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シンポジウム:亜熱帯化する日本 深刻化する水災害、連携した対策急務(その1)

 世界各国で激増している水災害、特にリスクが高まっている東南アジアにおける被害にどう対応していくか討議する「亜熱帯化する日本~気候変動と水害を考える~」と題したシンポジウムが8日、東京都千代田区の千代田放送会館で開催された。このシンポジウムは、12月3、4日、大分県別府市で開かれるアジア・太平洋地域初の水サミット「第1回アジア・太平洋水サミット」を記念したもので、約200人が参加した。国際日本文化研究センター教授の安田喜憲氏、福島大学共生システム理工学類教授の虫明功臣氏の講演に続いて、「水害リスクにどう取り組むか」をテーマにパネルディスカッションが開かれ、急務となっている対策が話し合われた。

 主催 アジア・太平洋水サミットプレ・シンポジウム実行委員会(毎日新聞社、日刊建設工業新聞社)、共催 日本水フォーラム、後援 国土交通省、NHK

 ◇先進国の対処が必要--アシュラフ氏

 ◇防災は知識の共有から--竹村氏

 コーディネーター 地球温暖化、あるいは気候変動、この言葉が今年ほど多く、そして声高に議論された年はなかった。しかし、温暖化のもたらす問題についての議論は、緒に就いたばかりというような感じを受けます。その影響が最も顕著に表れる水、水害の問題に焦点を合わせて討論を進めていきます。竹村さんは、川にずっと取り組んでこられましたが、一番強く感じられることは何ですか。

 竹村 私が1970(昭和45)年に建設省に入った当時は、毎年のように大型台風による水害で多くの人命が失われたので、このようなことが起こらないよう治水に懸命に取り組んでいました。これからは行政と国民が一体となって、この局面に立ち向かっていかなければいけないというような、20世紀と21世紀はずいぶん違った状況になるんじゃないかなと感じます。

 コーディネーター アジアで非常に水害が増えているというのは、地球温暖化のせいなんですか。

 虫明 温暖化がずいぶん強調されましたけれども、じつは一方では、温暖化と同等あるいはそれ以上に、アジアでは爆発的な人口増加がまだ続いているということが重要だと思います。二つの理由があって、それを両方ちゃんと考えないとだめだということだと思います。

 竹村 私もそういう疑問をずっと持っていたんです。なぜかというと、私は1945年生まれでして、大学までずっと、「寒冷化、寒冷化」で刷り込まれていたんです。ですから、「本当かな、本当かな」という目でずっといろんなデータを見ているんですけれども、どうやら温暖化はしてきているなという感じがしています。予想もしえないような新しい現象が次々と起こってくるということが、温暖化の一つの現象かなと思っています。

 大使 洪水が増えています。洪水の頻度も長さも増えてきていますけれども、バングラデシュについて言いますと、この数年間、とくに80年代の半ばから90年代ぐらいにかけて、洪水の期間が長くなったんですね。バングラデシュのような低地の国で、重要な点があります。上流で木材の伐採が行われることで、水を蓄えるバリアーがなくなり、下流に水が流れ込むことになります。洪水によって沖積土が運ばれて来ます。河床が高くなり、水を蓄えられなくなり、近隣の流域に流れ出します。

 コーディネーター 今井さん、北極の氷が崩れている。アルプスやキリマンジャロの氷河が消えかけている。これがみんなつながっているというふうに考えるということですか。

 今井 つながっていると思います。気候変動を最初に感じたのは、1970年代のヒマラヤ、特にネパールヒマラヤでしたね。村が三つ消えるぐらいの雪崩が起きた。1980年代、90年代ぐらいになってくると、今度はヨーロッパで山岳氷河がかなり溶け始めて、そして洪水が起こる。1990年代になってから、今度は集中豪雨なるものが日本で最初に起こり、台風がだいぶ形が変わってきて、来る場所も規模も違ってきました。山にいると本当に戦々恐々という感じで変わってました。

 ところが、南極の各国の基地で取ったデータを見ると、平衡なんです。温暖化していないんです。白い大陸ですので、蓄熱をしにくい、地面が温まらない。放熱していく熱がないので、温まらないというのが南極です。

 コーディネーター それも崩れるかもしれない。

 今井 南極でもう一つ起こっている現象は、大気汚染物質とされているような微粒子が少ないため、それが核になってできる雨粒も少ないから、雨も落ちにくい。

 コーディネーター 大使、どんな水害対策を取っていますか。

 大使 日本の政府、ODA(政府開発援助)のお陰で、私たちはいくつかの対策を取ることができました。それによって、人命に与える影響を最小限にすることができました。洪水の被害を受ける地域では、洪水用のシェルター、避難所が作られています。この洪水用のシェルターは、通常は小学校や高校として使われています。建物の床は高く作られています。モンスーンの時期には、その建物は避難所として使われます。ただ、エコロジーや環境への被害、生態系、インフラへのコストについては、私たちはこれまで十分な対策を取ることができないでいます。

 コーディネーター 水の効用を高めることと水害を防ぐことのバランスというのは、非常に難しい。

 虫明 水害の防御は、技術的には二つしかないわけですね。洪水を流下させる、流して海まで速く行かせるのか、貯留しながら、貯留水をためるか。アジアの現状の多くでは、自然的にはんらんして調整しながら、本線の流量を低減しているということが、現にあるわけです。ところが、それが最近やはり、農業生産性を上げたいとか、都市を守りたいということで、堤防が築営されている。タイでは今まではんらんしているところにはんらんができなくなったために、下流のバンコクの流量が増えて、浸水の危険性が高まったということがあります。

 大使 バングラデシュでは、水が必要のないときに水があり過ぎる。水が欲しい時には、渇水ということで、本当に皮肉な話です。理論的には貯水池を作ること、資源として使うことはできるんですが、日本も巨額な資金を出すことはできなかった。

 ◆特別講演「アジア・太平洋 命の水の文明圏」--安田喜憲氏

 ◇30年後、海洋循環の停止も

 地球には意志がある。最近つくづくそう思うようになりました。地球は7億5000万年ぐらい前に大凍結、2億5000万年前には、海洋生物の大絶滅、6500万年前には、恐竜が大絶滅しますが、我々の哺乳(ほにゅう)類の時代へ受け継がれました。地球には命の連鎖をつなぎたいという、強い意志があるのではないかと思います。それを最も強くよく、理解して暮らしのなかに取り入れてきたのが、アジア・太平洋に住む人々なのではないでしょうか。

 地球の意志を受け継ぎ、それを人間が実行していくためには、五つの掟(おきて)があります。一つ目は自然を信じる、そして、人を信じるということです。伊勢神宮では植林をしているのですが、200年後に伐採する木にペンキが塗ってあります。200年後を信じて生きているのです。そこには、自然に対する限りない信頼、というものがあります。この世界観を持っているのが、アジア・太平洋の人々です。二つ目は、命の水の循環系を守る、ということです。三つ目は、時には人間の命も地球のためにいけにえにする、ということです。四つ目は、自然の資源を使い尽くさないで、循環的に利用することです。そして、五つ目は、欲望をどうコントロールするかということです。この五つを守ることができれば、アジア・太平洋の命の連鎖、地球環境問題を解決していくことができると思います。

 実は「年縞(ねんこう)」というものを見た時に、地球の意志を感じました。秋田県の目潟という湖なのですが、この湖底から年縞が見つかったのです。ボーリングをした土に、しましまの模様が見えるのです。びっくりしました。これは正にDNAなのです。湖底にも、地球の遺伝子「ジェオゲノム」がちゃんと記録されているのです。これは不思議です。過去の気候変動や、災害の歴史を、今や年単位で復元できます。

 例えば、1万5000年前、大きな気候変動がありました。これは非常に重要です。今世紀末には地球の年平均気温は最大6・4度上がると言われていますが、それに匹敵する温度上昇があった時代が1万5000年前です。もし今世紀中に5度、地球の年平均気温が上がれば、この地球というのは、極めて不安定な生態系になる。1万5000年前も温暖化に伴って、アジアの各地で大洪水が起こっています。

 今から約100年後、地球の年平均気温が2度上がると生物の対応性が喪失します。サンゴが絶滅するといわれています。そして3度上がった時にグリーンランドの氷河が消滅するのです。恐らく3・5度上がったら、海洋の循環が止まり、そしてそれが気候変動に大きな影響を与えて、多分現代文明は絶滅すると思います。このまま行ったらいつごろ起こるかというと、30年後です。その時、本当にこのままいって、このシナリオ通り今世紀末に6・6度近く温度が上がるようなことがあれば、我々はこの地球で生きていかれない時代がやってくる可能性もないとは言えないのです。

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 ■人物略歴

 ◇アシュラフ・ウド・ドウラ氏

 バングラデシュ駐日特命全権大使。71年バングラデシュ独立戦争に従軍し、陸軍から77年外務省に入省。東ドイツやオーストラリア大使館勤務、駐オーストラリア大使を歴任して、06年7月より現職。アジア・太平洋水サミットにも出席する予定。

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 ■人物略歴

 ◇竹村公太郎氏(たけむら・こうたろう)

 特定非営利活動法人「日本水フォーラム」代表理事・事務局長。70年建設省(現国土交通省)入省。退官後、(財)リバーフロント整備センター理事長を経て、同フォーラム代表理事、6月より現職。著書に「日本文明の謎を解く」(清流出版)など。

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 ■人物略歴

 ◇安田喜憲(やすだ・よしのり)氏

 国際日本文化研究センター教授(環境考古学)。古代文明の盛衰と環境変動とのかかわりを世界的スケールから研究し、地球科学や生態学のノーベル賞ともいわれるクロホード賞にノミネートされるなど、地球環境問題への提言は高く評価されている。「森のこころと文明」(NHK出版)など著書多数。

毎日新聞 2007年11月30日 東京朝刊

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