サイエンス

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

医療クライシス:検証・緊急医師確保対策/4止 増員なければ解決せず

 ◇「人材流出」大学も及び腰

 大勢の患者で混雑する十和田市立中央病院(青森県)の待合室。だが、そばにある「産婦人科」と書かれた看板の電気は消えていた。

 年約500件の出産を扱っていた産科が休診に追い込まれたのは05年4月だった。常勤医2人のうち1人が別の病院へ移り、もう1人も東北大に引き揚げられた。

 「早く再開したいが……。来てくれる医師がいないからしょうがない」。佐々木隆一郎事務局長は力無く語る。今は弘前大から来る非常勤医師が週2回、婦人科の外来診療をするのみだ。出産による年間約4億円の収入がほぼゼロになり、05~06年度だけで10億円近い不良債務が発生した。

 このため、青森県や十和田市は、北里大医学部に寄付講座を設け、代わりに産科医を派遣してもらうことを計画した。各診療科へ医師を派遣してくれている東北大や弘前大への配慮もあり、市は大いに悩んだが、産科を再開できない病院への市民の批判も強く、市は必要な年間数千万円を負担することを決めた。しかし、県が9月に北里大へ計画を伝えたものの、北里大も派遣の余裕はなく、計画は進んでいない。

 国は緊急医師確保対策として、来年度から大学医学部の臨時定員増(最大10年間、各都府県5人、北海道15人)を認める。しかし、青森県の石岡博文・医療薬務課長は「焼け石に水。今の医療体制を維持するには、かなり思い切った増員が必要だ」と切実に訴える。

   ■   ■

 千葉県は、私立大の医学部生に6年間で最大3200万円の奨学金を貸与する制度の創設を打ち出し、3100万円の予算を確保した。08年度入学者から始め、毎年4人に1人あたり初年度は最大700万円、2年次以降は年500万円ずつ貸与する。知事が指定する自治体病院などで一定期間勤務すれば、奨学金返済を免除する。

 同県は、制度の対象を県内に付属病院のある六つの私立大のうち二つに絞り、協定を結ぶ一歩手前まで行った。しかし、いずれも大学の経営サイドの判断で、協力は得られなかった。大学でも医師不足が進む中、卒業生が自治体病院に流出するのを恐れたためで、予算は宙に浮いたままだ。

 同県の藤田厳・医療体制整備室長は「このままでは制度を来年度から始めるのは無理。医師不足が深刻な中、私立大ともつながりを持ちたかったのだが」と頭を抱える。

 緊急医師確保対策の臨時定員増は、都道府県が増員分の学生対象の奨学金制度を設けることを条件にしている。知事が指定する病院に原則9年以上勤務すれば奨学金返済を免除する仕組みで、医師不足地域で働く医師を確保する狙いだ。

 しかし、うまく機能する保証はない。毎日新聞の全都道府県調査では、既に37府県が同様の奨学金制度を設けている。応募者が定員に満たない県も多く、奨学金制度を設けても応募者がいるとは限らないのが実情だ。

   ■   ■

 日本の人口あたりの医師数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の3分の2で、加盟国中最低レベル。しかし、国は「地域や診療科によっては医師が不足しているが、全体としては足りている」との姿勢だ。

 医師が足りないことが原因なのに、医師を増やさずに解決を目指す緊急医師確保対策。医師不足が解消する兆しは一向に見えない。=おわり

 この連載は、鯨岡秀紀、河内敏康、五味香織、苅田伸宏が担当しました。

==============

 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2007年12月1日 東京朝刊

検索:

サイエンス アーカイブ一覧

ニュースセレクトトップ

エンターテインメントトップ

ライフスタイルトップ

 

おすすめ情報