ30cm程度の細長い器具で、子宮内の組織をかき出すのに使用されるものだ。さらに

 「私自身はないが、かつての同僚が(胎盤剥離に)クーパーを使っていると聞いたことがある」

と述べ、クーパーを使用したことには問題がなかったとする弁護側の主張を裏付けた。

 また、第6回の公判で、検察側証人に立った新潟大学医学部産婦人科学の田中憲一教授の「胎盤剥離を完了する前に子宮を摘出すべきだった」との証言に対しては、

 「後から振り返って見ればそうかもしれないが、その時点に立って考えてみれば(胎盤剥離を完了した直後の2555ccという)出血量は多くないので、私も子宮摘出という判断はしない。加藤医師が胎盤剥離を完了させた判断に誤りはない」

と反論。その後、15分間で5000ccを超える大量出血となったことについても、

 「癒着胎盤に続いてDIC(播種性血管内凝固症候群=血液凝固因子が不足して、血が止まらなくなる状態)が起こり始めたのではないか。一般的に産科医が行う止血処置はすべてしている」

と述べ、予測不能な事態が起こったこと、それに対しては最善の処置が行われていると、加藤医師を擁護した。

 検察側は反対尋問で、大量出血となったにもかかわらず、加藤医師が他の医師の応援を断ったことについて問いただしたが、池ノ上教授は、

 「基本的な処置ができる外科医が助手についていれば応援は必要ない。加藤医師も最終的に子宮摘出できている」

と一蹴。

 検察側は、池ノ上教授が供述書や病理記録を吟味せずに、カルテだけを見て意見書や鑑定書を書いた点を突き、証言の信憑性を弱めようと試みる場面も見られたが、全体的に弁護側の主尋問をなぞるような質問に終始し、有効な証言を引き出せないまま、普段より1~2時間早い16時に証人尋問は終了した。

 今回の尋問を担当した兼川真紀弁護士は裁判後の記者会見で、

 「臨床の現場がどのようなものかを伝えたいという気持ちで質問した。裁判官は実際の医師がどのように手術をしているかを知って判断してほしい」

と話した。

判決は来年夏以降に?

 次回は12月21日に加藤医師に対する本人尋問の続きがおこなわれる予定だが、弁護側が医師法21条をめぐり申請していた証人(東京大学法学部・大学院法学政治学研究科・樋口範雄教授)は却下された。医師法21条違反で起訴されているにも関わらず、これについての弁論は行われないことになる。

 そのため、弁護側は早い結審を求めたが、「書面のやりとりで反論するのに時間がかかる」とする検察側の要請で、論告求刑が3月14日、弁護側の最終尋問が5月9日と決まった。

 来年春ごろと見られていた判決は、夏ごろにずれ込みそうだ。
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