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地方分権へ政令市実現を |
・総合的にまちづくり 幸山さん
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・県全体のけん引力に 潮谷さん |
・30年後考える発想で 大久保さん
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・21世紀モデルつくれ 北川さん |
・農業と生活との互恵 篠田さん
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熊本市長
幸山政史さん |
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◇こうやま・せいし 銀行員、県議を経て2002年11月の市長選で初当選し、現在2期目。全国市長会理事も務める。熊本市出身。42歳。 |
熊本県知事
潮谷義子さん |
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◇しおたに・よしこ 熊本市の慈愛園乳児ホーム園長、副知事を経て2000年4月の知事選で初当選、現在2期目。佐賀市出身。68歳。 |
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熊本経済同友会副代表幹事 大久保太郎さん |
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◇おおくぼ・たろう フンドーダイ株式会社社長。県醤油工業協同組合理事長なども務める。熊本市出身。58歳。 |
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高峰武・熊日編集局長 今日は熊本市の将来について、政令市をキーワードに考えていきたい。熊本は明治の一時期、九州一の都市であったが、その後、大きく変遷。新幹線開通が目前に迫り、道州制の議論が起きている今は、まさに歴史の転換点と言っていいと思う。熊本市がなぜ政令市を目指すのか、まず幸山政史市長に伺いたい。
幸山政史さん 一つは地方分権が進んでいる点。住民に身近な自治体でサービス提供できるのが成熟社会の理想的な姿だ。分権社会の流れを待つだけでなく、勝ち取らなければならない。権限や財源がある政令市移行が欠かせない。もう一つは都市間競争の激化だ。九州新幹線が全線開業すればさらに加速する。九州の縦軸を見たとき、福岡や鹿児島を意識し中央の熊本がどうあるべきかを考えなければならない。また久留米や鳥栖は県境を越えて連携し、九州の時間的中心は自分たちとアピールする動きもある。
高峰 県や経済界は、熊本市の政令市問題をどう受け止めているのか。
潮谷義子さん 分権、新幹線、道州制という時代背景の中で、政令市としての熊本市はまさに求められている。熊本市が政令市になることで県全体の発展のけん引力になる。政令市に移っていくため、そしてそれが県全体にとってよかったと言われるよう県の役割を担っていく。
大久保太郎さん 九州の南北の中心としての拠点性を高め、道路などの一体的な整備で都市機能の高度化を図るために政令市移行は必要。交流や雇用の増大などのためにも重要だ。そして都市圏戦略は市の戦略であると同時に県のものでもある。都市圏と県内各地とのネットワーク推進、九州各地へのアクセス改善を図らなければならない。
高峰 しかし、県民、市民の中には、政令市になってどんなメリットがあるのか分かりにくいという声があるように思うが。
幸山 総合的なまちづくりに取り組めるのが大きなメリットだ。道路で言えば国道3、57号以外は市が管理、整備できるだけでなく都市計画が一体的に進められる。区役所の設置で、市役所に行かなくても行政サービスが受けられるようになる。企業誘致をするにしてもインパクトはある。熊本市は静岡市などほかの政令市と比べてもひけはとっていないのに、政令市になっていないばかりにいまひとつ評価されていない面がある。
高峰 全国的にも政令市を目指す動きが目立っているが、その背景は何か。
北川正恭さん 分権を進めていく上で(政令市は)非常にいいものだ。国やお上への依存をやめ分権時代にどう取り組むかを真剣に考えなければならないが、一番の基本は自分たちでまちをつくるということ。住民の責任が確実に問われるのが分権で、だから行政は情報公開しなければならない。その一つの象徴として熊本市の規模であれば政令市を目指し自分たちのことは自分たちでする。そういう努力を明治維新のころやって(日本は)近代国家になっていった。今は住民がしっかりする時代で、地方分権は、自分たちで考え直すという運動でもある。
高峰 では、政令市になって具体的にどんな熊本市を目指すのか。道州制の議論も進むなか、九州の中でどうあるべきか。
幸山 熊本都市圏の目指すべき姿を考えるため近隣十五市町村で(今年に)都市圏ビジョンを策定した。都市圏にある魅力をどう生かしていくのか、一つのテーブルで議論した。「(政令市になることは)熊本市の一人勝ち」とか言われるが、そういう話ではない。一口に言えば多核連携だ。熊本市周辺には大きな企業も張り付いている。中心部が拠点機能を高め周辺との連携を強めていく。それらを具体的に実現するために政令市はある。
大久保 州都の最有力候補は福岡で、久留米や鳥栖地域も有資格だろう。熊本はそれらとは違う位置付けが必要。九州の南北のバランスを実現させ、都市としての規模、風格、文化、学術などに磨きをかけることが大切だ。九州で期待されている自動車産業はすそ野が広い。その効果を九州全体に循環させる必要がある。観光で言えば長崎、大分を結ぶ軸、あるいは宮崎、鹿児島に客を運ぶための熊本の役割は大きい。
高峰 新潟市は日本海交流都市や田園型拠点都市を打ち出している。大きな市をつくっていく上で最も心掛けたことは何か。
篠田昭さん 政令市の基本理念に農業者と生活者が互いに恵みあうということを掲げている。今まで(各市や町が)数万人程度でやっていた地産地消も(新潟市人口の)八十一万人でするとものすごいインパクトがある。再来年から学校給食を完全米飯にすることにしているが、地域の農家にとって勇気づけになると思う。地域のものを地域で消費し、地元の商業者や流通業者の力を借りて全国に発信し、農業を元気にしていきたい。
高峰 北川さんは三重県知事もされたが、県や熊本市は、今後どうあるべきか、アドバイスは。
北川 夜中、まちで楽器をひいている人がいる。それを、変わっていると見るか、文化、多様性と見るか。九州の真ん中に多様な文化を許容しあえる場所があることは大事なこと。行政は住民が持っているいい考え方を引き出しながらどこよりもいい熊本市をつくればいい。新幹線開業で空洞化を心配をする前に、どうしたら熊本がよくなるかということをプライドを持ってやればいい。
高峰 富合町との合併は確定的となったが人口要件の七十万人には届かない。一方で新合併特例法の期限が迫る。政令市問題では「合併した周辺自治体がどうなるか」との根強い疑問もある。熊本市以外の地域への思いやり、目配りも必要になるかと思うが。
幸山 合併に伴い住民サービスが変化、負担が出てくる部分もある。富合町との協議では丁寧な協議を心掛けてきたし、今後もそうするつもりだ。植木町で行政レベルの勉強会が始まり、城南町では合併に関するアンケートが実施されている。政令市問題では熊本市が「一人勝ち」になるとの声を聞くが、そうじゃない。互いに地域の潜在力を高めることができると考えている。植木町と合併すれば植木バイパスを含む交通アクセスの改善をともに考えられるようになるし、田原坂や植木温泉を活用した観光ルート化にも取り組める。益城町はインターチェンジや空港があり、潜在力を持つ。そうした力をもっと高められると思う。城南町ならば(ETC車だけ利用できる)スマートインターを設け企業誘致促進につなげるといったことが考えられる。
高峰 県は実現に向けどのようにリーダーシップを取るつもりか。また、「民」の動きも大切な要素と思うが。
潮谷 政令市問題は分権論と密接につながっており、県も熊本市の取り組みをバックアップ、確かな足どりを共有したいと考えている。住民の理解が進むよう後押ししているほか、熊本市が設けることになる児童相談所に関して人材の育成にも取り組んでいる。
大久保 (周辺自治体で合併に関する住民投票否決が相次いだ)四年前に比べると、民間の盛り上がりというか、住民の理解は確実に進んだと思うが、もう一段盛り上げる必要がある。そのためには行政、議会の情報公開とリーダーシップが必要。人口減少社会だ。自分たちの任期や選挙を考えるのではなく、二十年、三十年後どうあるべきかという発想で臨んでほしい。都市圏内の各自治体は小異を残し、大同につくべきだし、県は主体的に政令市実現の推進役を果たすべきだ。今のような状況を生んだのは、旧合併特例法下、県が合併パターンの素案に熊本市を入れなかったというボタンの掛け違いがあったこともあるのではないか。
潮谷 自分たちで地域をどうつくるかという分権時代にあって、県が主導して自治体同士をくっつけていくやり方がいいのかどうか。やはり自主合併の中で地域が自分たちで将来像を描くことが必要と思う。ただ具体的な動きがあるところについては望ましい組み合わせを第三次合併推進構想に示そうと思っている。十二月ぐらいまでに詰めていきたい。
篠田 新潟では、県は当初から政令市新潟を推進するというスタンスだった。人口減少が続く中、拠点都市をつくり雇用機会を創出したいと考えていたからだ。現知事もテーブルクロスを持ち上げれば真ん中だけでなく周辺も高くなるという例を挙げ、政令市効果を語っている。ただ、経験から言えば、精神的支援だけではだめだと言っておきたい。
幸山 熊本は帝国大学の誘致失敗などを繰り返し、九州で相対的地位を低下させてきたと言われる。政令市を実現できず、同じことを繰り返していいかという思いがある。熊本市のみならず、熊本県の将来を大きく左右する問題だ。
高峰 きょうの議論を踏まえて、北川さんの感想は。
北川 日本は今、「中央集権のままでいいか」と問われている。これまでと立ち位置を変え、分権に積極的に取り組まないと明日はない。合併はいろんな感情が絡み、大変。当事者同士で進めるのは難しく、県の力添えがどうしても必要だ。決断は大変だろうが、脳から、体から汗をかくことが時代を変えていく。熊本から二十一世紀のモデルをつくってほしい。
高峰 政令市のメリットは、地域の拠点性を高めて自治能力を強め、自分たちのまちをつくるという意識を醸成することだと思う。熊本に住んでよかった、熊本に行ってみたい、と思われる都市をつくるためにも、自分たちから動き出すことが必要だ。きょうの論議でも、いくつかのヒントがあった。どう具体的な答えを出すかが問われている。熊日もみなさんとともにこれからの熊本市をどうつくるのか一緒に取り組んでいきたい。
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早稲田大大学院教授
北川正恭さん |
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◇きたがわ・まさやす 公共経営研究。衆院議員を経て三重県知事2期。早大マニフェスト研究所長も務める。三重県鈴鹿市出身。63歳。 |
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新潟市長
篠田昭さん |
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◇しのだ・あきら 新潟日報学芸部長、論説委員兼編集委員などを経て2002年11月の市長選で初当選。現在2期目。新潟市出身。59歳。 |
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熊日編集局長
高峰武 |
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◇たかみね・たけし 東京支社編集部長、社会部長などを経て2005年3月から現職。天水町(現玉名市)出身。55歳。 |
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高峰 熊本の街、熊本の文化のこれからについて行政の立場からどんなアプローチを考えているか。
幸山 熊本のいいところを見つめ直し、伸ばさないといけない。新幹線の全線開通後、観光面で他県と連携するなどして九州外に売り出すことが必要。排他的という気質がPR不足につながっていたのかもしれないが、熊本から積極的に仕掛けなければいけない。
高峰 会社を興された立場から行政への要望はあるか。
佐々木 若い世代に対する金銭教育に力を入れないと起業家は育たない。私が起業した時には行政の支援は皆無だったが、熊本市ではどんな取り組みをしているか。
幸山 大学と産学連携に取り組むなどしており、今後はJR熊本駅前に設ける情報交流施設に起業化支援機能を持たせたいと考えている。
佐々木 福岡ではゲーム産業振興のための産学官プロジェクトを通じて、東京で合同企業説明会を開催。東京で学ぶ人たちを呼び戻そうとしている。熊本では大学を卒業後、東京に出て行くなど若者が“空洞化”している。若者の流出を抑える施策が必要だ。
高峰 映画を作る中で、行政とのかかわりで思うことは。
行定 韓国の釜山はフィルムコミッションに積極的だ。撮影で市中心部のビルを燃やしたが、片付けまで行政がやってくれた。これはまちを挙げての覚悟を表している。
高峰 行定作品にはまっすぐ生きようとする若者が描かれている。抽象的だが、熊本は若者を抱き込むようなまちになっていると思うか。
行定 そうなってないんじゃないか。みんな熊本が好き。それは分かる。しかし、「これでいいじゃん」と思ってしまう。熊本は県民性として肯定的に見る部分が多く、苦言が少ない。とがっているものが丸くなっていく。あえて言えば井の中の蛙(かわず)。ゆるい感じの良さもあるかもしれないが、もっと外に出ないといけない。阿蘇や熊本城に頼りすぎる部分が多いのではないか。
高峰 これからの熊本についての考えは。
福岡 テレビで宮崎や鹿児島はコマーシャルに出るが、熊本は出てこない。熊本城築城四百年や新幹線で盛り上がろうとしている時。県外にもっとアピールすべき。
光武 熊本市には学生が多いというメリットがあるがそれで止まっている印象。大学間の連携も少ない。行政に絡んでもらえば学生からも街づくりに関する意見がもっと出るのでは。
田中 熊本の演劇界ではいろんな劇団が新しい挑戦をしようとしている。まちの文化をもっとアピールしていけばいい。
行定 よく発想の元は何かと尋ねられるが、それは結局、「人」だと思う。人に影響され、受け入れたりあるいは反対に突っぱねたりして自分が成長していくのだと思う。これはいろんな問題に共通することではないか。
高峰 「わさもん」は言葉を変えれば突破力ということもできる。「官」や「民」という区別ではなく、みんなが輪になるような、そんな熊本の街づくりを目指し、熊日もその輪のひとつになりたい。
熊本日日新聞2007年11月30日朝刊 |