blog「ムサビの写真」by 小林のりお

武蔵野美術大学映像学科 "写真表現コース" に関するブログです。
まとわりつく言葉を糧とせよ
写真は言葉を誘います。短い感嘆符であったり、長い感想であったり、真摯な批評であったりと、その時々様々な人の言葉を呼び起こすものです。とりわけ、作家として作品を発表するということは、世界に対して作品を投げ出す行為でもあります。自らの手を離れた作品は、外界で様々な言葉に出会うことになります。誹謗中傷の類いから、批評家、評論家による問題提起、賞賛の声・・・実に様々な言葉に出会ことになるでしょう。

その昔、僕がまだ若かった頃、写真月刊誌の見開き1ページにわたって「小林のりおは写真少年の成れの果てである」といった否定的な写真展評を、ある評論家の方から頂いたことがありました。正直なところ、良い気持ちはしませでしたが、名前をあげて論じてもらえたのだからまあーいいだろうと、その言葉を胸の内に収めて次作への糧としました。(今になって思えば、この「小林のりおは写真少年の成れの果てである」は、率直に僕自身を言い当てている名言だと思います)

言葉がまとわりつくことを可とする覚悟を持つこと。僕ら作家の作品は、全ての人に開かれてある存在なのですから、それは当然のことです。そして、その言葉に対して作家は最終的には、作品をもってして応えて行く他はないということです。

とりわけ、このネット上にはありとあらゆる言葉、映像が溢れています。クリフォード・ストールの言う「からっぽの洞窟」・・・カオスのゴミ箱とも言うべきネット世界は、「界隈」などといった趣味性を超えた、弱肉強食の戦場のような場でもあります。当然のごとく、そこにもある種の覚悟が必要とされるでしょう。

「インターネットは戦場である」
どこから銃弾が飛んでくるかわかりません。
その覚悟を持って、アップロードせよ。
まとわりつく言葉を糧とせよ。

| - | 08:20 | - | - |
過ぎ行く


今日の3年写真ゼミ授業は、スタジオでポートレートの練習でした。大型ストロボをあちこちに移動しての撮影は楽しいものです。授業もあと数回で待望の冬休み。早く来い来い、お正月。

この時期になると恒例なのが、写真界での各賞に対する推薦アンケート。写真界の芥川賞とも言うべき木村伊兵衛賞のアンケートが今年も送られてきました。いつも、この人はと思う写真家の名前を書いて送るのですが、いまだかつて僕の推薦した人が賞をとった例がありません。(笑) 今年は底力のある若い作家の写真集が目立ったので、賞の行方がとても楽しみです。特にデジタル関係では、内原恭彦さんや坂口トモユキさんの活躍が注目されます。若さ+実力、そんな作家にぜひ、あげてほしいと思います。若い写真家たちにとっては、ソワソワと落ち着かない日々の到来です。かつての僕もそんな時期があったなと・・・今となってはそれも遠い昔です。
| - | 14:32 | - | - |
空には飛行機




中国から帰ってずっと、中国で撮った写真のことが気になっています。作品とは呼べない、とるにたらない写真なのですけれど、どこか少年の頃に味わった「撮ることの楽しさ」と再会できたような気分で、そのことがずっと心の片隅に引っかかっているのです。僕ら写真家は日頃、アート、芸術、美術、それらの市場といった場を意識しながら作品を制作しているわけですが、時折、そうした制度の中で成功を夢見続けることの阿呆らしさに気づいて、思わず立ち止まってしまうことがあります。僕らを縛りつけるそうした制度から自由でありたい・・・。歳をとるにしたがってそうした想いは強くなります。つまり、若い頃の出世欲とはどこか違う立脚点を探しているわけです。誰もが少年の日のラルティーグに戻れたなら、それは幸せなことだと思います。現実は、決して戻れるわけはないのですけれど。つまり、見果てぬ夢の現在形を僕らは生きていく他ないわけですが・・・。

最近は大学での仕事の合間をぬって、校内を撮り歩いています。今日の午前中は、大学の裏手にある陶芸の釜のある辺りを散策しました。畑部の小さな畑や弓道部の的、作りかけの陶器や捨てられたオブジェがひっそりと肩を寄せ合っていて、僕の好きな場所です。空には飛行機、足下にはジャパニーズ・ブルー。こうした場所でシャッターを切っていると、大学にいることを思わず忘れてしまいます。フッと気がつけば、いつの間にか警備員のおじさんが側に立ってました。変なもの撮ってますけど、不審者ではございません。以後、よろしく。
| - | 12:32 | - | - |
アクセル全開


飯沢耕太郎さんから、岩波新書から出版された「写真を愉しむ」を頂きました。見る、読む、撮る、集めるの四項目からなるガイドブック的体裁が気軽さを誘い、一気に読み進めることができます。写真学生にお勧めなのは「撮る」のパート。ポートフォリオの作り方や写真構成のコツなど、長年の公募展審査員の経験から得られたノウハウが的確に書かれています。日頃僕が公募展狙いの学生たちに言っていたこととほぼ同様のことが書かれていて、おもわず納得。公募展応募を考えている人には必見かも。「見る」のパートには、僕の「なぜヤフオク図鑑か」のネット写真展のことが載っています。そういえば、この「なぜヤフオク図鑑か」の第二弾を、来年の春辺りにでもやろうかと思案中です。

気がつけば後僅かで12月です。推薦入試など雑務が続いて忙しい中、いくつかの嬉しい知らせが届きました。造形大での非常勤講師時代の教え子、元木みゆきさんがニコンサロン・ユーナの奨励賞を受賞したとのこと。ひとつぼ展のグランプリ受賞以来、デジタルカメラを意識的に使い続けている彼女の表現の行方が、今後ますます気になります。また、ムサビ映像学科・写真ゼミ3年生の川合真琴さんがニコンサロンのユーナに合格し、来年の春に個展が決まったとお知らせを頂きました。都市の建造物表面をモチーフにモノクロフィルムで撮影したシリーズですが、どこかデジタルチックで未来的な匂いのする作品に仕上がっています。「これ、ニコンサロンに応募したらきっと受かるから・・・」とそそのかした僕も一安心です。たぶんこれが彼女にとって最初の個展にして最後のフィルム作品になるのではと思います。(・・・だとすれば、恰好いい) すでにデジタルに移行している彼女が、今後どのような変貌を遂げるのか楽しみです。2008年4月8日〜4月14日まで、新宿ニコンサロンで。(5/29 ~ 6/3 大阪ニコンサロン)

ニコンサロンでは、ムサビでデジタル写真の授業を担当していただいている高橋明洋先生も個展を開催します。来年1月22日〜28日まで、[♭(フラット)−broken] (新宿ニコンサロン) 。デジタル確信犯の高橋さんの新作が楽しみです。同じくデジタル写真の授業を担当していただいている坂口トモユキ先生の写真集「HOME」も売れ行き好調ということで、2008年の新しい年に向けて、みんなアクセル全開といったところです。
| - | 18:26 | - | - |
3年次編入学試験


3年次 編入学試験の出願受付が、11月21日から始まります。

募集人員 映像学科(映像表現コース、写真表現コース共に若干名)

出願期間
11月21日(水)〜11月28日(水) (消印有効)

詳しくはこちらをご覧ください。

他大学からムサビ映像学科の写真表現コース、映像表現コースへ編入を希望される方、ムサビの他学科から転科を希望される方、お待ちしております。

写真表現コースへの編入学に関するご質問やご相談は、写真表現コースサイトのお問い合わせメールをご利用下さい。
| お知らせ | 12:24 | - | - |
写真家・雜賀雄二さんの特別授業
本日の映像学科1年生の映像原論の授業は、軍艦島でおなじみの写真家、雜賀雄二さんをお迎えしての特別講義でした。大学ではデザインの勉強をしていたという雜賀さんが、やがて写真を専門とすることになった経緯や軍艦島にまつわる様々なお話を聞くことができました。最後の方に出たオバケの話、もっと詳しく聞きたかったのですが、残念ながら時間となってしまいました。またの機会にゆっくりと・・・。雜賀さん、ありがとうございました。

雜賀雄二 WEB SITE

| - | 21:26 | - | - |
ラージフォーマットカメラ
昨日の3年写真ゼミの授業は、スタジオで 4×5大型カメラとリバーサル・カラーフィルムを使っての実習でした。学生たちは進級展も終わって、さあーこれからの作品展開をどうしようかといったところでしょうか。外は秋晴れの写真日和。本当はスタジオなんか飛び出して、太陽の光をいっぱいに浴びながら無心に撮り歩きたい先生なのでした。



映像学科1年生の渡辺君と細川君が制作している写真冊子「FLAT」2号発売中とお知らせをいただきました。様々なメディアを意識しながら、外に向けて自分たちの表現を投げ出す行為はとても重要です。長く続けてほしいものです。
FLAT SITE

| - | 10:36 | - | - |
デジタルプリントの極意


今日と明日は、エプソン(株)から、プリンティング・ディレクターの松岡たつや氏をお招きして、デジタルプリントの極意を伝授していただくことになりました。僕ら作家のプリント作業は、それぞれが長年の経験による自己流で済ますことが多いのですが、プリンター製造の企業から実際の現場を踏まえたスペシャリストに来ていただくことは、学生たちにとって大変勉強になります。新宿・エプサイトでの展示プリントのほとんどを彼が手がけていることもあって、その経験から得られたきめ細かな指導には惚れ惚れします。しっかりしたプリントに仕上げるためには、モニターの選択、調整から始まり、パソコン、プリンターの設定、レタッチソフトの使いこなし、その他、様々なポイントに注意を払わなければならないことが理解できたと思います。デジタルだからといって、決して簡単、お手軽には行かないということです。松岡さん、ありがとうございました。
| - | 11:37 | - | - |
写真のこと -未来老人-
半年ぶりにくらいに谷口雅のブログを覗いてみたら、この秋に展覧会を開くというお知らせがありました。向野実千代、住友博、谷口雅の3人展。懐かしい名前にフッと昔を思い出しました。

「三人ともデジタルに移行してしまっていて、機材に不安が出ているが、なんとか思い出しつつ準備に入った。デジタルの簡便さが体と勘をなまくらにしていることなど、発見して面白がっている。簡単に忘れることなど出来てしまうのかと、驚きさえしている。頭脳(とやら)の未練たらしさを同時に想いつつ」「自己を消去することによって写真への接近を試みた世代であろうわたしたちが、いまなにを拠り所とすべきか。自己の浮上をいかに見据えるか、振り子の揺り戻しに身を任すという決意が勝るのか、30年という自己の時間を正当化する写真原理主義へと遁走するのか、考えるべきそして決めるべき事柄は多く存在しています。この10年20年の間に、写真を巡る旅から、自己を巡る旅へと変化を見せる情況にあって、ふたたび自己から世界へと向かうベクトルは生まれはじめているようです。しかしながらそのベクトルを自らの内に見出すことなくわたしたちの世代は居場所を失いつつ途方に暮れているのでしょう」

長い引用になりましたが、この谷口雅の途方に暮れた言葉の数々は、ここ30年程の間に繰り返し繰り返し聞いてきたような気がします。正直、またかといった想いなのですが、この変わらなさ、優柔不断さが彼らの世代の良いところかもしれません!?

兄貴分であった谷口雅や山崎博、田村彰英、飯田鉄、田中長徳、築地仁、平木収らと初めて会ったのは、70年代初頭、新大久保のアパートの2階「プリズム」という自主ギャラリーの中でした。あれから時を経て、若かった彼らももうすぐ還暦を迎える歳となりました。「30年という自己の時間を正当化する写真原理主義へと遁走するのか・・・」と自嘲的に語る彼らは、その変わりようのなさに身悶えているのかもしれません。望むべきは、青年から中年、そして老人へと、僕や兄貴たちが辿った写真の道筋を正当化することなく、常に新しい出来事として迎え入れる体力と勇気を・・・。

「ふたたび自己から世界へと向かうベクトル・・・」を実現させるためには、衰えることのない好奇心と少しばかりの体力が必要になるでしょう。世界は再び輝くことはない・・・その絶望の淵に僕ら未来の老人は立ち尽くすことになるのでしょうか。それでもなお、自己ではなく世界へと向かう「希望」をファインダーの中に見いだすことは可能でしょうか。

いつの間にか「写真」が既存のアートシーンばかりを気にするようになって、美術市場という名の陳列棚に並ぶことが目標とされるような昨今のあり様にはウンザリしています。いつの間にやら違った道を歩いていたなら、引き返す勇気も必要かもしれません。

今回の展覧会は、スライド映写機を使って行うとのこと。液晶プロジェクターではなくて、あえてローテクな映写機を使うというところに何か特別な思い入れがあるのでしょうか。フィルムトレーが回る際の「カチャッ」という独特な機械音。画像切り替え時の間やズレ。フィルムという物質が熱で膨張、変形を繰り返す可逆性と退色、消失にいたる非可逆的現象。各社、製造終了となってしまったスライド映写機に対するオマージュ? 

ピンホールカメラ、玩具カメラ、ポラロイドカメラ、スライド映写機・・・この時代に、プリミティブな機械たちがお出でお出でをするのは何故なんでしょうか。懐かしのわが家へ舞い戻ったような安心感、充足感があるということなんでしょうか。もはや、そこに帰るべき家は無かったとしても・・・。

で、兄貴たちはこの先何処へ向かうのでしょうか。やがて還暦を迎え、過去を振り返ってこれまでの自己の時間を正当化することで、つかの間の安定は得られるのでしょうが、結果、「30年という自己の時間を正当化する写真原理主義」へ堕ちて行く他はないとしたら、やはり寂しいことだと思います。自戒の念を含めて。


unit2000*2007/nov 展示プロジェクト/プロジェクション/投影/映写
向野実千代、住友博、谷口雅 11月14日-19日
galerie gaushu 銀座 東京都中央区銀座 6-3-16 泰明ビル5F
| - | 11:38 | - | - |
写真家、野口里佳さんの特別授業
昨日の4年ゼミ授業は、写真家の野口里佳さんをお迎えしての、芸術文化学科、岡部あおみ教授との特別合同授業でした。野口さんは現在、ギャラリー KOYANAGI で「マラブ・太陽」という個展を開催中です。(10月27日〜11月30日) 授業では、学生時代から現在までの作品をスライドで拝見しながら、その時々の表現にまつわる貴重なお話をお聞きすることができました。



興味深かったのは、最近、アンティークカメラの収集にはまっているというお話。女性写真家はメカにはあまり興味を示さない人が多いのですが、野口さんは違ってました。野口里佳ならぬ野口理科を垣間見たようで、とても印象に残りました。デジタル写真に関しては、まだまだ銀塩フィルムでやり残している事があるのではないかということで、予定なしということでした。ドイツから短い帰国の最中の特別授業、ありがとうございました。




| - | 10:51 | - | - |

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