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シンポジウム:亜熱帯化する日本 深刻化する水災害、連携した対策急務(その2止)

 <右面からつづく>

 ◇深刻さもっと理解を--虫明氏

 ◇森林の機能、世界に--今井通子氏

 ◇コーディネーター・今井義典氏

 コーディネーター 今井さん、森の活用についてはいかがですか。

 今井 私はやっぱり森の力というのはすごいなと思っていて、雨が降った時にそれを土の中にためてくれ、水がめダムになってくれる。一方で、渇水の時にはそれが徐々に周りのため池とかに入っていけば、それで潤すことができる。

 大使 日本とバングラデシュは似たところがあると思います。でも、これらの大きな影響を吸収できる能力、対処能力、日本とバングラデシュの国民の間にも大きな違いがあると思います。バングラデシュ、モルディブ、この2カ国が温暖化でいちばん悪い影響を及ぼされます。ですから、先進国が地球温暖化の原因もつくっているわけですから、原因を調べて、そして必要な調整を行い、対処をしてもらう必要があると思います。

 虫明 各国が連携するにはそれぞれの国の事情、特徴と、これまでの発展の段階を考慮する必要があると思うんです。日本が特殊だというのは、かなり先端的に進んでいるわけですが、その前の段階というのは、江戸時代あたりからあるわけです。そういうことも、国際協力を考える場合には知っていなければならないというわけです。

 コーディネーター 竹村さん、別府で12月に開かれる会議では、リーダーたちの理解と決意を高める狙いがあると思うんですが。

 竹村 水問題というのは、さまざまな分野に関係します。その国のトップの人が判断をしていくことが重要な問題を解決していくことにつながると思います。

 コーディネーター 最後に地球温暖化という大きな脅威に立ち向かって、水害を減らしていく、キーワードを書いていただき、締めくくりにしたいと思います。

 竹村 21世紀の防災は、知識を共有すること。それは、行政と国民の連携なんだと。何を問題として、何を不安に思っているのか。行政が受け止めて、会話をしながら連携していく。

 今井 日本は先進国で2番目に森林の多い国ですが、森林化社会を目指そうと言いたいです。気象は凶暴化してきていますが、森林は冷房効果があるんですよ。森林がたくさんあると、その国はあまり温暖化しない。森林は葉っぱの部分で、大気汚染物質の一部を吸収してくれ、また一部は吸着してくれます。根の部分で水をためてくれますので、水の流れを平準化してくれたり、特に広葉樹はいっぱい根を張るので、斜面なんかに植えてあれば、土砂崩れの防御なんかもしてくれます。もっといっぱい森林の機能はあって、言い切れないような気もするんですけれども。温暖化と豪雨の低減、水災害の予防、対処を考えると、世界的に呼び掛けて森林化社会を作りたい。

 大使 竹村さんから学んだんですが、国際協力と具体的な措置という言葉を使われたので、それをそのままちょうだいいたしました。国際協力というのは、国家間で、また国民間で、また官民の協力、あらゆるすべての協力が必要だということを言っているわけです。この地球を大事にしましょうということを申し上げたいんです。具体的な措置というのは、必ずしも国際的ということではなくて、すべての国、すべての地域社会、すべての個人も、自分の環境の面倒を見なさいということを言っているわけです。それぞれの国が自分の政策を導入することが必要です。そして、その政策を取ることによって、人間の犠牲を最小限にする。そして、環境に対する負担も最小限にする。そしてまた、社会基盤に対するダメージも小さくすることです。

 虫明 深刻さを一般の人に理解していただきたい。日本の治水レベルが非常に低いというようなことは、あまり公表されていませんでした。現在、気候変動に対応する治水対策を議論するなかで出てきた資料です。それから降雨強度、雨の強さが2割、3割、4割増しという可能性も、やっと議論ができるようになった。日本で具体的に温暖化対応策が議論されたのは、つい最近なんですね。皆さんに共有する情報として知っていただくということが必要だと思います。その上で何をするかですが、行政的にも河川部局だけではできない、都市計画なり、もっと大きなところで議論していただく。そういう動きをできるだけ早く始めるべきだと思っています。

 コーディネーター 一言でまとめるのは難しいんですが、あえて試みてみますと、水の問題に対する理解をそれぞれが深めて、人と人、コミュニティーとコミュニティー、国と国とがつながっていく。そして、この地球温暖化という脅威に立ち向かっていく覚悟を持たなければいけない。そういう結論ではなかったかと感じております。

 ◆基調講演「水災害~アジア・太平洋地域の中の日本」--虫明功臣氏

 ◇流域単位の治水へ

 アジア・太平洋地域の河川がどのような特徴を持っているかを見たうえで対応策を考えたいと思います。水循環の特徴を考える上では、気候・気象条件、それに地形・地質条件(地文)が重要です。アジアモンスーン気候はバラエティーに富んでいますが、特に水災害では多雨地帯が重要です。さらにその気候条件よりもさらに重要なのが地形・地質条件です。アジア・太平洋地域は、広い範囲で地震・火山活動を伴うアルプス・ヒマラヤ造山運動と環太平洋造山運動の影響を受けています。ここでの山地は脆弱(ぜいじゃく)で崩れや浸食に弱い不安定な地層でできています。不安定だということは、人間が耕作できる条件を持っているというわけで、山地にも多くの人が住み着いています。平野はそうした山地から洪水で運ばれた土砂によってできた沖積平野が主体です。ここは本来洪水はんらんの危険性をもった土地です。沖積平野では、古くから水田稲作を中心とする農業が営まれ、集落、都市、大都市が立地しています。つまり、アジア・太平洋地域の山地、平野とも、十分な気温と水があるところでは土地生産性が高いので、古くから生産・生活の場として開発され、世界的に見ても人口集密地帯となっている半面、いずれも水災害危険地帯でもあるということです。それに日本を除くこの地域のほとんどで続いている急激な人口増加と産業活動の拡大・発展が、気候変動の影響がなくても水問題を深刻にしていることを認識しておくべきだと思います。水害による世界の死者数の8割以上がアジア・太平洋地域に集中しているというのも、深刻性を示すものです。

 IPCC報告などで、日本でも温暖化による気候変動で豪雨が強まると予測されています。例えば、現在100年に1回の洪水を対象にしている治水基本計画が、対象とする雨の強さが2割増しになると、十分ありうることだと判断されるのですが、洪水ピーク流量は3割ほど大きくなって、20~40年に1回の安全度に下がってしまいます。これにどのように対応するか。治水施設の整備を優先度を決めながら推進すると同時に、ソフト対策としても、非常時の防災、減災体制を強化することはもちろんですが、それだけでは、洪水の増大への適応策にはなりません。新たな枠組みが必要です。

 やはり、河川の中だけに増大する洪水を閉じ込めるのは現実的に無理なので、流域として被害を最小にするという考えのもとに、流域の治水へ拡大するという転換が必要です。人の命を守ることを基本として想定される浸水区域を整備するとともに、そこで浸水被害が起こる場合にはそれによって救われる下流の都市側が感謝の気持ちの表れとして相応の補償などをするソフト施策を整えることが必要です。こうした流域の治水、江戸時代の治水策を現代版に焼き直してやるというのが、アジアも含めた治水の基本であろうと考えています。

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 ◇アジア初の水サミット開催 各国首脳、有識者が討議--別府で来月3、4日

 アジア・太平洋地域で初めての水サミット「第1回アジア・太平洋水サミット」は、12月3、4日、大分県別府市で開催される。水問題は多様でありながら、共通する課題も多く、地域レベルでの取り組みが解決の鍵を握っており、国家レベルでの対応が求められている。

 アジア・太平洋諸国の首脳、産・官・学・市民団体・メディア等のリーダーが参加する。全体テーマとしては「水の安全保障:リーダーシップと責任」、分科会では「水インフラと人材育成」「水関連水害管理」「発展と生態系のための水」の三つに分かれて討議する。また、12月1日から5日まで、関連の「オープンイベント」が開催される。

 運営委員会の委員長は、アジア・太平洋水フォーラム会長の森喜朗元首相、有識者委員には、各国からの参加者のほか、国内からは、日本経団連会長の御手洗冨士夫氏、アルピニストの野口健氏、国際協力機構理事長の緒方貞子氏らが顔をそろえる。

 問い合わせは、同事務局(TEL03・5212・1645、ファクス03・5212・1649)

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 ■人物略歴

 ◇虫明功臣氏(むしあけ・かつみ)

 福島大学共生システム理工学類教授。自然界における水循環を研究する水文学が専門で、水環境と生態系の破壊が起こす問題のメカニズムを解明し、改善する技術を研究。アジア太平洋水文水資源協会事務局長、世界水会議理事など。

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 ■人物略歴

 ◇今井通子氏(いまい・みちこ)

 医学博士、登山家。日本泌尿器科学会専門医。女性として世界初の欧州3大北壁完登者となる。文部科学省登山研修所運営委員、厚生労働省厚生科学審議会委員など、社会活動多数。東京農業大学客員教授。

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 ■人物略歴

 ◇今井義典氏(いまい・よしのり)

 NHK解説主幹。NHK入局以来、ワシントンやニューヨーク特派員などとして、国際政治・経済を幅広く取材。現在は解説主幹として特集番組のキャスターや討論番組の司会を務めるほか、国際的な場でさまざまな発信を続けている。

毎日新聞 2007年11月30日 東京朝刊

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