連載特別企画
第五回 フォントのアウトライン化はもう古い？
■プリンタフォントとフォント形式の制約
ATM、ATMフォント、プリンタフォントによって実現されるDTPのWYSIWYG環境は、デザイン制作の現場に革命ともいえる大きな変化をもたらしました。しかし、それと同時に出力機にインストールされているプリンタフォントという制約を作ることになってしまいました。
例えば、レイアウトした文字に書体やサイズを指定してPostScriptプリンタで出力をすると、レイアウトされている文字がどの文字なのかを指定する文字コード、書体、文字サイズ、レイアウト上の座標位置などの情報をPostScriptファイルに書き込んでPostScriptプリンタに送信します。そして、それを受け取ったPostScriptプリンタのRIPは記述されている情報を解析して、インストールされているプリンタフォントから該当する文字を呼び出し、指定された文字サイズで指定された位置にレイアウトをして出力をします。
しかし、指定された書体のプリンタフォントがRIPにインストールされていない場合は、指定された書体で出力することができなくなってしまいます。
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制作マシンからプリントをすると文字コードや書体名、文字サイズなどの情報が出力機に送信されて、それを受け取った出力機はRIPにンストールされているプリンタフォントを使ってラスタライズをしてから出力をします。 |
商業印刷物を作成するDTPの工程は、データ作成や修正をおこなっている「データ作成段階」とデータ完成して印刷用の刷版を作成する「最終出力段階」の2工程にわけることができます。そして、この2つの工程で使用される、出力に使用されるマシンと出力機は必ずしも同じマシンが使用されるとは限りません。
データ作成工程はデザイン会社でおこない、最終出力工程は印刷会社が担当するようなケースが大半で、異なる環境でデータが扱われることになります。そのため、データ作成工程と最終出力工程で使用する機器にインストールされているフォント環境が一致していないと、プリンタフォントがないため正しく出力することができなかったり、スクリーンフォントがビットマップフォントかアウトラインフォントかの違いなどによってレイアウトが崩れてしまう可能性が出てきます。
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Illustratorで書体を指定して、システムにインストールされているATMフォントで画面表示された状態。 |
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作成したファイルをPostScriptプリンタで出力した状態。プリンタフォントがインストールされていないと代替えフォントで出力されます（プリントダイアログでフォントのダウンロードを「なし」に設定して出力）。 |
このようなフォント環境の違いによるトラブルを避けるために、データを作成する場合は出力を担当する会社が出力可能なフォント環境に合わせることが求められました。しかし、必ずしも最終出力をおこなう会社が持っているフォント環境の情報が得られるわけではなく、仕事の受注形態によってはどこで印刷するかわからないケースもあります。
そのため、たいていの環境で出力できる標準となるフォントが求められ、MacintoshのシステムにもTrueTypeフォントがバンドルされていたことや、早い時期から日本語PostScriptフォントを発売していたモリサワ社のフォントがスタンダードフォントとして広く利用されるようになりました。
しかし、フォント環境の違いによる出力トラブルを軽減するワークフローが確立されても、デザイン的な問題から出力環境にはないフォントを使用する必要が出てきたり、フォントのバージョンやフォント形式の違いによる新たな問題も発生して、フォントに関する問題は簡単には解消することができませんでした。
はじめて発売された日本語PostScriptフォントはOCF（Original Composite Font）形式というPostScriptフォントで、日本語PostScriptフォントの導入にかかるコストの関係や、新しく開発された形式のフォントとの互換性の問題などから、現在では利用率が減ったものの近年まで長い期間利用されてきました。
OCFフォントが持つ文字のアウトライン情報は文字を構成するパーツごとにわかれていて、文字の入力があると文字を構成する各パーツが呼び出されて文字の形に組み立てられてから画面に表示されます。そのため、画面表示が遅いことや文字に詰め情報を持たせることができないなどのデメリットがありました。そして、それらのデメリットを解消するためにCID（Character IDentifer）フォントが開発されました。CIDフォントは1文字ごとに文字の形でアウトライン情報持つため、文字に詰め情報を持たせることができるだけでなく日本語ならではの異体字への対応も実現しました。
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OCFフォントのアウトライン情報は、文字を構成するパーツ単位になっていて画面表示をするときに文字の形に組み立てられる複雑な構造になっているのに対し、新たに開発されたCIDフォントは文字の形でアウトライン情報を持つシンプルな構造になっています。 |
CIDフォントの誕生はメリットの面だけを見ると良いことづくしなのですが、スタンダードフォントとされているモリサワ社のCIDフォントの一部の書体は、文字幅を決定する情報に変更が加えられたことや、文字位置の基準になるベースライン位置に変更が加えられため、OCFフォントで作成されたデータをCIDフォントの環境で開くと文字組みが崩れてしまう可能性が出てきました。また、フォントの仕様変更はIllustratorで文字の自動詰め機能を使っている場合などにも文字組み崩れのトラブルを発生させる原因にもなりました。
OCFフォントでIllustratorの自動文字詰め機能を使った場合は、Illustratorが持つ文字詰め情報を使って文字間が調整されるのに対し、CIDフォントを使った場合はCIDフォントが持つ文字詰め情報が参照されて文字間が調整されます。この文字間を調整するときに参照する文字詰め情報の精度に差があるため、OCFフォントとCIDフォントでは文字組み結果が異なってしまう現象が起きました。
このように、同じメーカーから発売されている同じ書体のPostScriptフォントであっても、フォント形式が異なると仕様の違いが原因となってトラブルが起きてしまう可能性があるため、データ制作工程と出力工程では利用するフォント形式も統一して作業することが求められるようになりました。