自家醸造、100の自問自答(進行中です)
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ビール造りにおいて、私自身、日頃から疑問に思っていること、また、もっと詳しく知りたいことなどを、質問形式にしてまとめてみました。100という数字は適当に付けました。
- mashing時に使用する水の量について。
- ダイアセチルについて。('99/12/12Update)
- ダイアセチルの生成、代謝とvalineについて。('99/12/21Update)
- 乳酸菌について。('99/12/30Update)
- ホップの香りと苦味について。('00/2/19Update)
- ホップ樹脂の異性化について。('00/2/23Update)
- ホップの酸化について。('00/10/21
Update)
- メラノイジンとビールの酸化について('01/1/14
Update)
- 主なホップについてのまとめ。('02/8/31
Update)
- モルティングについて。('03/7/31
Update)
- 麦芽のフレーバーについて
- 麦芽のタンパク含有量について
- 糖化行程について
- スパージング、煮沸について
- ホップについての知識
- 酵母の代謝について
- 醸造におけるpHの役割('03/8/17
Update)
- 酵母の選び方とその取り扱いについて
- レシピ作りの演習
- デコクションマッシングについての色々な話
-
(1)
mashing時に使用する水の量について。
all grain又はparcial
mashingでビールを仕込む際、mashing(マッシング)という、粉砕した麦芽を温水の中に入れ、麦芽に含まれる酵素の働きでデンプンを発酵可能な糖に変える行程があります。日本語では、糖化といいます。特にall
grainでビールを仕込むとき、この糖化行程において使用する水の量が問題となります。麦芽100グラムに対して水の量は200mlから300mlになります。これは、少なすぎても、多すぎてもいけません。もっと効率よく糖化する観点からこの量が決まったものと思われます。
PAPAZIAN著、HOMEBREWER'S GOLDという、1996年度のWorld Beer Cup
Competitionで優勝したビールのレシピと作り方が記載してある本があります。おのおののスタイルのビールで、マッシング時に使用している水の量について、まとめてみました。(5GARON
(19リットル)仕込み)
ビールのスタイル
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TOTAL GRAIN (Kg)
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Protein rest 時の水の量 (L)
(ml/麦芽100g)
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Saccharification Rest
時の水の量 (L)
(ml/麦芽100g)
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INDIA PALE ALE
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5 Kg
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10.5(L) (210ml/麦芽100g)
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15.3 (L) (306ml/麦芽100g)
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E-STYLE ORDINARY BITTER
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3.2 Kg
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6.65 (L) (208ml/麦芽100g)
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E-STYLE BEST BITTER
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4.2 Kg
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8.6 (L) (205ml/麦芽100g)
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E-STYLE STRONG BITTER
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4.3 Kg
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9.0 (L) (209ml/麦芽100g)
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SCOTTISH-STYLE ALE
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5.2 Kg
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11.0 (L) (212ml/麦芽100g)
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E-STYLE MILD ALE
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2.8 Kg
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5.7 (L) (204ml/麦芽100g)
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8.6 (L) (307ml/麦芽100g)
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E-STYLE BROWN ALE
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4.35 Kg
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9.5 (L) (218ml/麦芽100g)
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14.25 (L) (328ml/麦芽100g)
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BARLEY WINE
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8.2 Kg
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17 (L) (207ml/麦芽100g)
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BROWN PORTER
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4.9 Kg
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10.5 (L) (214ml/麦芽100g)
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OATMEAL STOUT
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6.0 Kg
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12.4 (L) (207ml/麦芽100g)
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IMPERIAL STOUT
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9.0 Kg
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19.0 (L) (211ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE PALE ALE
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4.2 Kg
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8.6 (L) (205ml/麦芽100g)
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13.4 (L) (319ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE AMBER ALE
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4.8 Kg
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10.0 (L) (208ml/麦芽100g)
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CANADIAN-STYLE ALE
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4.0Kg
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8.6 (L) (215ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE BROWN ALE
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4.7Kg
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9.5 (L) (202ml/麦芽100g)
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GERMAN-STYLE KOLSCH
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4.1Kg
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7.6 (L) (185ml/麦芽100g)
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SOUTH GERMAN-STYLE WEIZEN
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3.9Kg
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8.0 (L) (205ml/麦芽100g)
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12.8 (L) (328ml/麦芽100g)
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DUNKEL WEIZEN
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4.1Kg
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8.6 (L) (210ml/麦芽100g)
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WEIZENBOCK
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6.2Kg
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12.8 (L) (204ml/麦芽100g)
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19.5 (L) (315ml/麦芽100g)
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BELGIAN-STYLE FLANDERS
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7.7Kg
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14.0 (L) (182ml/麦芽100g)
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BELGIAN-STYLE STRONG ALE
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6.8Kg
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14.0 (L) (206ml/麦芽100g)
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BELGIAN-STYLE WHITE
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4.0Kg
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8.6 (L) (215ml/麦芽100g)
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12.9 (L) (323ml/麦芽100g)
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BELGIAN-STYLE LAMBIC
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4.1Kg
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8.6 (L) (210ml/麦芽100g)
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12.9 (L) (315ml/麦芽100g)
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GERMAN-STYLE PILSENER
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4.1Kg
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8.5 (L) (207ml/麦芽100g)
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12.8 (L) (312ml/麦芽100g)
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EUROPEAN-STYLE PILSENER
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3.6Kg
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7.6 (L) (211ml/麦芽100g)
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11.4 (L) (317ml/麦芽100g)
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MUNCHNER-STYLE HELLES
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3.9Kg
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8.0 (L) (205ml/麦芽100g)
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VIENNA-STYLE LAGER
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4.2Kg
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8.5 (L) (202ml/麦芽100g)
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12.8 (L) (305ml/麦芽100g)
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EUROPIAN-STYLE DARK LAGER
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4.2Kg
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8.5 (L) (202ml/麦芽100g)
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12.8 (L) (305ml/麦芽100g)
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GERMAN-STYLE STRONG BOCK
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6.2Kg
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13.0 (L) (210ml/麦芽100g)
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19.7 (L) (318ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE LAGER
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3.6Kg
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7.6 (L) (211ml/麦芽100g)
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11.4 (L) (317ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE LIGHT LAGER
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2.5Kg
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4.8 (L) (192ml/麦芽100g)
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7.2 (L) (288ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE PREMIUM
LAGER
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3.9Kg
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8.1 (L) (208ml/麦芽100g)
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11.9 (L) (305ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE ICE LAGER
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3.7Kg
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8.1 (L) (219ml/麦芽100g)
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11.9 (L) (322ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE AMBER LAGER
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4.2Kg
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8.5 (L) (202ml/麦芽100g)
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12.8 (L) (305ml/麦芽100g)
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AMERICAN-STYLE WHEAT ALE
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3.9Kg
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8.1 (L) (208ml/麦芽100g)
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以上より、two-step infusion mashをするときは、Protein
Restでは、麦芽100グラムに対して水を約200ml使い、Saccharification
Restでは、沸騰水を加えてmash液の温度を上げ、麦芽100グラムに対して水を約300mlになるようにします。
single infusion mashではSaccharification
Restにおいて、麦芽100グラムに対して水を約200mlで糖化を行います。
参考図書;PAPAZIAN著「HOME BREWER'S GOLD」
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(2)
ダイアセチルについて。
(1)どんな臭い
バター臭、スコッチバター臭、漬け物臭
(2)生成と分解
ダイアセチルは、発酵の過程ですべての酵母で産生されますが、ビールの熟成期間中に無臭の物質に変化します。そういう意味では、ビールの熟成の度合いを測るバロメーターになります。下図にダイアセチルの生成と分解の過程を示す図を掲げました。ダイアセチルは酵母の細胞内でアセトアルデヒドとピルビン酸によりα-アセト乳酸が生成されます。このα-アセト乳酸が酵母の外に出て、酸化して、ダイアセチルとなります。ダイアセチルはバター臭、漬け物臭がしますが、若ビールの熟成とともに、アセトイン、最後に2,3-Butanediolとなります。この、2,3-Butanediolは無臭の物質ですので、ダイアセチルは、ビールの熟成と共に減少して無臭の2,3-Butanediolに変化しますので、ビールの熟成の指標になります。一方、乳酸菌汚染の時にもダイアセチルは生成されます。乳酸菌は発酵の終わりに急速に成長する傾向があります。そのため乳酸菌汚染の場合は、発酵の終わりにダイアセチルが生成され、ダイアセチルのみが高濃度に残ります。化学分析をして、ダイアセチルが多量に存在し、2,3-Butanediolの存在が多くなければ乳酸菌汚と診断されます。乳酸菌汚染があれば、熟成したビールにダイアセチルが発生し、汚染が進むと酸度の増加がみられ、ビールに濁りが現れます。
ダイアセチルの同族体で2,3-pentanedine(CH3COCOC2H5)があり、これはビールにハチミツ様の風味を与えますが、この分子はめったに形成されることが無いので、それほど重要で無いと思われます。
(3)乳酸菌汚染以外にダイアセチルが増加する要因について
- 砂糖など多く使用した麦汁(low malt
wortは麦汁中にvalineが少ない)。
- アミノ酸とくにValineの濃度が少ない麦汁。
- 麦汁の中に過度の酸素が存在するとき。(ダイアセチルの分解系は好気的条件では働かないため。)
- ダイアセチルを分解する能力のない(自然発生的に)突然変異した酵母が存在するとき。
- 麦汁の煮沸時間が短いとき。
(4)ダイアセチルが少なくなる要因について
- 少なくとも1時間、強く煮沸する。
- 麦汁に酵母の必須栄養を加える。
- 発酵後期に凝集し底に沈む、健康な、新鮮な酵母と使う。
(5)ダイアセチルを避けるために
- 少なくとも1時間は、麦汁が回転するように煮沸します。
- 酵母が健康に発酵できるように必須栄養素を加えます。
- 予備発酵をして、十分量で発酵盛んな酵母を、麦汁に入れます。
- 酵母を投入した後は、過度な酸素を加えてはいけません。
- 雑菌混入に注意してください。
(6)後記
ダイアセチルの代謝がValineと関係していることが解りましたが、具体的にどのように関係しているのか、知りたくなりました。後日、調べて書き加えることとします。また、乳酸菌汚染時のダイアセチルの発生についてのメカニズムについて、調べてみたいと思います。
参考図書;George Fix著「PRINCIPAL OF BREWING SCIENCE」
LEE W.JANSON著「BREW CHEM 101」
井上喬著「やさしい醸造学」
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(3)ダイアセチルの生成、代謝とvalineについて。
「ダイアセチルについて」のセクションでも記載しましたが、ダイアセチルは酵母細胞内でピルビン酸とアセトアルデヒドの結合によりα-アセト乳酸が造られ、細胞外に出て酸化することでダイアセチルとなります、このプロセスはアミノ酸の一種であるバリン(valine)の合成と拮抗します。図1はα-アセト乳酸からバリンが合成されるプロセスです。このα-アセト乳酸からバリンへの合成は酵母細胞内で行われます。

バリンの合成はαーアセト乳酸より合成されますので、バリンの合成が行われるとαーアセト乳酸が少なくなり、ダイアセチルの合成が少なくなります。また、アセト乳酸とバリンとが結合して、他の物質に変化します。以上より、正常な発酵過程では、発酵が進行すると共にダイアセチルとバリンは、図2に示すように、共に減少します。

もし、麦汁中にバリンの初期濃度が低いとダイアセチルの2度目のピークが出現することが知られています(図3)。George
Fixの書物によると、all grainまたは、Malt
Extractのみでビールを仕込んだときには、アミノ酸の不足は無く、したがって発酵においては問題がなく、ダイアセチルの2度目のピークが出現しません。キット缶でビールを仕込む際、説明書にアルコール濃度を高めるために砂糖を使用するように記載されています。私個人の意見ですが、この通りに仕込むと、麦汁中のアミノ酸、特にValineが相対的に不足し、ダイアセチルの2度目のピークが出現することとなり、結果的にはダイアセチルの多いビールが出来る可能性があります。George
Fixは、モルト成分が多い麦汁では、バリン濃度が適切であり、ダイアセチルの2度目のピークが出現しないが、モルト成分がすくない麦汁ではダイアセチルの2度目のピークが出現すると指摘しています。

麦汁中のバリンが少ないと、なぜダイアセチルの2度目のピークが出現するかのメカニズムについては、George
Fixの書物には言及していませんでしたが、図1より、麦汁中のバリンが少ないと、αーアセト乳酸とバリンとの反応が少なくなり、結果的にはαーアセト乳酸が多量に残り、ダイアセチルが再び形成されるのも思われます。また、興味あるデーターが井上喬著「やさしい醸造学」に記載しています(図4)。

図4は、一次発酵終了時の発酵液(若ビール)中のアセト乳酸の濃度は、何らかの理由でバリンがほとんど利用されなかった時と、ほとんど利用されてむしろ不足気味の時に高濃度になることを意味しています。麦汁中のバリンが不足している時に、アセト乳酸濃度が高値になることを間接的に示しています。図1より、アセト乳酸が高値になればダイアセチルが再合成されると考えられます。このことが、麦汁中のバリン不足時に出現するSecond
Diacetyl Peakの原因と思われます。
(後記)
以上、ダイアセチルの生成、代謝とvalineについて、まとめてみました。調べれば、調べるほど、疑問点が出てきます。アセト乳酸がダイセチルの前駆物質であることを発見した(1973年)のは、キリンビールの研究者である、Inoueさんらのグループであることが解り、日本人の活躍に感動しました。
ダイアセチルについて、私自身、疑問に思うことがいくつかあります。(1)麦汁を長時間煮沸することが、どうしてダイアセチルの減少につながるのか?(2)バクテリアがダイアセチルを合成するメカニズムは、酵母がダイアセチルを生成、分解するメカニズムと同じかどうか?この疑問点に対しては、後日、調べて記載することにします。
ダイアセチルは、発酵温度が高いときに多く生成されます。しかし、分解系も盛んとなり、結果的にはダイアセチルの少ないビールとなります。ラガービールを仕込むときに、一次発酵終了後に低温でラガーリング(貯蔵熟成)しますが、その前に若ビールの温度を少し上げて、ダイアセチルの分解を促進する方法があります。このことを、ダイアセチルレスト(Diacetyl
Rest)と言います。KieningerはJIB Vol.83 1977「Current Lager
Beer
Technology」で摂氏10から13℃で一次発酵終了後、若ビールを24時間摂氏20から24℃に保ち、その後冷却して低温でのラガーリングをする、と解説しています。
all
grainでビールを仕込んだ場合バリン不足はありませんので、ダイアセチルが高濃度に存在することは、高い酸素濃度、不完全な酵母(酵母の突然変異、保存状態の悪い酵母)、雑菌混入が考えられます。リキッドイーストは個人輸入しなければ手に入りませんが、最近、我が国でも、DIYのお店で、ドライイーストを含めビールの自家醸造の材料が買えるようになりました。しかし、ドライイーストの保存状態が気になります。何ヶ月間も陳列棚に置いていたり、低温での保管はしていないように思えます。このような、保管状態の悪いイーストを使用すると、それだけでダイアセチルの発生の原因になるように思えますがどうでしょうか?
参考図書;George Fix著「PRINCIPAL OF BREWING SCIENCE」
LEE W.JANSON著「BREW CHEM 101」
井上喬著「やさしい醸造学」
Diacetyl:Formation,Reduction,and
Control by George Fox
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(4)乳酸菌について。
乳酸菌とは、消費糖あたり50%以上の乳酸(lactic
acid)を産生する細菌を総称して乳酸菌と呼びます。形状から分類すると球菌、桿菌、芽胞菌に分類される。Lactobacillus.、Pediococcus.が代表的な菌です。
(1)ホモ型発酵菌(Homofermentative
bacteria);ブドウ糖1分子を発酵して二分子の乳酸を産生する菌。
(2)ヘテロ型発酵菌(Heterofermentative
bacteria);ブドウ糖1分子を発酵して1分子の乳酸とその他エタノール、酢酸などを産生する菌。
乳酸菌の特徴
- 酸性条件下で生育できる。
- 嫌気性条件下でも生育できる。
- 酵母エキスを栄養分として増殖できる。
- 糖をよく分解発酵できる。
- 乳酸を産生する以外にダイアセチル等も産生する。
乳酸菌は、醸造用酵母とは異なった経路で糖、アミノ酸を代謝します。乳酸菌、酵母は共にブドウ糖1分子を2分子のピルビン酸に代謝しますが、酵母はピルビン酸をMg++の存在のもとアセトアルデヒドに代謝しZn++の存在のもとエチルアルコールに代謝します。1分子のブドウ糖より2分子のエチルアルコールが生成されます。乳酸菌はピルビン酸を乳酸に代謝します。ホモ型発酵菌の場合は1分子のブドウ糖より2分子の乳酸が生成されますが、ヘテロ型発酵菌の場合は1分子のブドウ糖より1分子の乳酸と他の代謝産物を生成します。
Lactobacillus(乳酸桿菌属)
Lactobacillus(乳酸桿菌属)は、自家醸造において、最も汚染される機会の多い細菌です。bacillusとは桿菌と訳します。棒状の菌です。Lactobacillusについて医学大辞典より引用します。「グラム陽性、非動性の桿菌で、炭水化物を分解して主として乳酸または他の酸、および炭酸ガスを発生させます。」ホップには少し感受性があり発育抑制されます。5%のアルコール重量濃度までは、発育に影響しません。嫌気性菌、条件嫌気性菌(わずかな酸素が発育に必要)。
ホモ型発酵菌の場合は1分子のブドウ糖より2分子の乳酸が生成されますが、ヘテロ型発酵菌の場合は1分子のブドウ糖より1分子の乳酸と酢酸、CO2、エタノールなどを産生します。乳酸桿菌に汚染されると、出来上がりのビールを飲んだ後のすっぱい後味の原因になります。
健康人の口腔、腸管に常在する菌で、醸造する際は、マスク、手洗いが汚染を避けることになるとなります
Pediococcus.(ペジオコックス)
coccusとは球菌と訳します。Pediococcusは球菌属Micrococcusに附属する小球菌で、腐敗したビールに見られます。グラム陽性球菌、非移動性、直径0.8μmから1.0μmの大きさです。ホップには少し感受性があり発育抑制されます。5%のアルコール重量濃度までは、発育に影響しません。嫌気性菌、条件嫌気性菌(わずかな酸素が発育に必要)。
ビールを醸造する時に、最もおそれられている細菌の一つです。いったん、発酵タンク等にこの菌が入り込むと、この菌を除菌することはおそらく不可能に近いです。McCaigらは「Physiological
Studies on
Pediococcus」の中で、Pediococcusをゴム栓に接種して15分間オートクレーブで摂氏140℃で滅菌した後でも、生存していたと報告しています。この菌に汚染された発酵タンクは、廃棄するしかないと思われます。特に、発酵タンクの内面がキズが付いている場合は、そこに細菌が潜伏することが多く、なかなか滅菌が出来ません。発酵タンクの内面に傷が付かないように、発酵タンクの洗浄にも注意を払う必要があると思われます。
Pediococcusはヘテロ型発酵菌(Heterofermentative
bacteria)で、1分子のブドウ糖より1分子の乳酸と他の代謝産物を生成します。Pediococcusは増殖速度が遅くダイアセチルを多量に産生しますので、乳酸桿菌より難物な細菌です。
Pediococcus、乳酸桿菌は発酵タンクの底の酵母の沈殿槽にて、発育を続けます。
後記
乳酸菌について、lactobacillus、Pediococcusを中心に記載しました。他にも、いろいろな細菌がビール醸造において問題となりますが、別の機会に記載します。酵母の呼吸、発酵について、また、乳酸菌の発酵については、別のセクションで記載します。また、細菌の増殖PH域があり、一般細菌はPH7前後で増殖します。乳酸菌はPH5から6、酵母はPH4.5から5.5で増殖します。酵母を投入する前の麦汁のPHは5.0前後です。このことは、一般細菌は増殖するのを防ぐことになります。しかし、乳酸菌の増殖PH域と酵母の増殖PH域とは、一致します。このことにより、自家醸造においては乳酸菌が細菌汚染の最も危険性のある菌になると思われます。特に乳酸桿菌は口腔や消化管の常在菌であり、乳酸菌汚染を防ぐ一つの方法として、うがい、手洗い、仕込み時にはマスクをするなどを、心がけるべきと思います。
参考図書;George Fix著「PRINCIPAL OF BREWING SCIENCE」
上代淑人訳「ハーパー生化学原著22版」
吉野亀三郎編「最新微生物学」
横田健編「標準微生物学第2版」
井上喬著「やさしい醸造学」
このページに関するお問い合わせは:tachibana@msic.med.osaka-cu.ac.jp
(橘 克英)迄。
Copyright(C)1999 by Katsuhide Tachibana
作成日時 1999年11月28日