安倍・自公政権のもとで格差と貧困に喘ぐ人々の実態をシリーズで紹介します。
北海道民医連新聞2007年5月17日号より。2.8MB(06:07)
生活保護基準引き下げ、各種加算の削減・廃止が、人々のつつましい希望さえ奪っています。
■夫の暴力
佐賀光江さん(40)は、中学2年の長男、小学6年の二男、同4年の長女の4人家族。8年前に離婚し、埼玉県から実家のある小樽に戻って生活保護を受け始めました。 22歳で結婚し、同じ印刷会社に夫婦で働いていました。3人目の子どもが生まれた頃から夫の暴力が激しくなり、被害が子どもにも及ぶようになって、着の身着のまま家を飛び出しました。長男が5歳、二男が3歳、末の娘が1歳のときでした。持ち出せたのは末娘の紙おむつだけ。近所の知り合いに借金して飛行機に乗り、故郷の小樽にたどり着いた時、上の子2人は裸足のままでした。
帰郷して1年、佐賀さんに、強いうつ症状が現れ、入退院を繰り返しました。今も服薬を欠かしませんが、体が動かせないほど辛い日が続くこともあるといいます。3Kのアパートは1軒家を2世帯に仕切った変則的な間取り。風呂とトイレは隣家と共同です。
昨年度、佐賀さんに支給された生活保護費は月額26万5820円でした。内訳は、食費・被服費などの生活扶助1類費が13万5030円、光熱水費など生活扶助2類費が5万200円、母子加算2万4230円、教育扶助1万9360円、住宅扶助3万7千円です。「家賃、光熱水費を払うと、食べさせるだけで精いっぱい。いつも月末の財布は空っぽです」
■修学旅行の費用がない
15歳以下の子どもがいる生活保護世帯に支給されてきた母子加算が2007年度から3年間で段階的に削減・廃止されます。全国約9万1000世帯が対象です。厚労省は廃止理由を、一般の母子家庭より生活保護世帯の収入が多くなるケースがあるからだとしています。
2005年から始まった生活扶助1類費の多人数世帯逓減(4人世帯で5%カット)で、既に6752円減額されている佐賀さんは、母子加算8070円の減額と合わせ、4月支給額は以前に比べ、約1万5千円少ない25万998円になりました。「子どもは3人とも食べ盛りですが、食費しか削るところがありません」と佐賀さんは悩みます。
今年は、長男の宿泊学習と、二男の修学旅行が重なり、約4万円を捻出しなければなりません。「長男が小学6年の時から修学旅行の費用が出なくなり、苦労したことを思いだすと、ゾッとします」と佐賀さんはため息をつきます。
長男は「中学を卒業したら働く」と言います。せめて高校だけは、と思いますが、長男が中学を卒業する年に母子加算が全廃され、さらに8千円以上減額されることを考えると、佐賀さんの心は揺れ動きます。
■再審査請求
うつ病への無理解と、「他人が払った税金で楽な暮らしをしている」という、2重の偏見に、佐賀さんは苦しんできました。
「プールに通いたい」という末娘の希望を我慢させ、風呂の回数も週2回に制限しています。暖房費を節約し、今は月に1度の外食もさせてやれません。
「少しの贅沢だってしていません。ぎりぎりの生活だということを分かってほしい」。佐賀さんに明るい未来は見えません。
今月、佐賀さんは高橋はるみ知事に、母子加算削減と多人数世帯の1類逓減を不服として再審査を請求しました。裁判になれば原告としてたたかう決意です。
■生活保護制度は最期の砦
佐賀さんらを支えている「全国生活と健康を守る会」後志・小樽本部会長の佐藤勤さんは、社会保障費削減の流れを、「来るところまで来たというのが実感」と語ります。「生活保護水準以下で暮らしている人が大勢いるという理由で保護基準を切り下げるのは間違いです。保護基準は、課税最低限や最低賃金、公務員給与体系にも連動し、基準引き下げは国民全体の生活水準切り下げにつながるのです」と佐藤さんは指摘します。
ワーキングプアなど格差と貧困の広がりのなかで、生活保護制度への社会の関心はかつてなく高まっています。佐藤さんは、「生活保護制度は憲法25条の生存権をすべての国民に無差別に保障する国民生活の最後の砦です。一般の人たちにも自分たちの課題として捉えてもらい、生活保護制度を守る運動に参加する人を広げたい」と言います。