自家醸造、100の自問自答-8

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(8).メラノイジンとビールの酸化について

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 はじめに

ビールの色はどうして作られるのだろうか、といろいろと調べていくうちにメラノイジンという聞き慣れない言葉が記載されていました。メラノイジンとはメイラード反応というアミノ酸のNH2部分と糖のCHO部分が反応してできる着色した高分子化合物でその生成経路については未だ完全には解明されていません。だいたいの生成経路について(図)で示します。ビールの色合いを決める主要な物質はメラノイジンですが、そのほかにカラメルがあります。カラメルの焦げ茶色に代表されるカラメル化反応です。カラメル化反応は糖分だけが反応に関係します。糖類が加熱によって分解したり、不規則に結合したりして、褐色のカラメルという物質ができるのがカラメル化反応です。このようにビールの色合いに関係する反応を褐変反応(browning reaction)といいます。

まずはじめに褐変反応について記載します。

褐変反応には、大きく分けて酵素的反応と非酵素的反応があります。

酵素的褐変

たとえばポリフェノール化合物がポリフェノール酸化酵素の作用により結合してメラニン様物質を作る反応があります。マッシュ液の中でポリフェノール酸化酵素が働いてメラニン様物質が生成されます。特に酸性条件下では反応の進行は緩やかでると報告されています。また、麦芽やホップに含まれているポリフェノール類もある種の酵素の働きで(タンニンを含めて)麦汁の色に変わります。一般的に酵素的反応はビールに香味的にも粗く、雑味をかんじさせる場合が多いです。

非酵素的反応

  • カラメル化反応
  • アミノカルボニル反応(メイラード反応)

カラメル化反応-----糖分が加熱されて相互に反応して褐色し、還元性の高分子化合物となる反応をいいます。カラメル化反応が進行するとだんだんと焦げたものが混じってきて黒くなります。カラメル反応の具体的な例としてカラメルモルト(クリスタルモルト)が生成される時に起こります。たとえば60 Lovibondのクリスタルモルトはグリーンモルトを摂氏71度ぐらいで、湿気が蒸発しないように換気をしないで暖めます、すなわち蒸します。この状況下では、グリーンモルト内のデンプンはモルト内の酵素の働きで糖に変化していきます。そして、摂氏116度にまで温度を上げることにより、モルト内の糖がカラメル化反応してカラメルが出来ます。このように造られた、麦芽を見ると、白っぽく少し粉っぽいpale maltと比べて、その色は茶色であり、キラキラしています。クリスタルモルトがきらきらしているのは、カラメルが乾燥したためです。乾燥する温度でカラメルモルト(クリスタルモルト)の色が変化します。高い温度で乾燥させるとより濃い茶色になります。このようにカラメルはビールの色合いに関係します。カラメルは香ばしい香りがあります。

アミノカルボニル反応(メイラード反応)-----アミノ酸のNH2部分と糖のCHO部分が反応してメラノイジンという着色した高分子が出来る反応をメイラード反応といいます。 メイラード反応の途中のメカニズムは非常に複雑で、現在でも完全には分かっていません。ただ一番最初の段階は、アミノ化合物のアミノ基と糖類の還元基が結合する反応であることと、その後次々と複雑な反応が重なってメラノイジン という褐色の物質ができるということだけがわかっています。メイラード反応は温度が高いほど早く進み、pHは6.5〜8.5で最も早く進みます。すなわちアルカリ条件下でより迅速に進行すると報告されています。メラノイジンはカラメルよりもその構造上、より赤っぽい色を呈しています。麦芽生成時にグリーンモルトを乾燥させますが、このときにメイラード反応が起こり麦芽の色合いに関係します。また、麦汁を煮沸しますがこのときにもメイラード反応が起こりメラノイジンが形成され麦汁の色が濃色になります。また、麦汁の風味香りはメラノイジンも関与しています。

メラノイジンはビールの色合いに関係するばかりでなく、それ自体が電子伝達系の働きをします。すなわちビールの酸化還元に非常に重要な働きをしていることが解明されつつあります。

酵素が関与しない褐変反応(非酵素的反応)では、色がきれいなことと、いい香りがするという特徴があります。そして、その反応はどうして起こるのか?有機化学的、生化学的には充分に解明されていないようです。

 ビールとmelanoidins(メラノイジン)について

メラノイジンは「はじめに」において記載しましたように、ビールの色と香りや風味に関係しています。メラノイジンは麦芽生成時につくたれたり、またマッシングや麦汁を煮沸しているときに形成されます。メラノイジンの形成の第一段階はアミノ酸のNH2部分と糖のCHO部分が結合する反応であることが分かっていますが、アミノ酸の種類によってメラノイジンにも特徴が異なります。たとえば、グリシン(glycine)やアラニン(α-alanine)などのアミノ酸から形成されたメラノイジンは麦汁の色を濃くすることが分かっています。一方、バリン(valine)やロイシン(leucine)などのアミノ酸から形成されるメラノイジンは麦芽の風味(malty aroma)に関係します1) 。他のアミノ酸から形成されるメラノイジンについてはその特徴や性質は未だ充分には解明されていません。ただメラノイジン(melanoidins)やその先駆物質は麦芽の風味に大きく関与していているものと考えられています。

 melanoidins(メラノイジン)とビールの酸化について

メラノイジンの大きな特徴として、高温状態の時にはすぐに酸化してしてしまうことです。酸化状態のメラノイジンはすぐにはビールには悪影響をおよぼしませんが、瓶詰めされた後に酸化状態のメラノイジンは電子伝達系によりアルコールが酸化してアルデヒドになり、酸化状態のメラノイジンは還元状態のメラノイジンに変化します。また、ポリフェノールも酸化状態のメラノイジンにより酸化され、これらはビールの酸化臭も原因になります。

ビール仕込みにおいて、マッシュ液を激しくかき混ぜると、空気中の酸素がマッシュ液に溶け込み、マッシュ液中のメラノイジンの酸化がすぐに起こります。また、ロータリング時にも高温の麦汁をgrain betに戻す作業がありますが、このときにも麦汁が空気を混ざり合ってメラノイジンの酸化が起こりやすい状態です。また、麦汁を煮沸釜に移すときにも注意が必要です。メラノイジンは低温の麦汁では酸化が起こりにくいといわれています。pitching後のエアレーション時はメラノイジンの酸化は心配いらないことになります。

 ビールの酸化とメラノイジンの変化

賞味期限の切れたビールは香味の劣化が起こっていますが、そのようなビールは赤みを帯びて色が濃くなってまた透明感も悪くなっています。どうして古くなったビールはこのような色の変化が起こるのでしょうか?橋本らは、ビール中でメラノイジンがさらに高分子化するため、古くなったビールは色が濃くなると指摘しています2)。さらに、高分子メラノイジンの活性カルボニル基が電子受容体となって高級アルコールをアルデヒドへとさ酸化させます。このようなアルデヒドがビールの香味の劣化を引き起こすと指摘しています2)。また、このアルデヒドがイソフムロンの酸化物質と結合して酸化臭が発生すると橋本氏は指摘しています。

George Fixはメラノイジンを両刃の剣と表現しています。すなわち、メラノイジンはビールの色の主役でありそれ自体の持つ香味はビールに置いては無くてはならないものです。しかし、酸化メラノイジンはそれ自体電子伝達系の働きによりビールを酸化させます。仕込み過程でいかにメラノイジンの酸化を防ぐかが酸化臭の少ないビールへの挑戦になるかと思います。George Fixは、還元メラノイジンはイソフムロンの酸化を防ぐと「Principles of Brewing Science」に記しています。ということは、いかに還元メラノイジンを多く含んだ麦汁を作るかがビールの酸化を防ぐことになります。そのためにも、マッシングはできる限り空気と混ざり合わないように静かにかき回せる、またロータリング時もできる限り空気と混ざらないように丁寧に行うことが重要になると思います。

 終わりに

ビールの酸化とメラノイジンについていくつかの本や文献をもとにまとめてみました。ビールの酸化の原因として仕込み時のメラノイジンの酸化が原因の一つであることが分かりました。いかに仕込み行程において高温の麦汁やマッシュ液が空気と混ざり合わないようにするかが問題になります。昔、キット缶でビールを仕込んでいた頃、古くなったキット缶がいやに色が濃くなって酸っぱい風味をしていたのを思い出します。今思うに、この色の濃色はメラノイジンの高分子化であり、ホップが添加されている麦汁は高級アルコールの酸化はないにしろホップの酸化臭で満ちあふれていることになります。また、ビールは酸化が防ぎようのない飲み物であることが分かりました。しかし、酸化をある程度まで防ぐことが出来ます。それが、瓶詰め時やラッキング時ではなくて、それよりももっと前のマッシング時やロータリング時など高温のマッシュ液や麦汁が空気と混ざり合う時にあったとは驚きです。

次は、マッシング時の糖化について、調べてみます。

それでは。

参考図書;George Fix著「PRINCIPAL OF BREWING SCIENCE」
     George Fix著「PRINCIPAL OF BREWING SCIENCE second edition」
     PAPAZIAN著「THE HOPMEBREWER'S COMPANION」
     LEE W.JANSON著「BREW CHEM 101」
     CLASSIC BEER STYLE SERIES BOCK
     TERRY FOSTER著、「PALE ALE」
     橋本直樹著「ビールのはなし part 2」
     井上喬著「やさしい醸造学」
     キリンビール株式会社編「ビールのうまさをさぐる」
     1) CLASSIC BEER STYLE SERIES BOCK : P55-58
     2)  橋本直樹著「ビールのはなし part 2」: P109-112


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作成日時 2001年01月14日