
今川家というのは、勘助にとって非常に油断のならない存在です。9年間も居候生活をさせられた過去があり、しかも他家への仕官には『待った』をかけられていた。義元にいたってはその容姿故に嫌われるという目にもあっている。
だから今回の「風林火山」で描かれる桶狭間の展開を、最初に台本で読んだときには『いやー、これは面白いな』と思いました。そもそも今川家の“信玄暗殺”という企(たくら)みに端を発したわけです。駿河に出家していた長笈(諏訪頼重の遺児・寅王丸)を使って我がお屋形様を殺そうとした。そのことが勘助としては絶対に許せない。
寿桂尼は藤村志保さんが演じられているので、とても品があり、人間的にもすてきな女性ですが、やはり勘助にとっては表面上では優しくされても裏で何を考えているのかわからない油断ならない相手という思いが強い。それは今川家の人々すべてに言えることで、この“信玄暗殺”をきっかけに勘助の中で激しい感情がさく裂したわけです。
勘助は、そんな心の振幅の激しさを表には出さず、裏でいろいろなことを画策。義元が尾張に進軍するにあたって、わざと正しい進路を献策しました。義元が勘助を毛嫌いしている点を利用したわけですが、それが見事に的中したわけです。過去に今川家と勘助との関わりがあったればこその策とも言えるわけで、僕自身も面白く演じることができました。