ビールの色はどうして作られるのだろうか、といろいろと調べていくうちにメラノイジンという聞き慣れない言葉が記載されていました。メラノイジンとはメイラード反応というアミノ酸のNH2部分と糖のCHO部分が反応してできる着色した高分子化合物でその生成経路については未だ完全には解明されていません。だいたいの生成経路について(図)で示します。ビールの色合いを決める主要な物質はメラノイジンですが、そのほかにカラメルがあります。カラメルの焦げ茶色に代表されるカラメル化反応です。カラメル化反応は糖分だけが反応に関係します。糖類が加熱によって分解したり、不規則に結合したりして、褐色のカラメルという物質ができるのがカラメル化反応です。このようにビールの色合いに関係する反応を褐変反応(browning
reaction)といいます。
まずはじめに褐変反応について記載します。
褐変反応には、大きく分けて酵素的反応と非酵素的反応があります。
酵素的褐変
たとえばポリフェノール化合物がポリフェノール酸化酵素の作用により結合してメラニン様物質を作る反応があります。マッシュ液の中でポリフェノール酸化酵素が働いてメラニン様物質が生成されます。特に酸性条件下では反応の進行は緩やかでると報告されています。また、麦芽やホップに含まれているポリフェノール類もある種の酵素の働きで(タンニンを含めて)麦汁の色に変わります。一般的に酵素的反応はビールに香味的にも粗く、雑味をかんじさせる場合が多いです。
非酵素的反応
- カラメル化反応
- アミノカルボニル反応(メイラード反応)
カラメル化反応-----糖分が加熱されて相互に反応して褐色し、還元性の高分子化合物となる反応をいいます。カラメル化反応が進行するとだんだんと焦げたものが混じってきて黒くなります。カラメル反応の具体的な例としてカラメルモルト(クリスタルモルト)が生成される時に起こります。たとえば60
Lovibondのクリスタルモルトはグリーンモルトを摂氏71度ぐらいで、湿気が蒸発しないように換気をしないで暖めます、すなわち蒸します。この状況下では、グリーンモルト内のデンプンはモルト内の酵素の働きで糖に変化していきます。そして、摂氏116度にまで温度を上げることにより、モルト内の糖がカラメル化反応してカラメルが出来ます。このように造られた、麦芽を見ると、白っぽく少し粉っぽいpale
maltと比べて、その色は茶色であり、キラキラしています。クリスタルモルトがきらきらしているのは、カラメルが乾燥したためです。乾燥する温度でカラメルモルト(クリスタルモルト)の色が変化します。高い温度で乾燥させるとより濃い茶色になります。このようにカラメルはビールの色合いに関係します。カラメルは香ばしい香りがあります。
アミノカルボニル反応(メイラード反応)-----アミノ酸のNH2部分と糖のCHO部分が反応してメラノイジンという着色した高分子が出来る反応をメイラード反応といいます。
メイラード反応の途中のメカニズムは非常に複雑で、現在でも完全には分かっていません。ただ一番最初の段階は、アミノ化合物のアミノ基と糖類の還元基が結合する反応であることと、その後次々と複雑な反応が重なってメラノイジン
という褐色の物質ができるということだけがわかっています。メイラード反応は温度が高いほど早く進み、pHは6.5〜8.5で最も早く進みます。すなわちアルカリ条件下でより迅速に進行すると報告されています。メラノイジンはカラメルよりもその構造上、より赤っぽい色を呈しています。麦芽生成時にグリーンモルトを乾燥させますが、このときにメイラード反応が起こり麦芽の色合いに関係します。また、麦汁を煮沸しますがこのときにもメイラード反応が起こりメラノイジンが形成され麦汁の色が濃色になります。また、麦汁の風味香りはメラノイジンも関与しています。
メラノイジンはビールの色合いに関係するばかりでなく、それ自体が電子伝達系の働きをします。すなわちビールの酸化還元に非常に重要な働きをしていることが解明されつつあります。
酵素が関与しない褐変反応(非酵素的反応)では、色がきれいなことと、いい香りがするという特徴があります。そして、その反応はどうして起こるのか?有機化学的、生化学的には充分に解明されていないようです。