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早稲田大大学院教授・北川正恭 依存から自立へ
多様さ増す成熟社会 EUの条約に学ぶ分権思想 |
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| 特別講演する北川正恭・早稲田大大学院教授 |
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未成熟な社会、未開発な国は、例外なく中央集権を取っている。いわゆる権力を中央に集めるということであり、明治維新以来、百四十年ほど続いたシステムだ。
廃藩置県の際の全国の人口を見ると、一位は石川県で、東京は人口九十六万人、十五番目ぐらいの大きさでしかなかった。しかし、農業社会から工業社会に変わり、大都市集中型の枠組みの中で、東京は人口千二百万人の圧倒的な力を持つ首都に育った。
未成熟な社会、未開発な国での中央集権は、社会的な必然性があるが、世界の先進国の仲間入りした現在、日本は中央集権を続けていくかどうか、選択を迫られている。
世界の流れを見ても、中央集権の体制が見直されている。その流れを引っ張ったのが現在二十五カ国からなるヨーロッパ連合(EU)だ。中央集権から地方分権を徹底して進め、日本にも影響を及ぼした。
EUの条約には分権の思想が書かれている。あなたができることはあなたが、あなたができないことは家族が、家族でできないことは地域が、それでもできないことは市役所や村の役場でやるということだ。
つまり、個人、市、県、国で行うことがすべて仕分けができており、それぞれ違う仕事をする。これが補完性の原理だ。
一九九三年、地方分権推進の決議が衆、参両院で行われた。二年後の九五年には地方分権推進法が施行。その後五年かけて個別の法律を煮詰めていき、二〇〇〇年には地方分権一括法が施行された。
九五年から〇六年まで続いた第一期分権改革では、国から地方へ自治が下りてきた。第一期の大きな改革の一つに、機関委任事務の廃止がある。私が三重県の知事を務めていた九五年には、この機関委任事務が県の仕事の80%を占めていた。ほとんど国にコントロールされていたことになる。
次に政府は税体系の移譲を考え、二〇〇三年から三位一体の改革が行われた。国からの補助金や交付税をカットする代わりに、自主財源を増やすという考えだが、現実は補助金や交付税は大幅にカットされたものの、自主財源の移譲は少ししか行われず、小さな自治体は厳しい状況になっている。
安倍内閣になり、もう一歩分権を進めていこうというのが第二期分権改革だ。第一期は国から地方へだったが、第二期は、官から民へということだ。今までは国と、その仕事の下請けをする地方公共団体という関係だったが、今は地方政府の必要性が高らかにうたわれている。
第一期で、地方のことは地方でという行政自治権は確立していった。しかし夕張市の財政破たんが起き、行政自治権を明確にするには財政自治権が必要ということになった。今まで地方が借金する時は、総務省に許可を得なければできなかったが、今は協議制にかわり、国に報告すればいいということになった。自治体の借金は、自治体の責任で、ということだ。
さらに重要なことは、市町村の権限が強くなると、地方議会がもっと強くならなければならないということだ。チェック機能だけでなく、条例制定権など立法自治権を確立していかなくてはならない。つまり地方政府には、行政、財政、立法の各自治権が求められるということになる。
第一期改革で市町村は三千二百あった自治体が千八百に減った。市町村も経営に失敗したらなくなるということだ。
市町村だけが合併して、都道府県は安泰かというとそうではない。現在は国、県、市町村の三層性だが、これががっちり残っている間は、分権しようと思ってもなかなかできない。真ん中にある都道府県をなくしてしまおうというのが、第二期改革の背景にあると見据えていたほうがいい。
現在は確実に分権時代を迎えている。熊本から変えていくという、積極的な姿勢で取り組めば、東京が圧倒的優位な状況は終わらせることができる。真の地方自治を確立することが、成熟社会の多様な価値追求に対応できることになるはずだ。
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| 熊本日日新聞2007年11月30日朝刊 |
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