内野聖陽さん、市川亀治郎さん、ガクトさん、そしてスタッフが綴る「風林火山」日記 大河三昧
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8月26日 かつら 平井久子チーフ

風雨にさらされ、ほこりにまみれ、
使い込むほど味が出る・・・

 「風林火山」の登場人物の中でも特徴が際立っているのは、やはり主人公・山本勘助と上杉謙信(長尾景虎)のかつらです。
 勘助の場合、出だしは諸国を遍歴する浪人でしたから、 “切り藁(わら)”という髪型に結い、ぼさぼさに乱したかつらを用意しました。内野聖陽さんは、勘助の持つ空気感、生活感を大切にする方で、自然な“汚れ”にこだわっていました。ふつうのかつらを結う何倍もコテをかけ毛のキューティクルを殺し、手ぐしでかき上げたような乱れを作るなど、放浪中の勘助らしい“汚さ”が出るよう工夫しましたね。

 ただ、最初のころはどんなに“汚し”をしても毛につやがあるので、どこかきれいに見えてしまうんですよ。もちろん油などいっさいつけずに結っていたのですが。
 それが、ロケに出て自然の風にさらされたり、スタジオでほこりにまみれたりしているうちに(笑)、いつのまにかつやがなくなり、本当にいい味が出てくるんです。まさに手ぐしだけで形になってしまう。この味は、使い込んだ時間の長さが出してくれるものなんでしょうね。
 勘助は武田家の軍師になってからも、いろんなところに出かけていき、その都度、身分を偽ったりすることが多かったので、浪人時代のかつらが何度か形を変えて登場しています。鉄砲商人・道安として越後に潜入した時は、すでに歳月を経ていい味になっていたかつらに白髪を足し、形を変えて結ったものを使いました。こういうことは珍しいので面白かったですね。  一方、謙信のかつらは対照的にきれいでしょう(笑)。最初のかつら合わせのとき、当時の武将の髪型をガクト(Gackt)さんに見てもらったのですが、どこかしっくり来なかったようでした。そこでイメージを聞きながら、何度か打ち合わせを重ね、試行錯誤の末、現在の形に決まったのです。内野さん、ガクトさんからは、ともに作品にこだわり、どんな細部もおろそかにしない姿勢がうかがえました。
 私自身もドラマや映画の時代劇はできるだけ見るようにしているのですが、視線はついつい役者さんのかつらに・・・。ああ、このシーン大変だっただろうなぁと思ってしまったり(笑)、なかなか物語に入れない。これはもう職業病で仕方ないですね。

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8月19日 長尾景虎役 Gackt(ガクト)

川中島ロケで信玄と対決!

 ドラマのクライマックスとなる川中島決戦のロケで10日間ほど長野県に行っていた。高原の牧場では、川中島を挟んで対峙(たいじ)する信玄のもとに謙信(この時は上杉政虎)が単騎で向かうという有名なシーンも撮影した。風や景色、感じる空気が心地よく、撮影していてもすごく楽しかったね。ただ、標高が高いのでスタッフのみんなは相当きつかったかも知れない。

 謙信と信玄の一騎打ちのシーンでは“荒れ狂う津波”をイメージして信玄にかかっていき、信玄はそれを座して受け止める。ちょうど防波堤のような感じだった。亀ちゃん(市川亀治郎さん)が演じる信玄と芝居で直接絡んだのは、これが最初で最後。やはり貫録があるなと思ったし、同時に彼が“歌舞伎役者”なんだということを改めて実感させられた。首の回し方や細かい動きに歌舞伎独特のものを感じて面白いなって。それは彼だから許されることなんだろうね。
 そういうことって往々にしてあるんじゃないかな。たとえば政虎の僕が川中島で身にまとうのは鮮やかな青色の甲冑(かっちゅう)なんだ。この髪型も含めて他の人だったら相当非難されただろうけど、ガクト(Gackt)だからそういうのも有りだと思わせられる。僕だから表現できる謙信がいて、亀ちゃんだからこそ表現できる信玄がいる。そこが見ていても楽しいところだと思う。

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8月12日 武田晴信役 市川亀治郎

少しずつ人が去っていく・・・

 もう8月も半ばですね。僕にとっての「風林火山」のクランクインは去年の9月だったので、ほぼ1年経ちました。父・信虎を追放するシーンを撮ったのが最初のロケでしたが、この間の上田原合戦では武田家臣の板垣信方、甘利虎泰が去っていきました。この時期になると、ほかにも次々とドラマから去っていく人が増えて寂しいですね。身内では、父・信虎に継いで姉の禰々がいなくなりましたが、まもなく母の大井夫人もいなくなります。

 晴信が唯一、本心を見せることのできる相手が大井夫人で、何か困ったことが起きると、すぐにお母さんのところに言いつけに行っていた(笑)。上田原を引き揚げる決断も大井夫人からの手紙だったし、なんか弱いんですよね(笑)。だから大井夫人が去ってしまったら『さあ、どうしよう』という気持ちにはなりますね。
 実は大井夫人役の風吹ジュンさんは、すでに出番すべてを撮りきってクランクアップを迎えてしまったんですよ。風吹さんは、よく『私に、あなたぐらいの息子がいてもおかしくないのよ』と言って、個人的にも本当の母親のように優しくしてくださいました。それだけに晴信同様、僕も風吹さんがいなくなるのは、寂しい限りです。
 しかし感傷的になっているひまはありません。いよいよドラマのクライマックスである川中島決戦のロケも始まりました。すでに晴信は出家して“信玄”となっての戦いなので、先日、舞台の千秋楽を終えたその日、僕の頭もさっぱりと坊主頭にしてきました。この頭になるのは子どものころ以来ですが、いいものですよ(笑)。信玄入道の肖像画でおなじみの姿をかつらなどでやろうとすると、毎回、特殊メークに3時間近くかけないといけない。そんな手間をかけることなく、あとはラストスパートに向けてひた走るだけです。

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8月5日 山本勘助役 内野聖陽

頭の中は常に劇的!

 よくセリフの覚え方を聞かれるけれど、セリフは“覚える”っていう感じじゃない。もちろん最終的には覚えるけど、覚えようとしてはまずい。
 僕の場合は、まず台本を読んで活字の裏の世界をイメージすることから始まる。そこから湧き出てくる臨場感だとか、相手役との緊張関係、その場の劇的な匂いのようなものを頭に思い描いているうちに、『あ、この言葉って、こうやって出てきたら面白いんじゃないか』ってことも多い。『ああでもない、こうでもない』とイメージしているうちに、自ずとセリフが出てくる土壌が形成されてきて、自分の中にセリフも入ってくるという感じかな。声に出して言ってみるのは一番最後。軍師特有の難しい言葉や複雑な内容のセリフは、“100本ノック”じゃないけど、何度も何度も口に出さないと身につかないって場合もある。それ以外のセリフは覚えるというより、イメージを広げるという感覚のほうが大きい。

 だから頭は常にドラマチックでいないといけない。感覚が鈍感になったらおしまいだなって思うね。麻痺したり、飽きちゃったり、『またかよ』という思いになったら、もうダメ。でも、極度に疲れていると台本を読んでいても活字の上をツルツル上すべりしていく感じで、どうにもならない。そんな時はランニングに行くとか、寝てしまうとか、ほかのことをするようにしている。
 毎週、月曜日はリハーサルで勘助の準備をして、火曜日から本番収録で勘助。金曜日に勘助の収録が終わり、土曜日に疲れをとって台本に向かい“勘助”。まさに“勘助”三昧だからね(笑)。この生活に耐えられないと、この1年間、大変なことになってしまう。でも、それを時に救ってくれているのが大森さんの台本なんだよ。大森さんがすごい気迫で書いていることがわかるから僕も負けちゃいられない。演じ手として感覚を鋭く保ち、ドラマの振り幅を大きくして見せていくことを大事にしていこうと思っている。

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