東京地検特捜部は、防衛商社「山田洋行」の元専務から防衛装備品の納入で便宜を図った見返りに過剰なゴルフ接待などを受けたとして、収賄容疑で前防衛事務次官の守屋武昌容疑者と妻を逮捕した。
取引業者と「防衛省のドン」とも呼ばれた大物前次官の親密な関係は、巨大な防衛利権をめぐる刑事事件へと発展した。徹底した捜査で不正の病巣を暴き出してほしい。
調べでは、守屋容疑者は妻とともに二〇〇三年八月から昨年五月までの間に北海道などで十二回、計約三百八十九万円相当のゴルフなどの接待を受けたとされる。
元専務の守屋容疑者に対するゴルフ接待は、十年以上に及ぶ。山田洋行側は、昨年までの約八年間に三百回を超え、総費用は千五百万円以上と説明している。接待には妻との同伴も多かったという。夫婦でゴルフセットを贈られたり還暦祝いで二十万円を受けたりしていた。
特捜部は妻が「次官の妻」に対する接待を認識していたとし、刑法の「身分なき共犯」を適用して異例の逮捕に踏み切った。
守屋容疑者は省内で、元専務に有利な発言を繰り返したといわれる。元専務が山田洋行から独立して、昨年九月に防衛商社「日本ミライズ」を設立した後も、航空自衛隊次期輸送機(CX)のエンジン発注をめぐり、同社との随意契約を示唆するなどの疑惑が指摘されている。
衆参両院の証人喚問などで守屋容疑者は、接待を受けたことは認めながらも便宜供与については「頼まれたことも、行ったことも一切ない」と否定していた。
しかし、特捜部は元専務やその側近らの供述、防衛省関係者らからの事情聴取、さらには周辺調査などで裏付けを進めてきた。その結果、長期間にわたる一連の接待は、職務権限に基づく便宜供与を期待したわいろに当たると判断し、北海道はじめ遠隔地へのゴルフ旅行接待を中心に証拠を固めた。
国を守る重要な役目を担う立場にありながら旧防衛庁時代から業者との癒着による不祥事が後を絶たない。その都度、組織と意識の改革が叫ばれたにもかかわらず、今度は綱紀粛正の先頭に立つべき次官経験者が逮捕される事態に至った。情けない限りだ。
防衛利権の裏側を知り尽くした守屋容疑者と取引業者の不透明な癒着関係にメスが入った意義は大きい。政治家の関与の有無も取りざたされている。便宜供与の実態や資金の流れなどを中心に、幅広い視点から全容を解明してもらいたい。
坂出市のパート従業員とその孫の幼い姉妹が大量の血痕を残して行方不明になっていた事件が急展開した。三人の死体を遺棄した容疑者は高松市に住む無職男性で、パート従業員の妹の夫だった。
まさか親族が凶行に及んでいたとは。暗たんたる気持ちになる。三人がこつ然と姿を消した異様な事件は発生から二週間弱で最悪の結末を迎えたといえよう。
行方が分からなくなったのは十六日の朝だった。前夜、姉妹は「泊まりにいく」と言って隣に住む祖母のもとへ出かけた。だが、翌朝、姉妹の母親が迎えに行くとその姿はなく寝室や玄関、浴室に血痕があった。母親の気持ちを思うといたたまれなくなる。
坂出署などの調べでは容疑者は鍵の開いていた玄関から侵入、ベッドに寝ていた三人を襲った。当初は祖母だけを殺害するつもりだったが「子どもに騒がれたので一緒に殺した」という。あまりの残忍さに言葉を失ってしまう。
今年四月に病死した妻が、姉であるパート従業員のために借金していたことが分かり「恨んでいた」と供述している。金銭トラブルが動機とはいえ、何の罪もない子どもまで巻き添えにすることなど許されるはずもない。なぜここまで凶悪化したのか。捜査当局は動機を徹底追及し事件の背後に迫る必要があろう。
遺体は供述通り坂出港の岸壁近くで発見されたが、謎も多い。「一人でやった」と言うが、事件の朝「はよせんか(早くしろ)」とだれかに呼び掛けるような不審な声を住民が聞いており共犯の可能性は捨てきれない。犯行現場のカーペットをL字形に切ったり祖母の靴や自転車を持ち去った理由は何か。この解明も急がなければならない。
(2007年11月29日掲載)