◎金大次期学長 「人間ドック」を全学的課題に
金大の次期学長に決まった中村信一氏に望みたいことを具体的に一つ挙げるなら、金大
附属病院への高度な「人間ドック」の導入を前向きに検討してほしいということだ。医学部出身であり、金大の独立法人化後に財務担当、病院担当の理事として大学経営にかかわってきた中村氏だからこそ、あえて注文したい。
二〇〇四年の法人化後初めてとなる学長選考の投票で、中村氏が他候補を引き離して票
を得た背景には、金大の看板である医学、医療を重点的に生かした大学運営への願いもあるとみられ、その期待の大きさを考えれば、人間ドックの導入は全学的に取り組んでもいい課題である。
医学部、附属病院を擁する大学として、地域の基幹医療機関の役割を果たしていくこと
は地域貢献の最たるものであろう。とりわけ、がんをはじめとする予防医学の分野は、大学がもっと積極的に関与していい。金大附属病院では昨年、がん高度先進治療センターが発足し、今年は陽電子放射断層撮影装置(PET)を導入するなど医療の高度化を着実に進めている。これまで培ってきたノウハウや人材、先端医療機器を生かせば、高度で総合的な人間ドックは決して実現不可能ではない。
たとえば東大では民間会社と協力し、昨年から会員制検診事業「ハイメディック東大病
院」を始めた。入会金、保証金など総額六百万円の費用がかかるが、十五年間(十六回)にわたりPETなど最新鋭の医療機器を駆使した検診を受けられる。精度を飛躍的に高めた富裕層向けの総合的な人間ドックは、民間の医療機関とも競合しない。金大も参考にできる事例である。
金大の〇六年度決算では、全体で赤字ながら、附属病院収益は十億円増で、主要な財源
となっている。今後、国からの交付金が減らされる国立大にとって自前の財源をいかに太くするかが最大の課題であり、財務と病院を担当してきた中村氏はそのことを最も理解する一人であろう。
金大は来年度から現行の八学部から三学域十六学類の教育体制に移行する。会見で中村
氏は「十年後には国内トップ10に入る大学にしたい」と決意を語った。予防を含めた医療の充実は、金大の存在感を高める目玉の一つとなりうるはずだ。
◎中東和平国際会議 共存へ踏み出してほしい
イスラエルとパレスチナの主張の隔たりが大きいため、政治ショーだとか、成功がおぼ
つかないとかいわれながらも、米国の呼び掛けで開かれた中東和平国際会議で、イスラエルのオルメルト首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長が来年八月までに平和条約締結を目指して交渉を再開することに合意した。
二〇〇〇年九月、両者のけんか別れで一九九三年のオスロ合意が挫折してから七年ぶり
の交渉再開だ。パレスチナ問題に消極的だったブッシュ米政権が積極姿勢に変わったのと、イスラエルと国交のないアラブ諸国や日本を含む主要国など約五十カ国が国際会議に参加したことで交渉が前進する望みもないわけではない。共存への道を見いだし、踏み出してほしいものだ。
第二次世界大戦でナチス・ドイツに追われてユダヤ人がパレスチナに流れ込み、先住民
との間でトラブルが起き、その解決案として「パレスチナの分割」―すなわち、パレスチナの地にユダヤ国家とアラブ国家をつくり、エルサレムを国連の管理下に置くことが国連で決議された。
が、第一次中東戦争でイスラエルが建国され、いらい対立が続き、パレスチナ側からテ
ロが生まれ、和平を軌道に乗せるためのオスロ合意もなされたが、相互不信を払いのけることができなかったというのが、これまでだ。交渉再開といっても治安問題、エルサレムの帰属、国境線の画定、パレスチナ難民の帰還問題など両者の行く手には主張の違いが大きい難問が横たわっている。
ガザ地区を支配しているハマスの代表が国際会議に招かれなかったこと、国際会議の壇
上で握手したオルメルト首相とアッバス議長とも政権基盤が弱いこと、残り任期が一年余になったブッシュ大統領のスタンドプレーがにじみ出ていること―等々からも先行きを楽観できないのだが、中東からテロをなくすにはイスラエルとパレスチナの和平、共存が不可欠だ。
争う者は互いに似るを地で行くように、たとえば妥協派と非妥協派の二つを、両者とも
内に抱えているなど、どっちが善玉で、悪玉はどっちかと割り切れない現実があることをこの際、指摘しておきたい。