◇カギ握る「女性の権利」
「家族計画の知識はなく、産んでも体が弱い子が多かった。病気をはね返す力もなかった」。12歳から7人を出産、うち3人を失ったモニカ・ナイカガさん(29)は話す。ウガンダ東部イガンガ郊外。夫はHIV(エイズウイルス)感染が原因で30歳で死亡、自身の感染も判明した。「息子(15)の左手、娘(4)の額と背中にHIV感染の兆候が見られる。心配だ」。ナイカガさんは夫と3人の子が眠る自宅裏の墓石のそばで話す。
多産多死のケースは、サハラ砂漠以南のアフリカで依然多い。ウガンダ女性の生涯出産数は平均6・7人。イエメン、ニジェールに次ぎ世界で3番目に高い。約半数の女性が18歳未満で母親となる。
「家族が増えても稼ぎは変わらず、子どもは栄養不足に陥る。抵抗力が弱まり、母体にも過剰な負担がかかる。これがHIV感染の温床になっている」。ウガンダ家族計画協会(FPAU)イガンガ事務所のユダデ・アモス事務局長は話す。
若い母親の出産時期と重なる15~19歳のHIV感染比率は女性が男性の6倍と高く、母子感染の懸念も大きい。
悪循環を断ち切ろうとFPAUは日本政府の支援を受け、イガンガで女性の産前産後の健診普及と、HIV対策をパッケージにした支援を始めた。これは女性の性と生殖に関する権利拡大を目指す「リプロダクティブヘルス・ライツ」の発想こそがHIV対策の根幹だ、との考えからだ。
さらに日本政府は、来年5月の第4回アフリカ開発会議(TICAD4)、来年7月の北海道洞爺湖サミットに向け、エイズ対策も含めた個別の病気への対策と、母子健康手帳普及や人材育成教育など「保健システムの確立」を主要なテーマとすることを提案している。高村正彦外相は「個人や地域社会の能力強化(エンパワーメント)こそ重要」と話す。
ウガンダの国会議員、クリス・バリョムンシさんは「女性の権利が見過ごされエイズ禍となった現場がアフリカにはいくつもある。日本の提案は、アフリカの潜在力こそアフリカ社会を発展させるという発想にも合致する」と期待を寄せる。【イガンガ(ウガンダ東部)で高尾具成】
毎日新聞 2007年12月1日 東京夕刊