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がけっぷちの産科救急/3 手探り続く「防止・補償」

 ◇「まず真相究明」の声も強く

 「医師不足は確かに問題だが、医療事故の被害とは別だ。医療側はまず、事故の真相を究明してほしい」。今年4月、産科の医療事故の被害者らが大阪市内で開いたシンポジウムで、こんな声を上げた。

 産科医不足の原因の一つとして訴訟の多さが指摘されているが、被害者側には「裁判を起こすのは、医療側があまりにも不誠実な場合だ」との思いがあるためだ。「病院側が真相を明らかにしていない」と思った時は事実上、訴訟以外に究明の場はなく、患者側には再発防止を求める声も強い。解決策はないのか。

   ■   ■

 訴訟となるケースも少なくない、脳性まひの後遺症を抱えた新生児について、医師らに過失がなくても補償の対象とする「産科医療補償制度」の議論が進んでいる。制度を運用する財団法人日本医療機能評価機構(東京)に運営組織準備委員会を設置し、今年2月から検討が続く。

 分娩(ぶんべん)の際に脳性まひになった患者と家族の経済的負担を軽くし、中立的な第三者組織が事故原因を分析して事故の再発も防ぐのが狙い。来年度からの導入を目指し、新生児1人当たり2000万~3000万円の補償が考えられている。

 ただ、疑問の声もある。産科の事故で長女を亡くし、準備委の委員を務める京都府の高校教師、勝村久司さん(45)は「現段階では、補償制度がどのように運営されるか不透明な部分が多い。制度が始まれば訴訟が減るとの意見もあるが、訴訟は医療側の不誠実な対応から起きる。患者側は事故の真相を知りたい。カルテが改ざんされるケースすらある現状では、情報公開を徹底しなければ、訴訟は減らないのではないか」と指摘する。

   ■   ■

 事故防止へ向けた取り組みも始まっている。

 日本産婦人科医会は、母体や新生児に異常があった例などを集計して解析し、再発防止に役立てようとしている。

 05年には病院や診療所から298件の報告があり、うち報告書があった168件を分析した。その結果、分娩に伴う新生児異常が33%で最も多く、分娩に伴う母体異常(18%)、産婦人科手術事故(16%)が続いた。石渡勇・常務理事は「多くは分娩周辺に集中している」と指摘し、会員に注意を促している。

 国立循環器病センター(大阪府吹田市)の池田智明・周産期診療科部長が、開業産婦人科医で作る「東京オペグループ」(会員約240人)の協力で進める取り組みも注目されている。日米の専門家が考案した、分娩時の胎児心拍数のパターンから胎児の状態を判断する基準を活用。医師と助産師、看護師が、どのような役割を果たせば安全な出産を実現できるかを検証している。

 国内の妊産婦死亡率は出産10万人に対し5・7人(05年)で、池田部長は「世界最高水準といわれる低さの新生児死亡率に比べ、改善の余地がある」と説明する。妊産婦死亡を巡っては、▽届け出・登録が実際より過少である可能性が高い▽死亡症例を評価し、防止策を立案、普及するシステムがない▽死亡症例が発生した場合の取り扱いが明確でない--の三つの問題点があるという。

 池田部長は「いいものはいいし、悪いものは悪い。はっきりさせ、問題があれば直していく。その姿勢を示していけば、社会や国民から必ず受け入れられると思う」と話す。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp、〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2007年9月6日 東京朝刊

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