インタビュー 小山田信有役・田辺誠一 クールでシニカルな武将が最期に見たものは・・・

彼のバックボーンが築いた個性

 小山田という武将の物事を見る目や判断の仕方には独特なものがありますね。予定調和ではないけれど、きれいに話がまとまってしまうことに気持ちの悪さを覚えて、『本当にそうなのか』と異論を唱えたりする。静かな水面に石を投げ入れて、あえて波紋を起こそうとしているかのような一面もある(笑)。疑問の投げかけ方や反応の仕方が個性的だと思います。
 そんな彼の個性は性格的なものもあるでしょうが、その一方で彼のバックボーンが築いた一面もあるような気がします。小山田は父の代に信虎に敗れて武田に下ったという経緯もあり、常に武田に忠誠を誓っていないと、『いつ反乱を起こすかわからない』と思われていた。信虎は恐いですからね(笑)。そこで必要以上に信虎の手となり足となり動いていました。
 彼の行動や考え方の中核に“武田家”があり、そのことはぶれない。さらに自分が治める郡内の領民を守らないといけないという責任ある立場でもあった。だからこそ、信虎に特に強くアピールをすることが必要だったんです。ほかの家臣団とあえて違う意見を言うことで信虎に忠誠を誓うなど、必要以上にアピールをした場面もありましたね。
 晴信の代になってからは、そのあたりに気を遣わなくてもよくなった。だから自分なりのジャッジで謀反を起こすこともできたと思います。だけど晴信という人物に興がわき、ここでやっていくのも面白いんじゃないかとなったんでしょう。
 勘助のことも古い人たちから見れば、いきなり入ってきて自分より上のポジションについたことに鼻白む思いがあったでしょうが、小山田にとってそういうことは関係ない。『こいつ、どこまでできるのか』とか、自分と知略合戦をしてみるのも面白いなというふうにとらえていたんです。
 ただし彼は冷静にジャッジを下すタイプ。もしダメだと見極めたら勘助は切り捨てただろうし、晴信に対して謀反を起こしたかもしれない。小山田にはそれだけの領地や力がありましたから。そのあたりのバランスの取り方にも微妙なものがあったと思います。

美瑠姫との出会いが変えた生き方

 シニカルでどこか心を閉ざしていた小山田が、美瑠姫に会ってからはまるで氷が溶けていくかのように少し生き方が変わっていきました。クールに“戦、戦”で生きてきたけれど『もう少し大切なものがあるんじゃないか』って。
 彼にとって自分の父親が戦に負けたことは相当ショックだったと思うんですよね。子どもからしたら親父が信虎に頭を下げている姿ほどつらいものはない。そこまでした父親のことを思う一心で、戦にまい進してきたけれど、美瑠姫との生活で違う喜びがあることを見いだしていった。それを教えてくれた美瑠姫に殺されたのだから、小山田としては本望だったのではないかという気がします。自分の死によって何か一つ遂げることができるならって。だから少しだけ幸福そうな顔をしてもいいのかなと思いながら最期を迎えたのですが・・・(笑)。
 小山田が勘助に美瑠姫に対する心情、子どものことなどを明かしたシーンがありました。小山田は勘助の由布姫に対する思いや、それが勘助の原動力になっていることを見透かしていたんですね。『そういう生き方はバカだけど面白いんじゃないの』というふうに共感するようになっていった。だからこそ勘助に自分の真情を吐露したわけで、やっぱり小山田は変わったんです。
 それにしても勘助のことは相当認めていましたね。武田家を会社にたとえれば、社員はみんな順当に泥水を飲んで、部長なり重役なりになっていった。ところが勘助はいきなり社長室長、参謀になった。入社以来、階段を上ってきた社員から見れば、たしかに面白くないですよね。でも小山田の場合は、もともと“武田商事”に並ぶぐらいの“小山田商事”があり、M&Aで合併吸収されたような感じなので(笑)、また違ったポジションから勘助を見ることができたんですね。

 
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