団塊世代を中心に「帰農」がちょっとしたブームになっている。農園―土に触れることは確かに魅力的だ。ロマンを駆り立てられるように思う。
自治体のホームページなどを開くと、帰農塾、貸し農園などを紹介している。どこもUターンを呼びかけ、定住促進策を打ち出しており、地域(都市)間競争の感さえある。広島市の団塊世代五百人を対象にしたアンケートで、「農村部での暮らしに興味がある」(34%)「農作物の栽培に興味がある」(57%)と広報誌にあった。田園生活志向が高まっていることがうかがえる。
定年後の予行演習ではないが、初めてキュウリやトマト、ピーマンなど育てた。今夏は殊のほか暑かった。自ら収穫したエダマメで冷えたビールをキューッとやると、生き返ったような気になったものだ。
秋にはダイコン、キャベツ、ハクサイなどにもチャレンジした。虫との戦い。決して出来栄えはよくないものの、無心で土に向かっていると、確かにハマりそうな面白さがある。農耕民族としてのDNAが作用しているのかもしれない。
「帰りなんいざ、田園まさに蕪(あ)れなんとす…」
さあ、田舎に帰ろう―。中国の詩人、陶淵明の「帰去来の辞」を引くまでもなく、田園、帰農という言葉は、われわれ団塊の世代でなくとも心動かされるのではないだろうか。とはいえ、年金など先行き不透明な社会保障制度や相次ぐ負担増を考えれば、そう単純に土いじりというわけにはいかないのだろうが。
(広島支社・本多薫)