現在位置:asahi.com>天声人語

社説天声人語

天声人語

2007年12月01日(土曜日)付

アサヒ・コム プレミアムなら天声人語が最大3か月分
アサヒ・コム プレミアムなら朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

 全日空の機長だった作家の内田幹樹(もとき)さんが、客室乗務員を束ねるチーフパーサーの重要性を説いている。「彼女がしっかりしていると、こちらは安心して操縦できる」。逆だと、フライト全体の雰囲気がぎくしゃくするそうだ(『機長からアナウンス』新潮文庫)▼客室と操縦席、整備と運航、後方と一線。空陸の労働力が一つになって、雲上の旅はつつがなく完結できる。嗚呼(ああ)それなのに、である。日本航空の客室乗務員約200人が、最大の労働組合と会社に損害賠償を求める裁判を起こした。原因は「監視ファイル」だ▼この労組がこっそり集めた約1万人の個人情報にはたまげた。男好き/合コン狂い/流産2回/生理休暇を毎月とる/おでぶ/酒好き/スタイル抜群……。情報というより、下品な世間話の類(たぐい)だろう▼思想調査まがいの記述、上司しか知り得ない査定や病歴も含まれていた。会社は、労組に情報を流した管理職ら25人を処分したものの、組織ぐるみは否定する▼日航に八つもある労組の中で、訴えられた組織は会社寄りという。ファイルは組合員の相談や勧誘のためというが、会社に物言う他の労組を切り崩す、労使合作の作戦資料にも見える。裏で密告が飛び交う職場は寒々しい▼制服姿でビラを配る原告に、共感と若干の不安を覚えた。彼女たちは、上司や同僚への不信を抱えたまま飛んでいるのだろうか。乗客の命を預かる保安要員を、地上の雑念で「うわの空」に追いやってどうする。1年前、天国へと離陸した内田さんも嘆くはずだ。

PR情報

このページのトップに戻る