初再診料めぐる争い、決着へ

 診療所の初再診料をめぐる厚生労働省と日本医師会の争いはひとまず決着した。社会保障審議会医療部会(部会長=鴨下重彦・国立国際医療センター名誉総長)は11月29日、厚労省が示した2008年度診療報酬改定の基本方針案を大筋で了承した。同省保険局の原徳壽医療課長は、診療所の夜間加算と引き換えに初再診料を引き下げる予定がないことを明言。議論が揺れた次期診療報酬改定の基本方針は、日本医師会の反発を抑えたことで一気に最終的な取りまとめに入った。(新井裕充)

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 前回の審議が紛糾した背景には、診療所の初再診料の引き下げに対する日本医師会の強い反発があった。

 前回、厚労省が示した基本方針案の「前文」に当たる部分には、同部会が前回改定時に示した医療政策の方向性などを「基本的に継承すべきである」と書かれていた。

 このため、中川俊男委員(日本医師会常任理事)が「マイナス改定を継承するという意味か」と強く反発。
 また、「診療所・病院の役割分担」の部分の全面的な削除も求めていた。

 「診療所・病院の役割分担」について、厚労省は「診療所における開業時間の夜間への延長が進むための評価」としていた記述を改め、「診療所における夜間開業の評価」と修正し、「延長の評価」ではなく「夜間開業の評価」であることを明確にして再提案した。

 この修正案によると、夜間の時間帯を通常の診療時間としている診療所でも夜間加算が取れることになる。前回の案では「延長の評価」だったため、例えば午後8時までが通常の診療時間である診療所の場合には、昼間の診療の「延長」ではないために夜間加算が取れないおそれがあった。
 しかし、「夜間開業の評価」にすると、午後8時まで開業している診療所は、例えば午後6時、7時、8時などの時間帯が「夜間加算」として評価される。

 この日の会合で、中川委員は「以前、診療所の昼間の初再診料を引き下げて夜間の診療に加算するという議論があったが、この文面はそのような議論とまったく関係ないのだろうか。このことを確認したい」と尋ねた。

 これに対し、保険局の原課長は次のように回答した。
 「以前に提案した時は、診療所の初再診料の体系全体を動かして夜間に、ということを考えていた。しかし、その後いろいろな意見をうかがう中で、初再診料全体ではなく病院勤務医の負担軽減につながる診療所の夜間に着目して、その部分の評価を考えている。朝、昼、午前など昼間の初再診料について、これ(夜間の加算)と関連して点数を動かす予定はない」

 竹嶋康弘委員(日本医師会副会長)は「前回の意見を良くまとめていただいた。感謝を申し上げたい」と評価し、「病院勤務医の過重労働は中医協でも確認しており、“仕分け”は考えている。私どもは診療所の在り方から始めていきたい」と述べ、厚労省の提案を好意的に受け入れた。

■ 初再診料を引き下げない可能性も
 
これまで厚労省は、夜間の軽症患者が病院に集中することなどが勤務医の負担を招いているとの考えから、診療所が開業時間を夜間まで延長した場合に診療報酬上で手厚く評価する方針を示してきた。
 この夜間加算に回す“財源”は、初再診料を引き下げた分を充てるため、「夜間加算」は「初再診料の引き下げ」とパックだった。

 一方、日本医師会は、両者を切り離した上で「夜間加算」を先に認めさせる主張を繰り返してきた。今回、この主張が受け入れられたことから、初再診料の引き下げはいったん先送りになった格好だ。
 今後、厚労省が診療所の初再診料の引き下げを引き続き提案するかどうかは、薬価を除く診療報酬本体部分の改定率にかかっている。次期改定が「ゼロ改定」または「プラス改定」で決着すれば、厚労省が診療所の初再診料に手を付けない可能性もある。

■ 審議は和やかに進行
 
今回、厚労省が修正して再提示した基本方針案には、前回の会合における主な意見が盛り込まれており、審議は前回と打って変わって和やかに進行した。

 前回、改定の基本的な考え方を示す前文について複数の委員から「地域医療が崩壊している現状認識を示すべき」との指摘があった。
 このため、前文を大幅に加筆して「産科や小児科をはじめとする医師不足により、地域で必要な医療が受けられないとの不安が国民にある」として、医療の現状に対する認識を明確に示した。

 また、前回改定時に示した医療政策の方向性や4つの視点(@患者の生活の質、A医療機能の分化・連携、B重点領域の評価、C効率化)を「基本的に継承しつつ、以下(地域医療)の現状を十分に認識して対応すべき」と改めた。ただ、「医療崩壊」という言葉は避けた。

 このほか、次期診療報酬改定の方向性を示す部分に以下の記述を新たに加えた。
 「診療報酬改定においては、保険財政の状況、物価・賃金等のマクロの経済指標の動向、全国の医療機関の収支状況等を踏まえつつ、基本的な医療政策の方向性や地域医療を巡る厳しい現状を十分に認識した上で行う必要がある」

 鴨下部会長は「今日は、お褒めの言葉を大変多くいただいた。今後は事務局と部会長に任せていただきたい」と述べ、了承された。
 最後に、鴨下部会長は「個人的な感想だが」と前置きした上で、「今回は活発な議論をしていただいた。逆に、中医協にこういう議論がなかったことが問題だ」と付け加えた。
 しかし、果たして本当にそうだろうか。疑問は残る。


更新:2007/11/30   キャリアブレイン

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