自家醸造、100の自問自答-6

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(6)ホップ樹脂の異性化について。

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ホップのまり花の中のルプリン顆粒には樹脂(resins)と精油成分(essential oils)が存在しますが、本質的には不安定な物質です。異性化、酸化、蒸発などにより、変化します。

  異性化(isomerization) について

樹脂成分は主にα-acids(アルファー酸)とβ-acids(ベーター酸)に分けられますが、ビールを飲んだときに感じる芳醇でさわやかなホップの苦味はα-acidsから由来していることが解りました。しかし、α-acidsは麦汁にはほとんど溶けません。麦汁を煮沸することで溶解可能なiso-α-acidsに変化し、麦汁は苦くなります。この変化を異性化(isomerization)といいます。

 

α-acidsの代表としてHumulone(フムロン)を例にとります。麦汁の沸騰中、ベンゼン環の一番と六番のC結合が切り離され、新たに一番と五番目のC結合が形成されます。このようにIsohumulone(イソフムロン)が形成されます。同様の反応が他のα-acidsにもおこります。このように異性化がおこります。

麦汁に加えたホップのすべてのα-acidsが異性化する(iso-α-acidsに変化する)わけではありません。その上、ホットブレイクやコールドブレイクの中にもホップ樹脂がとけ込んだりして、ホップの損失がおこります。「麦汁に加えたホップのうち、どのくらい異性化がおこりビールの苦味成分になっているかを示す」か表す考えがあります。これを異性化の効率(%hop utilizationまたは%utilization)といいます。%hop utilizationの公式を示します。

%hop utilization=(ビール中のiso-α-acidsの量÷麦汁に加えたα-acidsの量)×100

%hop utilizationはwhole hopsとペレットホップとでは値が異なります。George Fixは、「whole hopsの%hop utilizationは15から30%であり、ペレットホップでは30から40%である」と、報告しています。ペレットタイプのホップの%hop utilizationはwhole hopsに比べて高値です。このことは、同じアルファー酸値でもペレットタイプのホップは、whole hopsに比べて、苦くなります。

たとえば、α-acids(アルファー酸)が6%のwhole hopsを26グラム使って、20リットルのビールを仕込んだとします。α-acids(アルファー酸)の量は20リットル中 0.06×26=1.56g となります。すなわち、78mg/L となります。
仮に、%hop utilizationが25%としますと、最終的にビールに含まれるiso-α-acidsの量は、78×0.25=19.5mg/Lとなります。international bitterness unit(IBU.)という専門用語があります、これは、ビールの苦みを表す方法の一つで、ビールまたは麦汁(wort)1リットルあたりにiso-alpha-acidが何ミリグラム含まれるかを評価する標準的な単位です。oneIBUとはビール1リットルにたいして1ミリグラムのiso-alpha-acidを含んでいる時の苦味を意味します(One IBU is equal to 1 milligram of iso alpha acid in 1 liter of wort or beer.)。
ホップのα-acids値はホップ樹脂の中のCo-humuloneの割合を意味します。実際には、IBUを計算するときには、ホップ樹脂すべてを考慮しますので、上で計算したiso-alpha-acidより、10から15%高くなります。上記の例では、IBUは21.5から22.5になります。

IBU=(Weight(ounces) of hop ×% alpha acid of hop ×% Utilazation)/(Volume(gallon)×1.34)
  =1.1×(Weight(grams) of hop ×% alpha acid of hop ×% Utilazation)/(Volume(liters))

IBUの公式がありますが、上の公式では、実際のiso-alpha-acidの量に対して、1.1倍しています。

ホップの%utilizationに影響する因子がいくつかあります。麦汁の比重が高くなれば%utilizationは低くなります。麦汁の煮沸時間にも影響を受け、長時間煮沸すると%utilizationは高くなります。α-acids(アルファー酸)が酸化すると異性化がおこりません。一般に麦汁のPHは5.0から5.4の範囲ですが、PHが上昇すると%utilizationは上昇します。

%utilizationについて、表にまとめます。

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参考図書;George Fix著「PRINCIPAL OF BREWING SCIENCE」
     LEE W.JANSON著「BREW CHEM 101」
     CHARLIE PAPAZIAN著「THE NEW COMPLETE JOY OF HOMEBREWING」
     井上喬著「やさしい醸造学」
     キリンビール株式会社編「ビールのうまさをさぐる」


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作成日時 2000年02月23日