ショウジショウイチは劇団二十一世紀少年の奴隷だ。奴隷とは最も下っ端の役者で、通行人はおろか、装置転換ぐらいしかやらせてもらえない。本業そっちのけでアルバイトに精を出し、住まいは当然風呂なしアパート。そんな彼らが唯一手にしているもの、それが夢なのだ。劇団に生きる人々をやさしく描く青春小説。
兎角、人間の演出が巧い。記号論的ではあるのだが、コードの使い方が非常に繊細で、例えば絵画の中の人物が動き出したらこういう感じなんだろうなあ、とダイレクトな描写で読ませる。そんな人物たちが劇団という半ば非日常的な空間で動くのだから一種現実と剥離した感覚すら味わう事ができる。過剰な義理人情を描く事無く、しかし最後はどこか救いと安堵を覚える三つの短編。原田宗典の小説は「軽やか」と形容するのが相応しいと常々主張しているのだが、それも鈍重で強固な土台があってこそか。