現在位置:asahi.com>天声人語 天声人語2007年12月02日(日曜日)付
年齢を重ねるにつれて、光陰は、ますます矢の如(ごと)くに感じられる。気がつけば今年も、はや師走である。歳暮を贈り、賀状を書き、家のほこりも払わねばならない。勤め先では、年内が期限の仕事あり、忘年会あり。納めのあいさつに得意先をまわる人も多いだろう▼猫の手も借りたい師走が、たった2日しかなかった年がある。1872(明治5)年だ。旧暦から太陽暦に改暦され、あす12月3日が明治6年1月1日になった。つまり、きょうが「大みそか」だったことになる▼太政官布告で知らせたのは20日ほど前という。突然の改暦に国中が混乱した。唐突さの理由は、落とし話さながらだ。旧暦の明治6年には「うるう月」があった。役人の月給を13回払わなくてはならない。財政が火の車だった明治政府のお偉方は頭を抱えた▼そのとき、改暦すれば12回ですむと考えた知恵者がいたらしい。12月の月給も2日しかないからと棚上げし、2カ月分の人件費を浮かせたというから、敵もさるものである。政府に尽くし、民を惑わせる能吏の先駆けだったかもしれない▼明治6年以来の日時と曜日はいまも続いて、書店や文具店に新しい年のカレンダーがならぶ。時を見た人はいないけれど、それらは、来年という時間の「量」を視覚的に実感させてくれる▼しかしながら「質」は見えない。油断をしていると、手持ちの「時の財布」から、羽が生えたように、無為な時間が飛び去ってしまう。暦や手帳を眺め、新しい年を流れる時に思いをいたす師走でもある。 PR情報 |
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