今回、長笈を演じることが決まってから、寅王丸を名乗っていた子ども時代の放送をビデオで見てみました。寅王丸を演じた子役の子がかわいかった(笑)。甲斐から駿河に行くことになったときの大井夫人との別れのシーンもすごくよかったです。 ただ、そういう過去のことを知るようにしても、実際に役の気持ちになるのは難しかったです。信玄に憎しみをおぼえて暗殺しようとする。そういう心の動きというのは、当たり前だけど日常的なことではないから想像の世界になってしまう。自分なりにいろいろなことを考えて、そのうえで信玄を殺しに行く。そういうシーンは、やっぱり無理して気持ちを追い込んだようなところがありますね。 監督が、セリフをゆっくりしゃべるとか、動きは大きくするといった具体的なアドバイスから、長笈の心情まで細かく説明してくれたことで、なんとか演じきったとはいえ、一つ一つのセリフを気持ちを入れて言えるようになるまで時間がかかりました。最初のころはセリフを言っていても、どこか人まねをしているような感覚でしたから。 長笈のことは、あまり記述が残されていないようですが牢(ろう)を逃げ出してもう一度暗殺しようとして、また捕まってしまったという説もあるみたいです。何か悲劇の男という感じですよね。そもそも寅王丸を駿河へ追いやった勘助が一番悪いという気がしてきました(笑)。僕が今、長笈に言葉をかけるとしたら『ついてなかったね』としか言えないかな。
大河ドラマも本格的な時代劇に出演するのも初めてです。長笈は出家してお坊さんになっている役と聞いたので、とにかく見た目だけでも近づこうと頭を剃(そ)りました。途中から入るということで緊張しましたけど、昔からの伝統あるドラマの世界を見られるというのはちょっと楽しかったです。 信玄役の市川亀治郎さんはすごくフランクな方で、いろいろ面白い話しをしてくれたんですよ。勘助役の内野聖陽さんは『どう、やりやすい?』とか『やりにくいことがあったら言って』という具合に、すごく気を遣ってくれてありがたかったです。ほかの方々も皆さん経験が豊富で、やっぱり大河はそこが違うなって改めて思いました。自分なんか“ぺえぺえ”で何も知らないということを実感しました。 殺陣はそれほど難しくなかったです。刃物を使うから気をつけなくてはいけないけれど、動きは殺陣指導の先生がつけてくれましたから。歴史にはそれほど興味がなかったのですが、今回はいろいろ調べてみました。こういう機会がなければ絶対に知ることがなかったことなので、そういう意味でも本当に勉強させていただくことが多かったです。