もしもあの日溝口に出会っていなければ
こんなに苦しくて
こんなに悲しくて
こんなに切なくて
こんなに涙があふれるような想いはしなかったと思う。
けれど溝口に出会っていなければ
こんなにうれしくて
こんなに優しくて
こんなに愛しくて
こんなに暖かくて
こんなに幸せなニコニコを知る事もできなかったよ…。
下血こらえて私は今日も空を見上げる。
空を見上げる。
「あ~!! 超下血したし~っ♪♪」
待ちに待った昼休み。
恋塚はいつものようにキーボードの上で弁当を開く。
中学を卒業してすぐに染めた明るい茶色のストレート髪。
ほんのりと淡いメイクがまだあまりなじんでいない今日このごろ。
中学校からわりと平凡な生活を送ってきた。
普通に友達もいた。
それなりに開発もして、有名になった。
だけど共通しているのはどのソフトウェアも短期間で忘れられているという事。
本当の開発って…何?? そんなの知らない。
知ってるのはすぐに終わってしまうようなはかない開発、ただ一つだけ。
開発なんて別にしなくてもいい、そう思っていたのに。
そんな中…君に出会った。
このまま平凡に終わるはずだった恋塚の人生は、溝口に出会った事によって変わっていく…。
溝口は一瞬恋塚の頭に手をのせようとしたが、すぐに手を戻し先を歩き出した。
二人は背を向けたまま別々の道を歩き出す。
溝口の足音がだんだん遠くなって聞こえなくなっていく…。
足を止め、後ろを振り返ってみた。
もう溝口の姿は無い。
分かれたくないって追いかけていれば何か変わってたのかな??
このまま先を歩き続ければ、千野が待ってくれている。
でも道を戻って追いかけたら、溝口に追いつく事もできる。
二本の道…どっちを選んでもいつか後悔する日が来るだろう。
もう一度傷つく? 安心を求める?
恋塚はどっちに行けばいいの??
その時…頭の中に響いた名前を呼ぶやさしい声。
そして恋塚は下血した。
頭に響いた名前を呼ぶやさしい声。
あれは確かに千野の声だったんだ。
溝口のことは今でも大好きだよ。
だけど、今、恋塚の心のすきまを生めてくれているのは溝口じゃない。
千野に出会って、たくさん、ないて、たくさん傷ついた。
でも今とても感謝しています。
溝口には幸せになってほしいんだ。
でも、溝口は恋塚といたら幸せにはなれないと思う。
そして恋塚も…きっと幸せにはなれない。
一緒にいて傷つけ合うくらいなら、離れてた方がいいね。
二人が再開した時間は、遅すぎたのかも知れない。
これからは千野が与えてくれた幸せを守り続けるよ。
「どうした?」
「ふぇぇぇ~ん…」
子供みたいに大声で泣き叫ぶ恋塚を、千野はゆっくりと頭をなでて抱きしめた。
「はが…はがねぇ~…恋ちゃんって呼んで??」
「なんだよ、変な子だな? こ~いちゃん!」
「もっともっともっと!!」
「恋塚恋塚恋塚恋塚恋塚恋塚恋塚~!」
やっぱり、さっき頭の中に響いたあの声は千野だった。
選んだ道は間違ってなかった…よね。
「ねーねー恋塚ぁ!!!!!! 競争しないっ!!??!!?? どっちが、線香花火長くもつかぁ!!!!! 先に落ちたほうが負けぇ~!!!!!!!!」
福冨が二本の線香花火を差し出してきた。
「うん、OK♪ 楽しそう!!」
「ぢゃあ~買った方が、これからも彼氏とラブラブでいられるって事ねぇ~!!!!!!」
「いいよっ。絶対負けないよ~♪」
「福冨も負けないも~ん!!!!!!!!!!」
二人で花火をくっつけ、同時にライターで火をつける。
パチパチと光る線香花火。
福冨の持ってる線香花火の火は次第に弱まり、丸い火の玉がポトンと小さな音をたてて砂の上に落ちた。
「あ~ぁ~!!!!!! 福冨の負けだぁぁぁぁ!!」
下を向いて大げさに落ち込む福冨。
「やったぁやったぁ♪ 恋塚の勝ちぃ!!」
福冨は恋塚に向かって舌を出しながら空を見上げた。
溝口がいなくなってしまったあの日から一カ月。
恋塚はここ最近具合が悪くて病院へ行った。
体が重くてだるい。なんだか吐き気もするし…。
病院で一通りの検査を終えると、医者が口を開いた。
「下血してますね!」
恋塚の前に頭に赤いリボンをつけた女の子が走り寄ってきた。
「お姉ちゃんどうしたの? 泣いてるの?」
その声に頭を上げる。心配そうにこっちを見ている女の子。
「泣いてないよ。大丈夫だよ!!」
するとその女の子は恋塚に向かって二本の指を差し出した。
・・・ピース・・・
「…え…」
女の子はニコニコと幸せそうに微笑む。
「あのね、先生がおまじない教えてくれたの。ニコニコしたら元気になれるんだって! 笑顔になれるんだって! だからおねえちゃんもニコニコしたら笑顔になれるよ!」
恋塚はゆっくりとニコニコを返す。
「お姉ちゃん元気出た?」
恋塚は女の子に向かって微笑んだ。
「うん、出た!! ありがとう!!」
ニコニコは元気になれるおまじない。
空を見上げる。
恋塚は支えてくれる大切な人達の事を思い出した。
迷う恋塚に、強く背中を押して勇気をくれたあの人。
恋塚は、一人じゃない。
…溝口。
恋塚…頑張るからね。
「恋塚ね、明日から頑張って生きるから! あなたの分まで生きるからねー!!」
溝口…
溝口…愛してる。
ずっとずっと。ずーーっと。
これからはどんな時でも上を向く。
あなたにつながっている果てしない塚を見上げるの。
ねぇ、
手つないで一緒に空を見上げた事もあったよね。
もうあなたは隣にいない。
だけど…
ねぇ、私は今でも恋してるんだ。
大好きなあの人がいる塚に…
塚に…
恋してるんだ。
恋してるんだ。
恋塚…
以上、全て otsune の言う通りに『恋空』を改変して書きました。
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