「サラエボの花」あらすじ エスマ(ミリャナ・カラノヴィッチ)は12歳の娘サラと2人暮らし。サラは修学旅行を心待ちにしている。ところが、戦死したシャヒード(殉教者)の遺児は旅費が免除されるというのに、エスマはその証明書を出そうとしない。不信感を抱く娘に、母はついに出生の秘密を打ち明ける…。
サッカー日本代表のイビチャ・オシム監督(66)=顔写真=が、倒れる直前に熱いメッセージを1本の映画に寄せていた。ベルリン国際映画祭グランプリの金熊賞に輝いた「サラエボの花」=同。オシム監督の故郷、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボを舞台にしている。
1992年、ユーゴスラビア解体の中で勃発したボスニア紛争。民族と宗教が複雑に絡んだ戦いは3年半に及び、死者は約20万人、難民は200万人を超えた。“民族浄化”の名の下に、約2万人のムスリム人女性がセルビア兵から集団レイプもされた。
この映画の主人公もそんな1人で、中絶もかなわずに娘を出産する。紛争が終結して12年。いまなお癒えない心の傷が描かれる。
原題は「GRBAVICA(グルバヴィッツァ)」。サラエボ中心街の西に位置する地区名だ。オシム監督は隣町のフラスノ地区で生まれ育った。そしてサッカー人生の第一歩を踏み出したのが、グルバヴィッツァにあるサッカークラブ「ジェレズニチャル・サラエボ」だった。
内戦時は仕事でベオグラードにいて戦火を免れたが、夫人と長女はサラエボを脱出できず、2年以上も離れ離れの生活を余儀なくされた。
メガホンを取ったヤスミラ・ジュバニッチ監督(32)とは同郷で、旧知の仲。彼女が9月下旬に来日した際は、オーストリア遠征中のオシム監督に代わり、長男でJ1ジェフ千葉のアマル・オシム監督が駆けつけ旧交を温めたという。
映画を見たオシム監督は11月13日、大使館を通じて次のようなメッセージを寄せてきた。
「グルバヴィッツァはかつて、すべての者が共存しながら生活を営み、サッカーをし、音楽を奏で、愛を語らえる象徴的な場所だった。そのような場所で殺りくや集団レイプなど、憎悪に満ちた行為が繰り広げられた事実を決して忘れてはならない。この映画を多くの方に見ていただきたい」
そして、その3日後の16日、急性脳梗塞で倒れた。衝撃は母国にも走った。
ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦公共放送の西浜滋彦東京支局長は「彼はサッカー人としてだけでなく、ひとりの理性的な人間として、民族の枠を越えて絶大な人気がある。みんな非常に心配している」と話す。
映画は母と娘が過酷な現実を受け止め、それを乗り越えようと決意するところで終わる。「意識を回復しつつある」というオシム監督にも、希望の光が差し込んできたと信じたい。
東京・岩波ホールで12月1日から、大阪・シネリーブル大阪で来年1月5日から上映。順次、全国公開される。
★「サラエボの花」あらすじ
エスマ(ミリャナ・カラノヴィッチ)は12歳の娘サラと2人暮らし。サラは修学旅行を心待ちにしている。ところが、戦死したシャヒード(殉教者)の遺児は旅費が免除されるというのに、エスマはその証明書を出そうとしない。不信感を抱く娘に、母はついに出生の秘密を打ち明ける…。
ZAKZAK 2007/11/30