内野聖陽さん、市川亀治郎さん、ガクトさん、そしてスタッフが綴る「風林火山」日記 大河三昧
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9月30日 撮影 佐々木達之介チーフ

“生きる”をテーマに
エネルギッシュな映像を・・・

 「風林火山」は“生き抜くこと”、そして“愛”をテーマに1年間走っています。死と隣り合わせの戦国時代を生き抜くとはどういうことなのか。調略によってきのうまでの敵がきょうは味方になることもあり、だれを信じていいのかわからないという苛烈な状況が繰り広げられています。武田、北条、今川、そして長尾家と、それぞれの生き様をも描き出しています。つまり3つか4つの出来事が常に同時進行で起きているというのが、大森寿美男さんの脚本の特徴です。
 それらを生かし、セリフの行間をも切り取るような映像にするには、オーソドックスな手法では伝わりにくい。むしろ前後の脈絡を忘れさせるくらいインパクトのある映像、ショッキングな映像で見せるというのが、僕が今回の大河で挑戦している手法です。

 具体的にはレンズワークが従来とは如実に違います。僕はあえて演じている役者さんの顔の直近までカメラで迫る。まるで目や口から何かが飛び出してきそうなほど。もちろん役者さんには事前に『本番ではここまでカメラが近づきます』ということを知らせておく。そうやって内臓をえぐるようなエネルギッシュな映像に仕上げています。
 極端な寄りの映像とは対照的に思い切り引いたルーズな絵も撮ります。テレビの場合、芝居を見せなくてはいけないのでミディアムサイズの映像になりがちです。しかし重厚なセットや旗など大河ならではの特色を際立たせるために、映画のようにぐんと引いた映像があってもいいと思っています。また“調略”という密室性の高い芝居には、真上からの俯瞰(ふかん)映像も取り入れています。
 スタジオにジブクレーンを据えて1年間撮り続けるのも大河ドラマでは初めてのことです。本番では役者さんのテンションによってテストで決めた位置や角度が変化してしまうこともあるのに、三脚に据えたカメラではその動きに対処できない。だから役者さんに『動かないでください』なんてお願いをしたりするのですが、僕はそうやって芝居を制限するのが好きじゃないんです。役者さんがのってきたら僕もジブクレーンでどこまでも追いかける。ドラマはフィクションですが、そうやって人の内面にふれていくカメラワークはドキュメンタリーに近いものだと思います。
 演出家が決めたカット割りのまま撮るのではなく、このセリフはどうしてもこう撮りたいというものがあれば、そこは役者さんとカメラマンの勝負だからガンガンいきます。もちろん日ごろから演出陣とのコミュニケーションを欠かさないようにしているので『達之介はこのカット、こう撮ってくるな。ああ、来た来た』とわかってもらっていますね(笑)。

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9月23日 長尾景虎役 Gackt(ガクト)

“人の世は一睡の夢”
琵琶を弾く景虎の境地

 琵琶を弾くのは今回が初めてだけど、基本的に弾けない楽器はほとんどないから、とくに大変なことはなかった。テクニックは応用だからね。ただ、琵琶の音を聴いて、こういうふうに弾いたほうが気持ちがいいんじゃないかなと感じた部分はある。それは自分のフィーリングなんだよ。音楽には、『これが正しい!』とか、逆に『間違っている!』というものはないから、僕はそのときの自分の気持ちを琵琶で弾くようにしていたね。

 琵琶はもともと中国から伝わった楽器だけれど、日本の弦楽器のもとになったものだけあって、すごく歴史を感じる。配列されている音階がそれを物語っていて、意外に暗いというか、当時の日本を表現しているような音の並びになっている。戦乱の世の人々の嘆きを音で表現したらこういう音になったというのかな。その時代の日本の心を表す琵琶独特の弦の響きが存在していて、それは他の楽器では表現できないものなんだ。これが平安期からあるんだから、すごいと思うよ。
 僕が景虎として琵琶を弾くときにイメージしたのは『人の世は一睡の夢』ということ。景虎は戦国の世を儚(はかな)んで、その行き場のない気持ちを琵琶に救いを求めているところがあったんじゃないかな。琵琶を弾くことで、自分の心の嘆きや、悲しみ、虚しさを音に変えていたような気がしてならないんだ。

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9月16日 山本勘助役 内野聖陽

スパゲッティ・パワーで臨んだ
川中島の戦い!

 この夏、川中島合戦のロケで長野に滞在したときのことですが、朝食用に電磁調理器となべ、スパゲッティを持っていったんですよ。もともと僕は朝食を大事にしているんだけど、ロケって朝が早いから軽いものになりがち。とはいえ鎧(よろい)を着けた立ち回りのシーンもあるのに、軽い食事ではガス欠になって集中力もなくなっちゃう。まさに“戦”にならないでしょう(笑)。そこで、朝はスパゲッティをゆでて食べることにしたんです。僕、スパゲッティを食べるとすごいパワーが出るので(笑)。明太子スパゲッティが私の一番の好物です。

 以前は立ち回りがあるときは、昼も弁当を2個もらったりしていましたね。鎧にものすごいパワーを吸い取られるので、カロリー消費量が全然違う。確実にふだんの倍は疲れますから。そのぐらい食べないと持たないんです。ただし、これがスタジオで一日中、座りっぱなしで軍議をしているシーンの収録となると、今度は逆に節制しないといけない。ほとんど動かないのに三度三度食べていたら、よくないのでね。そういうときは、軽くそばにすることが多いですね。
 そばといえば、長野はやっぱりそばがうまい!戸隠そばなんか大好きですよ。ロケ先では、郷土料理屋さんに出かけることが多いです。長野は山の幸や農産物が豊富でしょう。馬刺しも最高でしたね。ロケで馬に乗る機会が多いので少し気になって、馬術指導の方たちに『やっぱり馬刺しは食べないんでしょうね』って聞いてみたんですよ。そしたら『いや、食べますよ』とサラリ。もちろん、私の専用愛馬ちゃんに食欲を感じてしまった瞬間はないですけどね(笑)。

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9月9日 武田晴信役 市川亀治郎

夏から秋へ・・・
季節の移ろいは自然より出来事で実感

 大規模な川中島の合戦のロケも終わり、季節は夏から秋に変わろうとしています。ただ、最近はあまり季節感を味わうことが少なくなってきたような気がしますね。夜風が涼しくなり、虫の声が聞こえてくると『秋だなぁ』と実感できたのに、暑い夏からいきなり冬になるような感じもあって『秋よ、どこへ行った』って言いたくなることも(笑)。やっぱり風が変わり、ふいに夜の時間を長く感じるようになって考え事をするのにふさわしい“秋の夜長”がやってくるというふうでありたいですね。

 でも実は僕が一番好きな季節は夏なんです。寒いのは苦手だけど暑いのは平気だから(笑)。それだけでなく、『7月になれば歌舞伎の舞台に上がれる』というのが、学生時代の夏の思い出でした。学校が休みになれば思う存分、歌舞伎に出られる。それがすごく楽しみだった。僕が感じる季節感というのは、自然の移り変わりよりも、そうした出来事と常に密接に結びついているような気がします。
 2007年の夏から秋は、やはり「風林火山」ということになるんでしょうね。ことに歌舞伎では絶対にないのがロケ。真夏の川中島ロケの最終日、ようやく山本勘助役の内野聖陽さんと電話番号を交換したのも“夏の思い出”になるのかな(笑)。ほかの共演者の方の分は全部知っていたのに、なぜか一番近い勘助と交換していなかった。それも信玄と勘助のある距離感を保つうえでよかったことの一つかも知れません。

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9月3日 衣裳  古舘謙介チーフ

登場人物の生き方から時間経過まで
あらゆるものを込めて・・・

 大河ドラマの衣裳を担当するのは「武蔵」からです。「新選組」「義経」「功名が辻」と続き、今回の「風林火山」で初めて撮影のスタート時点から担当することになりました。
 主人公・山本勘助が最初に着る衣装は、諸国を放浪していたのだから『相当汚れていたはず』というのが、内野聖陽さんのこだわりでした。そこでロケに出発する2,3週間前から勘助の着物の“汚し”の工程に入りました。それも、ただ汚すだけでなく、プラスぼろぼろにすることがポイントだと思い、ひたすら研究を重ねましたね。町を歩いている間も常に“汚し”のことを考えていたので、思いがけずディスカウントストアの売り場で、着物をぼろぼろにするのに使えそうな工具を見つけたなんてこともありました。

 “汚し”の位置も研究しました。えり元や袖口(そでぐち)が汚れたり、すれたりするのは当然ですが、たとえば額の汗を袖で拭うかも知れない。そうなると袖口だけでなく、もう少し上のあたりも汚れたり、色あせたりするのかなといった具合です。はかまも、ひざをつくあたりを中心に汚したり、襦袢(じゅばん)のえりに油をつけて“てかり”を出すなどの工夫をしました。
 その後、ロケや立ち回りでさらに“汚れ”が加わり、傷みも激しくなっていきました。雨の中の立ち回りシーンを撮った後は、着物はどろどろ、自然にできた“破れ”もあり、ひどい状態(笑)。泥を流し、干した後、 “破れ”は、目立たないように両端を縫い止めました。それ以上、破れが大きくなると、同じ回でほかのシーンを撮った時に、つながらなくなってしまうからです。つまり、汚れてぼろぼろになれば、それでOKではなく、“ぼろ”のメンテナンスも必要なんです。
 もちろん、いつも“汚し”をやっているわけじゃありません(笑)。衣裳は、ドラマの登場人物の生き方、感情、時間経過など、あらゆるものを表現することができる手段です。役柄と演じる役者さんの個性を考え合わせて、衣裳のプランを考える。そして、それが成功したときが一番、うれしいですね。宇佐美定満役の緒形拳さんとの衣裳合わせで『無地に近いシンプルなものを』という緒形さんの希望に添いつつ、僕なりの提案をさせてもらいました。最終的に『ああ、いいね』と言ってもらい、その後、『ケンスケに任せるよ』と名前で呼んでくれるようになって、すごくうれしかったですね。信頼してもらえるような仕事を、これからも責任をもってやっていきたいと思っています。

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