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「パーソナル・プロファイリング」とはなにか

小説『1984』を超える世界

三田 典玄(2007-11-29 16:30)
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 11月8日、米国のコンピュータ大手で知られるIBM社が、あるプレスリリース(英文)を発表した。

 このプレスリリースの中で、IBM社自身が広告に関する1つの論文を発表したことが書かれている。いわく、広告業界は今後5年のあいだに、これまで50年間かかって起きた変化以上の変化を経験するだろう、というのだ。

 「私たちが知っている広告の終焉(The end of advertising as we know it)」と題されたその論文(PDF書類、英文)には、現在マスコミで隆盛を極めている広告代理店の役割の大きな変化がある、ということが書かれている。なによりも、大衆向けのマスな市場そのものが存在しなくなるので、よりニッチな消費者のニーズを捉えて、広告業界は変化しなければならない、などの多くの示唆に富む内容が語られている。

 この論文の描く近未来では、ネットの普及による消費者ニーズのニッチ化により、巨大なデータベースに蓄積された膨大な個人情報を自在に使うことが、これからの広告業界に必要な変化である、と結論付けている。

 簡単に言えば、ネットでわがままになった消費者を細分化されたグループでとらえ、個々に違う嗜好を満足させなければ、広告は成り立たなくなる、ということだ。

 そして、この論文の言うことを満足させるのは、古くは「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」とか「データベース・マーケティング」といわれている、巨大な個人データベースを駆使したマーケティング手法しかない。そして、これらの言葉は、最近は「パーソナル・プロファイリング」という「概念」に新たに置き換わってきている。

 パーソナル・プロファイリングとは、要するに実世界に住むあなたの化身を、データベースの中に構築する、ということだ。そこには「あなたは、自民党を支持していたけれど、前回の選挙では民主党に投票したが、本当は共産党に思い入れがある」とか、「昼には週に一回は回転寿司に行くが、鯖寿司が好物だ」とか、あるいは「朝は7時に起床し、最初に念入りに歯磨きをする」「日曜日の朝は必ず10時くらいにおきる」などの情報が入る。

 これらのデータは、あなたが普段書くブログなどからデータが取られている。そして、そのデータは自動的にデータベースに入っていく。たとえば、毎月給料日前になると、誰からともなく、「今はこの時計が流行です!値段も安い!」などの広告メールがあなたのところに入る。あなたは思うだろう、「なんでぼくが腕時計のコレクションをしているのを知っているのだろう?」「なんでぼくの働く会社の給料日を知っているのだろう?」と。

 また、ある人には、ある冬の日に「寒くなりましたね。こんなとき、屋外で長い時間立っているのは疲れるでしょう? 今度発売されたXXX印の使い捨てカイロは、体にやさしい赤外線を出します」などの広告が入る。「え? なんで私が毎日バス停前でデモしているのがわかるのかな?」とその人は思うのだが、そのデータは実はその人自身が書いているブログのデータによる、というわけだ。

 その人がどういう行動を普段しているかを、ネットの情報(ブログやSNSの日記など)その他で知り、その行動パターンから、その人の行動を予測し、これからされるであろうその人の行動パターンを先取りして、広告などのメールをタイムリーに入れる、ということができるようなシステム。それが「パーソナル・プロファイリング」なのだ。

 そして、これを使えば「テロリストになりそうな人のリスト」とか「将来芸術家になる可能性が高い人」「将来はなにも役に立ちそうもない人のリスト」「気温が20度以下になると、コンビニで中華饅頭を1日1個は買う人」などのさまざまなリストができることにもなる。まかり間違えば、予防検束などに使われる可能性だってある。

 まさにジョージ・オーウェルの『1984年』を超えた人間管理のマーケティング世界が出現することになる。そして、当然のことながら、その時代にはそれに反対する勢力も出てくることだろう。すなわち、ブログなどで実際の自分とはまったく違う「自分像」を作って、本当の自分を隠すことなどが流行するかもしれない。

 いま、そういう研究をしている人たちが、内外にたくさんいる。実際にその一部は、GoogleやYahoo! などの「マイページ」といった類のシステムとして動いている。その入り口は、毎日気軽に書いているSNSやブログの日記、友達に送るメール、掲示板などへのコメント。それが、あなたの知らないあいだにデータベース化され、結果としてあなたのすべてが丸裸にされる。

 いま、ネットの裏では、そういうことが始まっている。冒頭のIBMの論文は、実はそういう世界を予言している、といってもいい。

 そんな時代になったら、あなたはどうしますか?それでも、ネットをやりますか? ブログを書きますか?
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