葉月は真田の殿様が大好きだったと思います。苦境の中から自分を救ってくれた恩人というだけでなく、人間として尊敬もしていたし、どこか男性としてほれていた部分もあったかも知れません。でも、奥方様(忍芽)も葉月のあこがれの存在。だから一生、真田家のために働く“素っ破”という忍びの生き方を全うするつもりでした。
戦国時代に忍びとして生きるというのは、女性としてはかなり切ない生き方だったかも知れません。でも、当時の女性の多くが夫や息子を『信じて待つ』ことしかできなかった中で、葉月は自ら動いて前線に出て行けた。身分は低くても男と同じように、自分の信じる道を生きていけた。そういう意味では、影の存在でありながら輝く生き方をしていたし、自らを疑うことなく誇りを持って生きていたんだと思います。
ときには忍びという任務のために“女性”を利用することがあっても、そのことに抵抗も感じていない。むしろ本来の意味での“女性”という部分は捨てて、あくまで手段の一つだと割り切っていました。それなのに、そのことを、いきなり伝兵衛から非難されたときには、すごくとまどったでしょうね。自分のことを1人の女性として見ている人がいる。そんなこと考えてみたこともなかったと思うんですよ。何か強い力でグイッと1人の女性に戻されたような一瞬だったのではないかしら。
伝兵衛は、人間として女性として初めて葉月の手を取ってくれた人。だから迷いはなかったんじゃないかな。有薗芳記さんが本当にまっすぐ伝兵衛を演じられていたので、ああいうふうにストレートに強く気持ちをぶつけられたら一発で落ちてしまう気持ちもわかるなって、ちょっと思いました(笑)。